爆裂溌剌の金星
一行は丘陵を上り下りして、さらに森の中を進んでようやく、夕陽に映える最大規模の遺跡都市へ到着した。
森を突き抜けてそびえる、美しい飾り屋根が特徴的な巨大神殿が何より目立つ。
また、結晶はここにも当然ある。
「まるで森の中に隠された都だね」
「これはベッドかしら」
アレッタはいつの間にか、大きな石の基盤の上にズラッと並ぶ小さな建造物の一つにいた。
そしてそこに備えられた細長い石に寝転んでみた。
「寝心地はどうだい」
「うん。柔らかい敷物がほしいな」
「二人とも、自分たちは観光に来たんじゃないでしょう」
マルスに叱られて、アレッタはほんの少ししょんぼりした。
ところが直ぐに機嫌を取り戻す。
「見て、向こうに大きなピラミッドがたくさん並んでるよ」
「本当だ。すごいなあ」
「さあ、行こう」
二人の好奇心は収まりそうにない。
目を輝かせて、仲良く遺跡の観光をはじめた。
「楽しいね、マルス」
スタリオンになったメルも、二人につられて上機嫌に踊っている。
「そうね。こういうのもいいか」
「あらマルス、許してくれるの」
「許すもなにも、自分はもっと気を引き締めてほしかっただけよ」
「私、気はいつも引き締めてるよ」
「目がキラキラしてるじゃない。まったく、何がそこまでさせるのかな」
それからも一行はのんびりと散歩して、森を貫く最も高い赤い神殿へとやって来た。
「ここも儀式を行う神殿かしら」
「この上の部屋に星がいるんだね」
「うん」
騎士は一人で階段を一段ずつ慎重に上がった。
その頂点に部屋がひとつあった。
目を凝らして奥を覗くと、弱々しい金色の光が浮いていた。
「大丈夫?」
返事はない。
遅れてメルが来た。
「寝てるね」
「え?」
対象は気持ちよく眠っているらしい。
メルが近寄って声をかけた。
「あの……!」
「ん?」
「あなた、ウェヌスだよね」
「あんたはメルちゃんだな。せっかくだし一緒に寝ようぜ」
「ダメだよ!この世界を救うために一緒に来て!」
「それは、ちょいと面倒だな……」
「寝ちゃだめ!」
騎士がウェヌスにそっと触れる。
熱い想いをその手に感じた。
「ウェヌス。君の力を貸してほしい」
「貸すよ。でも待って」
「眠いの?」
「んにゃ、敵が集まるのを待っているのさ」
「え?」
「敵は手強い方が燃えるからな」
そこへ、アレッタが慌てて上ってきた。
森を指差して警告する。
「ダークマターがたくさん来たよ!」
森の上に巨大な雲のような影を見つけた。
グネグネと蠢いて気味が悪い。
「大きいね」
「奴らは群れよ。覚悟なさい」
群れと聞いて、騎士は炎の猿との激闘を思い返した。
出来れば多数を相手に闘いたくはない。
「しゃ!やりますか!」
いきなりウェヌスが騎士の体へ宿る。
彼女に感化されて闘志が沸き上がってきた。
「金星の力を見せてやるぜ!」
騎士のハルバードがハンドキャノンへと変化する。
「かっこいい!」
「だろう?さっさと闘おうぜ」
闘うための扱い方はもちろん閃き伝わっている。
「でも、その前に降りなきゃ闘えない」
騎士は階段を駆け下りて、敵の軍勢を待ち受けた。
かなり近付いて、敵の正体が判明した。
「ハチだ!」
「アリじゃないかしら」
「アリって飛ばないよね」
「飛ぶよ。羽があれば」
「でも」
「よーく見て」
言われて、よーく見てみる。
頭から尻までしっかり観察する。
「ほら、針がないでしょう」
「アリだったのか……!」
「ハリナシハチじゃない」
「ウェヌス、きっとそれよ」
アレッタはハリナシハチとして納得したようだ。
そいつらは、一匹一匹が幼児と同じくらいの大きさをしていた。
そして騎士は完全に包囲された。
「参った。よく囲まれるなあ」
「馬鹿ね。お喋りが過ぎるからよ」
「マルスちゃん。ここはあたしの見せ場、黙ってな」
「そ、なら見せてごらん」
騎士が銃口を敵群の一部へ向ける。
警戒して動かない今が絶好の機会だ。
「あんた外すなよ」
「任せて」
引き金を引くと熱の弾丸が放たれて、刹那に炸裂した。
爆発の凄まじさがその威力を表す。
「後ろ!」
アレッタの注意を受けて、騎士は振り向き様に弾丸を放った。
また激しい爆発が起こる。
敵群は散り散りになった。
「今だ!全部撃ち落とせ!」
騎士は次々と敵を撃ち葬ってゆく。
瞬く間に、黒煙と炎の臭いだけを残して敵を殲滅した。
「じゃ寝る」
「待ってウェヌス」
「なにアレッタ」
「あなたも感じるでしょう」
「まだいたか。大物が」
振動と共に何かが迫る轟音が森の奥から聞こえてきた。
騎士はハンドキャノンをその方へ向けた。
草を突き破り、遥かに大きな鉄球が転がり飛び出す。
ハンドキャノンを受けてもその猛進は止まらず、何とか盾で凌ぐも、騎士の体は弾き飛ばされて遺跡へと叩きつけられてしまった。
「くっ……!」
「大丈夫!?」
アレッタがすかさず駆け寄る。
騎士へのダメージは想像以上に大きい。
「アレッタ。僕は大丈夫、まだ闘えるよ」
鉄球は二人を目前に猛進を止めて、二人に覆い被さるようにその正体を表した。
鋭いカギヅメを持つ巨体のアルマジロだ。
「メル!」
アレッタを庇いながら、降り下ろされるカギヅメを何とか盾で防いで。
「アレッタ!」
間髪入れず敵の腹部へ渦巻く激流を突き出した。
敵は吹き飛んで地面に背中から落ちた。
直ぐに立ち上がるも、腹部へのダメージは深刻のようだ。
「ウェヌス」
アルマジロは再び体を丸めた。
騎士は片膝をついて狙いを定める。
「策はあるの?」
「もちろんさ」
騎士はアルマジロの手前、地面に弾丸を放った。
直後、地面はめくれ上がり、爆炎の中から敵が上空へ飛び出す。
さらに思わず体の丸みが緩んだ敵はとっさに変身を解除した。
「今だ!」
カギヅメが騎士の頬をかすめる。
弾丸は敵の腹部を撃ち貫いた。
敵の背後で遅れて炸裂、敵は一瞬で靄となり、衝撃波に消えた。
「お疲れさま」
「ありがとう。なんだか敵が手強くなっている気がするよ」
「それでも負けなきゃいいじゃん」
「ありがとうウェヌス。もちろんそのつもりさ」
ウェヌスは首飾りに宿って、メルと仲良く休眠した。
騎士がアレッタへ向き直り手を差し出す。
「もう少し散歩しようか」
「うん」