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土星の魅力を甘くみるな

二人は次の星を目指す途中に貴重なピラミッドへ行き着いた。

それは低木林の密林を背に堂々と居座り、その荘厳な雰囲気に圧倒される。

頂上には夕陽を吸収してさんさんと煌めく結晶が咲いていた。

また、階段に沿って珍しい彫刻が彫られていた。


「羽の生えたヘビ?」


「ククルカン。神様よ」


「それもフィナからの贈り物?」


「うん。そして、このピラミッドは暦のピラミッドよ」


「これで暦が分かるのかい」


「そうみたい」


「すごいなあ」


「ね」


和やかな二人を見て、仲間の星たちも穏やかな気持ちになった。

星たちは二人に聞こえないよう秘密の会話をはじめる。


「あたし、この二人を守りたい」


「自分もその考えには賛成よ」


「メルもがんばる!」


「わたくしももちろんお助けします」


「みんな賛成か。何だろうなこの熱い気持ちは」


「メル達はお星さまだから惹かれ合ってる。だから似てて当たり前だよ」


「面白いね。自分達は同じ星だから同じ思いということか」


「かなり熱い気持ちだぜ、なんかもっと特別な感じがする」


「ウェヌスは元々熱いからじゃないかしら」


「ユピテルとは反対だな!あれ、思いは同じなはずじゃあ」


「性格まで似たら気色悪いじゃない」


「それどういう意味だ」


「喧嘩はよしてください」


「そうだよ!仲良くしなきゃ、仲間割れは一番ダメだよ!」


「あたしマルスと絶交する」


「よし。自分も君とは絶交よ」


「ダメだってばあ……!やめてよぉ……!!」


「あらあらメルちゃん泣いちゃった。よしよし」


「ふぇぇん……」


「ごめん。悪ふざけが過ぎた」


「君は本当によく泣くね。そこが可愛いんだけれど」


「二人とも嘘ついたの……?」


「そんなとこさ」


「本当にごめん」


「もー!ひどいよ!」


「まあまあ、よしよし」


この会話は全く聞こえていないが、ドタバタとした騒ぎを騎士は首飾りからハッキリ感じていた。

心配して、声をかけてみる。


「みんなどうしたの」


「メルをいじめるの!」


「あら、それはひどい」


「アレッタ!これはメルたちにとって大事な問題だよ!」


「そうね。二人とも反省したかしら」


「どうしてあたしとこいつだって分かるの」


「のほほんなユピテルと泣いてるメルを除いたら二人しかいないから」


「自分もしっかり含まれてるのね」


「それは、何となくかしら」


アレッタのいい加減な推理に呆れた一行は、くだらないおしゃべりは控えることにして旅を再開した。

それからしばらく、低木林を歩いていた騎士の姿が吸い込まれるように一瞬で消えた。


「あら」


驚いたアレッタが見下ろした大穴の先には水が流れていた。


「……良かった。罠かと思った」


ほっとするも束の間。

アレッタは一人になったことに気付いて、スタリオンとなって流される騎士を追いかけた。


「だめだ……」


騎士は今にも、今溺れていた。

鎧と武器のせいで泳ぐことが出来ない。

重ねて驚いたアレッタは、慌てて彼に宿った。


「これで大丈夫」


騎士は息を止めるのに限界でもがき苦しんでいる。

アレッタは優しく、落ち着かせるように言った。


「大丈夫。私と一緒なら水の中でも苦しくないよ」


騎士が試しに呼吸を試みると、空気だけが直接体内へと送り込まれた。

さらに、水の中でも自由に泳ぐことが出来る。


「すごいよアレッタ!」


「えへへ」


騎士はしばらく水泳を楽しんだ。

それからやがて、海へと放り出された。


「海だ!」


「わあ、私はじめて」


「メルも!というかみんなもだよね」


「ようし。わたくし、一泳ぎしてきますね」


「いや泳げるわけないじゃん」


「本当だわ。残念……」


「ユピテルはアレッタに似て天然なとこあるのね」


「見て、みんな」


騎士が砂浜を見つけて陸に上がる。

都合のいいことに、星は崖上の都市にあるようだ。

細い階段を上がると、珍しい遺跡達が迎えてくれた。


「ここにあるのは神殿や宮殿みたい」


床に細かく散らばる結晶から反射する光が、白い建物たちを極彩色に飾っていて心を清らかにしてくれた。


「綺麗なところだ」


「潮風も気持ちいいね」


二人が遺跡を眺めていると、物々しい騒ぎが地響きと同時に伝わった。

その方へと目をやる。


「来たか、ダークマターだろう」


騎士はハルバードの先を目標に定めた。

対象は神殿を背負ったヤドカリに似た姿をしている。


「可愛い、かしら」


「どこがだい……」


どうやら、まだ星は完全には取り込まれていないらしい。

敵が背負う神殿に捕らわれているとアレッタが言う。


「ウェヌス!」


両手にハンドキャノンを握って熱の弾丸を撃ちまくる。

その畳み掛けるような攻撃に敵は怯み、立ち込める爆煙は、視界を遮るいい煙幕になった。

続けて騎士はマルスの力を使い急接近した。

ところが、敵が立派なハサミを瞬発的に振るい、それを騎士はなんとかかわして距離を取る。


「目を塞いでもダメか」


「ここは、お姉さんに任せて」


「木星の力。よし試そう!」


ユピテルが宿る。扱いは閃いて理解した。


「いくぞ!」


騎士の接近を瞬時に察知してハサミが降り下ろされる。

しかし、そこに彼の姿はない。

次に彼は反対方向に現れた。

ハサミで挟んでやるも手応えはない。

敵は不思議に思っている。


「それは幻だよ」


隙をついて、騎士は無事に神殿へと到達した。

その奥、祭壇に奉られるように在る白い光に手を伸ばす。


「おそーい」


「ごめん」


「うちはサテュー。よろしくー」


「よろしっととと!」


敵が身を揺らして激しく暴れだす。

騎士は緊急で脱出した。


「取り返したよ」


「よく出来ました」


アレッタはそう言って小さく拍手した。


「さてと、あれを倒さないと」


騎士は幻を駆使して敵を惑わし欺き、攻撃をかわすたびにハルバートで敵を殴打した。

だが、硬い殻にはヒビすら入らない。


「やっぱり手強いな」


「こーゆう敵は、うちに任せなー」


敵のハサミが幻を切断する。

遅れて音がして、敵のハサミが粉々に砕けた。

騎士が握るハルバードは先に球体と回転する光輪を備えたメイスに変わっていた。

敵を目前にして堂々と勇み立ち、わざと次の攻撃を誘う。


「せえあ!」


誘われて頭上より迫るもう一方のハサミを粉々に打ち砕いてやった。

敵は神殿を背中から降ろして、体躯を高くして本気の威嚇をする。

そして、砕かれてより鋭くなったハサミで騎士に襲いかかる。

その動作はさきほどより速い。


騎士は盾でもってその連続的な攻撃を耐え忍んだ。

動きが鈍ったところで、また距離を取る。


「いくよ!サテュー!」


騎士がメイスを振りあげると、星の欠片で出来た鎖が遥かに伸びて、先端の球体は高く、もっと高く上がった。

流れるようにフィッと風を割いてメイスを降り下ろす。

すると、流星が如く先端が敵目掛けて落下した。

その衝撃は敵が地に伏せるほどの威力だ。


「まだまだ!」


騎士は縦横無尽に球体を降るって追撃する。

回転する光輪がより敵の防御を削る。

それに敵は辛抱堪らず、がむしゃらに騎士のもとへ駆け出した。


対する騎士は、メイスをハルバードに戻して時を待つ。


「っ今だ!」


迫る敵の頭目掛けて騎士がハルバードを限界まで突き出した。

ヒビの入った殻は脆く砕け、先端の槍が強く深く突き刺さった。


「ふう……」


一方で敵のハサミは、騎士の首に食い込んだところで静止している。

沈黙があって、黒い粒子となった敵は潮風に運ばれて水平線の彼方へ消えた。


「お疲れさま」


「ありがとう。サテューもありがとう」


「お疲れさま、サテュー」


「うーい」


サテューは気だるそうに首飾りへ宿った。

仲間たちが彼女を快く歓迎する。


「ねえアレッタ。僕、強くなったかな」


そう言う騎士の顔は自信に満ち溢れていた。

アレッタはそれを、自分のことみたいに喜んだ。


「うん!かっこよかったよ!」

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