2話
「落ち着いたらとっとと出ていってくれるかなー?」
カウンター越しに志賀さんは腕を組んで眉をひそめる。
唇の薄い人は薄情だと聞いたことがあるが、その通りだと思う。
「ここ喫茶店よね。私はお客。」
志賀さんは心底面倒臭そうに舌打ちをする。
「私、モカにするわ。」
カウンターに4席、二人がけのテーブル席が2ヶ所。とてもこじんまりとしている。
私の左隣に座り、メニューを持ってボンヤリする村松を視線で促す。それに気付いて慌てて注文する。
「あー、俺はプリンアラモード。」
盛大な舌打ちが店内に響いた。
「好きなんだ? プリン。」
「うん……あのさ、高瀬。なんかさ……めっちゃ見てる。」
「そうねー、見てるわね。」
店の外から女が張り付くように覗いている。
髪で顔は見えないが、視線は物凄く感じる。
村松は怯えているにもかかわらず、何故かドア側の席についている。一応、女である私を守っているつもりなんだろう。良い心がけだ。
村松の横顔をガン見していると、チラチラとこちらを見てくる。
「なによ?」
「いや別に……」
「ちっ!」
コーヒーとプリンアラモードをカウンターに置いて、志賀さんは毒づいた。
「青春なら余所でやってくれ。」
「違うから。」
間髪いれず否定する。志賀さんの言う青春がどんなだか分からないけれど。
「この人と知り合い?」
生クリームを口に運びながら問いかけてくる。
「そだねー。知り合いだねー。」
「んー? あの、村松壱樹です。よろしくお願いします。」
何だかよく分からない状況にいるせいか、近くにいる大人になにか期待でもしているのか、村松は志賀さんに頭を下げた。
「何に対してだよ?」
不機嫌そうに腕を組んだ志賀さんは重心を左に置いて肩を竦めた。
「大人だし、ここに住んでる人っぽいし。」
村松は目を閉じて深呼吸した。
「あれは何ですか?」
顔を背けながら、目で窓に張り付く女を指した。
「あれは"子"だ。」
「こ? こ、って何ですか?」
何を指す"こ"なのかがわからず、村松は質問を重ねる。志賀さんは面倒臭そうに私を見る。
「子供の"子"?」
「そ、正解。あれは"子"だな。」
「えー? あれが子供?」
大人に見えるけどなー、等と呟きながら村松は女が覗く窓をチラリと見ては、すぐに志賀さんへ向き直る。どうしても正視に耐えられないようだ。
「……誰の"子"なの?」
「さー?」
「あー、大人になっても我が子は子供的な?」
村松はプリンを頬張りながら、適当な事を言う。
「狭間ではあれらは昔から"子"だからねー。」
「そう……随分と物騒ね。」
「へぇ、エンマにはそう見えるのか。」
「閻魔? 高瀬の事? あ、失敗したー、先にチェリー食べれば良かった。」
どうやら先に食べてしまった生クリームのせいでチェリーが甘く無かったようだ。
「村松君はさ、あの"子"どう見える?」
「え? んー? 子供って思ってみたら、何か…… 困ってる、感じ? あ、すみません。紅茶下さい、温かいので。」
考える事を放棄したのか、村松はかなり自分を取り戻していた。
村松はスポーツマンなので炭酸は飲みません。




