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命溢れる地球の力

冷たい風が騎士の鎧へ霜を貼り付ける。

まだ若いばかりの少年騎士は雪の積もる針葉樹林を孤独にさ迷っていた。


記憶もなく当てもなく歩き続けてどれくらい経ったろうか。

いつから自分は歩いているのか、それも曖昧だ。


針葉樹林をようやく抜けた。

なだらかな坂道の向こうに石造りの町が見えた。

あそこに人がいると信じて騎士は歩を進める。

そこへ、ひゅっと風を割いて、空から何か黒い物が三つ雪の上に落ちた。


右手の盾を、左手のハルバードをしっかり構える。

黒い物は人間のなりそこないのようだった。

とても不格好で足元がおぼつかず、ひとりでに転んだ。

しかしすぐに立ち上がって、粘っとした口を開いて騎士を威嚇した。


騎士はそれに怯えることなく前進して、ハルバードを素早く降り下ろす。

斧となっている刃は見事に一体を真っ二つにした。

残る二体が同時に腕を降り回す、それを盾で防いで、まとめて横に一閃、切り裂いてやった。

切り捨てられた三体は雪を蝕むように溶けてなくなった。


「いったいこいつらは何だろう」


疑問に思うが考えても仕方ない。

騎士はまた歩き出した。

しばらく苦労して、やっと町へ辿り着く。


そこは、広大で芸術的な都だった。

まず初めに感動したのが、雪景色と一体となった、白い岩で出来た壮観な美しいピラミッド郡だ。

また、どの建造物にも緻密な絵や文字が彫られていて、さらに宝石の様な結晶が生えるように突き出ていた。


丸彫りに近い石碑や迫力ある彫像の数々を興味深く観察しながら町を歩いていると、遠くに相応しくない建造物を見つけた。

突然、そこから鐘の音が都全体に響き渡った。

どうもあれは教会らしい。


騎士の胸に締め付けるような痛みが走った。

それに、教会へ来るよう誰かに呼ばれているような気がした。

自然と足早になる。


いくらか歩いて、階段を上がって広間に出たところで、ひとりポツンと佇む少女を発見して立ち止まった。

青い髪の後ろで白く短い髪を結わえた少女。

彼女は、ちらちらと舞う雪を見上げていた。


「やっと会えたね」


彼女はこちらを振り向いて寂しい笑顔で言った。


「君は?」


「私はアレッタ。あなたを待っていたのよ」


「僕を?君は僕を知っているのかい」


「わからない」


彼女は拍子抜けするくらい、あっさりとそう答えた。

しかし不思議なことに、騎士もまた彼女のことをよく知っている気がした。


「僕には記憶がないんだ。けれど、君のことを知っている気がする」


「私もよ。きっと、惹かれ合うように巡り会ったのね」


「それはどういうことかな」


「星と星がそうであるのと同じ、かしら」


ここで再び鐘が騒がしく鳴る。

先程よりも大きな音で、まるで警告するように全身を震えさせた。


「嫌な予感がする……」


「あの教会には水星がいるの」


「水星?」


「この世界を救うためには、星の力を集めなくちゃいけない」


そう話しながら彼女は、羽や宝石等の装飾品が左右対称についた首飾りを外して、騎士の首へ移した。


「あなたが救うの。この世界を」


「僕がこの世界を救う」


「うん。あなたは星飾りの騎士になるのよ」


騎士はこの普通ではない状況でも混乱することなく、彼女の翡翠の瞳を真っ直ぐに見て迷うことなく決心した。

騎士は大切な何かを守る存在だから。


「分かった。僕に出来ることは何でもするよ」


アレッタは騎士の手を引く。


「さあ、行こう」


町を駆け上がって教会へ着いた。

正門を押し開くと、ギィ……と重い音を立てた。

鋼で作られたらしい漆黒の教会は、鈍い輝きを不気味に放って訪問者を威圧した。


「中で彼女が怯えている。助けてあげて」


「分かった」


と、小さく一度、重い音が聞こえた。

とっさに振り返るも正門は閉ざされている。


「上!」


アレッタの叫びに盾を上空へ向けて構えた。

甲高い音がひとつ響いて、あまりにも重すぎる衝撃に騎士は雪の上に倒れ込んだ。


「何だあれは!」


曇天を円を描いて飛んでいたのは、コンゴウインコを模範した彫像だった。

その大きさは騎士と変わりない。


「アレッタ見て!彫刻が飛んでる!」


「すごいね」


「え?」


アレッタはこの異常事態でも呑気に構えている。

彫像はそんな彼女には目もくれず、一直線に騎士のもとへ急降下した。


「くっ!速い!」


何とかかわして態勢を整える。

彫像はまた上空へと飛び上がり、今度は滑空しながら火の玉を口から吐いた。


「これは一体どうすればいい」


盾に身を隠して必死に耐え忍ぶ騎士。

流水音のあとに、彼の身は水に包まれた。


「これは……!」


火の玉はそれを打ち破ることができない。

騎士のもとへ、淡い紺碧の光が漂い近づく。


「私の力を使って」


「アレッタ。もしかして君なの」


「うん。さあ、行こう」


アレッタが騎士の体へと宿り同調する。

すると体が胸が温かくなって、頭の中で星の力の扱い方が閃いた。


「わかる!闘いかたがわかるよ!」


騎士はハルバードに渦巻く激流をまとわせた。

それは巨大な水の槍を思わせる。


「せえあ!」


ハルバードを突きだすと、激流は水流となり、伸びて鋭く彫像を突き刺した。

彫像は教会の外壁に叩きつけられて雪の中へ沈んだ。


「まだ来るよ」


アレッタの言葉に構える。

雪を払って彫像は羽ばたき、さらに攻撃的に騎士に襲いかかった。

騎士は再び激流をまとわせたハルバードで応戦する。

四方八方から自在に直接攻撃するも、騎士は難なくそれに対応した。

激流に抉られ、徐々に彫像が削られてゆく。


「もう高くは飛べないはず」


騎士は火の玉を切り払ってハルバードを握る手に力を込めた。


「今だよ!」


アレッタの合図で、一番に力いっぱい槍を突きだす。

激流は激しさを増してさらに巨大になった。


「せえあああ!!」


激流は彫像の中心を見事に捉え、一気に削り散らした。

彫像は微塵となって、最後には跡形もなく溶けてなくなった。


「ふう……」


「お疲れさま」


アレッタが騎士と分離して人の姿へ戻る。


「ありがとう」


騎士は呼吸を整えて、それから教会の門を押し開こうとする。

ところが、かなりの重量でこれが中々に開かない。


「重い……」


苦労する騎士を見て、アレッタが手のひらから放つ水流で門を軽く吹き飛ばした。

門は教会内を跳ねて奥の壁を貫通してからどこかへなくなった。


「あらま」


「やりすぎじゃないかな……」


「そうね」


雪の静けさが戻って、奥からすすり泣く声が聞こえてきた。


「メルキュリアス」


「はあーい」


アレッタの呼び声に弱々しくも反応があった。

教会内のどこかに彼女は隠れているらしい。


「メルキュリアス」


「はあーい」


そのやり取りがもう三度続いて、椅子の陰に隠れて怯える彼女をやっと見つけることが出来た。

それは青に黄色輝く光だった。


「君がメルキュリアス?」


「ひゃあ!」


騎士が覗きこむとメルキュリアスはまた別の椅子へと隠れてしまった。


「大丈夫よ。おいで」


「怖くない?」


「怖くないよ」


アレッタのことは信用するようだ。

彼女はやっと目の前に来てくれた。


「はじめまして騎士さん。メルキュリアスだよ」


「はじめまして」


「騎士さんがメルを助けてくれたの?」


「そうなるかな」


「ありがとう!」


彼女は騎士の周りを上下にふわふわ舞って喜びを表現した。


「君は人の姿になれないの?」


「うん。アレッタは地球だから特別なんだと思うよ」


メルキュリアスはそれだけ言って、首飾りの宝石へ宿った。

騎士は微かな温もりを感じた。


「ここに入れるんだ」


アレッタがそれに答える。


「星の粒子、スタリオンにとってそこは家みたいなところなのよ」


「狭くないのかな」


「快適よ」


「そうなんだ」


「メル……泣いて疲れたから寝るね……」


「うん。おやすみ」


アレッタは優しく宝石を撫でた。

騎士は、それがまるで妹をあやす姉のようで微笑ましい気持ちになった。


「アレッタ。僕には分からないことだらけだ」


「私もよ」


「何か覚えていることはあるかい」


アレッタは教会の外へ出た。

騎士が続いて外へ出ると、雪はすっかり止んで空は夕焼けに染まっていた。

その空を指差してアレッタは話す。


「惑星の力は空から落ちてバラバラになってしまったの。この都のあちこちにある結晶はそのカケラ」


「あれは星のカケラだったのか」


「うん。都を守ってくれているみたい」


「何から……さっきの怪物だね」


「うん、あれはダークマター。スタリオンは助けてあげないとあれに取り込まれてしまうの」


「それは大変だ。他に覚えていることは?」


「分からない」


「そうか。ごめんね、僕は自分の名前さえ思い出せないんだ」


「大丈夫よ。気にしないで」


アレッタは騎士の手を取る。


「さあ、行こう」


「どこへ?」


「うーん。あっちかしら」


「そんなに適当で大丈夫?」


「星は惹かれ合うものだからね」


「それなら安心だ。行こう」


「うん!」


二人の物語はここから始まる。

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