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君の笑顔が力にも救いにもなる

大きな水溜まりが点在する広大な湿原。

陽は柔らかで風は穏やかで、ここを歩いていると心に滞るすべての苦痛を忘れさせてくれそうな気がした。


「何もないね」


「それはいいことだよ」


アレッタの様子がどうもおかしい。

時折、うつ向いてはしょんぼりした顔で何かを考えている。


「アレッタ」


「ん?」


「辛いのかい」


口をつぐんで黙った。

その目は騎士から離れようとしない。


「あなたを失うことが怖いの」


「僕はいなくならないよ。君と約束したから」


「勝てると思う?」


「もちろんさ」


「無理はしないでね」


「うん。この闘いは君のためでもあるんだから」


地平線の上で止まる夕日を眺めてアレッタはやっと笑った。

騎士はその笑みにいつも救われている気がした。

彼女が笑ってくれるなら、どんなに辛くてもきっと、この先心が挫けることはないだろう。


「敵襲ね」


マルスが察知する。

平和な時はあっという間に終わってしまった。

いつどこでも、お構い無く彼らは突然に騎士に襲いかかる。


「メルちゃん、がんば」


「ええ!ウェヌスが頑張ってよ!」


ウェヌスの意地悪にメルはすっかり怯えてひっこんでしまった。


「とにかく。まずは、どんな敵か知らなくちゃ」


騎士が様子を伺いジッとしていると、点在する水溜まりがポツポツと泡立ちはじめた。

それは沸騰するように激しくなって、中から小魚の群れが勢いよく飛び出した。


「骨!?」


「きっと養殖してたのね」


「だとして、僕を恨まれても困るな」


騎士はウェヌスの力を借りてハルバードをハンドキャノンへと変化させた。

一方で魚の群れは編隊を組んで水溜まりから水溜まりへと跳びはねる。

あちらこちらでそれが起こり、騎士はどう出るか動きを待つことにした。


「はやく撃ち落とそうぜ」


ウェヌスが提案する。

しかし、マルスはそれを否定した。


「攻撃を見極めてからでも遅くないでしょう」


「そうだね」


賛成して騎士は待ち構える。

攻撃に出ない騎士に対して、魚群がついに動いた。

まとめて上空高く飛び上がり、雨のように降り注ぐ。


「これは想定外だな」


さすがにたじろぐ騎士。

他の力に変えようか迷ったその一瞬。


「ここは私に任せて」


アレッタが水流を傘にして攻撃をしのいだ。

水流に弾かれた骨は砕け、残りは全て地面に突き刺さった。


「ありがとう」


「私、力になれたかしら」


「ああ、助かったよ」


と、骨が再度元気に跳ね上がる。

二人は背中を合わせた


「アレッタ!」


「うん!」


二人は息も合わせて、全方位から迫る魚群に臨む。

騎士は熱の弾丸を、アレッタは水流を放って確実に敵を撃ち落としてゆく。

背にいる大切な人を傷つけないためにも、一匹たりとも撃ち漏らすことはない。


「ウェヌス!もっとだ!」


「しゃ!燃えてきたー!」


騎士の盾までもハンドキャノンへと変化した。

両手に武器を持ってさらに銃撃を加熱させる。

アレッタも水流をムチのように操って、なぎ払うように敵を打ち砕いた。


「やったあ!」


「やるじゃない二人とも」


メルが喜び、マルスが称賛する。

騎士とアレッタは顔を見合わせて勝利を微笑んだ。


「お疲れさま」


「君こそお疲れさま」


「あたしは?」


「ウェヌスもお疲れさま」


一息ついて、二人はまた旅を再開した。

騎士の隣でアレッタが小さな声で話す。


「私は夢みたいな記憶を見たの」


「夢みたいな記憶?」


「あなたがね、ひとりで苦しんでいるの」


アレッタはうつ向いて立ち止まってしまった。


「明るく振る舞って楽しくいようと思っても、それを思い出すとどうしても胸が痛いの」


「だから君はそんなに悲しい顔をしていたんだね」


アレッタは小さく頷いた。

その頭を優しく撫でて騎士は言う。


「僕は君の笑顔のために闘っている。そんなに悲しい顔をされたら困るよ」


「でも……!」


「大丈夫」


少し落ち着いて、アレッタは騎士の胸に頭を預けた。

優しく撫でて慰めてくれた記憶が現在と重なる。


「大丈夫だよ」


「わかった。私、元気に笑うね」


「それが力になる。頼んだよ」


「うん」


アレッタの元気な笑顔に、騎士の動悸もようやく落ち着いた。

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