4話
村松と私はカウンターに並んで座り、村松が咳払いして何事かを話始めた。
仕方無いので耳を傾ける。志賀さんはカウンターの中の定位置でだるそうに腕を組んでいる。
「さて、皆さん。とりあえず一難去った感じではありますが……俺は何が何だか分からない上に、心情的に置き去り感が半端ないです。志賀さんは大人として、高瀬は俺をここに連れ込んだ責任をとって現状の説明を求めます。」
ワンブレスで言い切った! 運動部の肺活量半端ない。
「説明と言われても……私だって分かんないんだけど。」
「連れ込むとか、何かエロいねー」
「うわー、オヤジ感半端ないわー。志賀さんって何歳なのー?」
「今頃聞くー? かれこれエンマとは出会って一年たってるよね。」
「あー、そう言えばそんくらい?」
「ちょっと! 二人とも!」
あからさまに確信に触れない私達に、村松は苛立っているようだ。
「二人とも、何か知ってるんだろ?」
「それは否定しないけど、村松君? 君は知ってどうするんだ?」
「どうって、言われても。」
言葉が見つからないのか、俯いて唇を噛む。
自分が異様な状況に巻き込まれていることは理解しているようだ。
「村松。それさ、置いてく?」
未だ握りしめられている左手を指す。
「でも、これってさ。」
言いながら拳を開くと、そこには胡桃が一粒。
「胡桃だよね?」
「んー、胡桃に見えるね。」
おっかなびっくり見ていると、胡桃は徐々に輪郭を失い、消えていった。
「……消えたね。」
「……消えたな。」
私と志賀さんは村松の手の平を見詰める。
「結局、あの"子"は何がしたかったのかな?」
「俺に聞かれても……」
村松は眉を下げて私に助けを求めるが、あえて無視した。私だって何が何だか分からない。
一番事情を知っていそうな志賀さんは小首を傾げた。何歳かは知らないけれど、たぶん年の割には可愛らしい仕草が似合っている、ような気がする。
「村松君はさ、何て言ってそれ渡されたんだ?」
「俺の探し物か? とか、これ知ってるか? みたいな。」
もぞもぞと答えながら胡桃が消えた手を握ったり開いたりする。
「で?」
「で……あー、胡桃かなー? って……」
「で、押し付けられたと。」
こくりと頷いて「俺、大丈夫なのか?」と一人ごちる。
「あの"子"なりにそれの持ち主を探してたのかもね。」
「持ち主って、村松が胡桃を落としてたの?」
「俺、胡桃なんて持ち歩かねーよ。」
心当たりの無い落とし物に村松は慌てて否定する。
「そもそもあんまり食べないし。」
「いや、別に本当の落とし主でなくて良いんだよ。それの苗床になれる生き物なら何だって。」
何の問題も無いと言うかのように志賀さんは肩を竦めて笑った。
「苗床?」
私は全然穏やかじゃない単語を繰り返す。にこやかな志賀さんを咎めるように見てしまう。
その視線に、志賀さんは不思議そうに首を傾げた。
「どうした? 普通の事じゃないか。」
「苗床って……俺、肥料……?」
「いやいや、そうじゃ無くて。」
そうじゃ無いなら、何なのだろう?
志賀さんは面倒臭そうに溜め息をついて、言葉を続けた。
「主観の違いだよねー。」
ここ一年で分かっていることがある。
面倒臭がりな癖に、この人はお節介なんだ。
だから多分、大丈夫 。
きっとアスリートは肺活量凄いですね!
志賀さんの年齢は追々と……
いや、隠すほどの事なんて無いけどね!




