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14話 装備調達


 タルトを2皿ペロッと平らげたエリナは満足そうにカフェを後にした。

2つ合わせて1万クレジットの出費に青い顔をしていたが、会社にツケるのだけは頑なに拒否しておいた。

 元々休憩で高級な店に足を運んだのはエリナの責任だ。俺は悪くないはず。

 コンテナを背負いながら会社へ戻る途中で、エリナが情報屋から予約した依頼で使用する銃器を借りにクラインPMCが契約している銃器店(ガンショップ)へと出向いた。弾薬を購入した店とは別に契約している店だ。

 そこで彰吾は頭を抱えたくなるほど、大きなため息をつく事となった。


「――はぁ!? 銃を渡せないってどういう事よ!!」


 エリナの抗議は銃器店のカウンターを激しく叩いた。

悪質なクレーマーに近い行動でも対応する店員は臆する事無く、ただ困惑気味に言葉を選ぶ。


「ですから……会社から伝達されていませんか? エリナさんに毎回貸し出した銃は破壊されるか、無くされるかでこちらも商売上がったりなんですよ」

「戦闘は過酷なのよ!」

「せめて戦闘後には回収してくださいよ。――とにかくも、私の方ではエリナさんへの武器供給は一旦凍結させて頂きました。これ以上ゴネるようでしたらクラインPMC全体への停止も視野に入りますよ?」


 ジロリと軽蔑のような店員の視線を受けたエリナは挑発と見て顔を歪める。

更に突っかかろうとするエリナを彰吾は手で制する。


「エリナ、これ以上は駄目だ」

「――ッ、分かってるわよ!」


 会社の名前を出されたらエリナは黙ることしか出来なかった。

ただでさえ社内の風当たりが悪い。ミーシャさんへの迷惑を考えると何言われるか分からない。

 彰吾の姿を見た店員が珍しそうに見る。


「TYPE-2ですか? そちらのオートマタを買取でしたらライフルの提供を行っても大丈夫ですが」

「あ、いえ。会社の備品なので間に合っています」


 エリナが激情して俺を売ろうとする前に店員の言葉を遮る。


「エリナ、予備の銃を保管とかしてないのか?」


 武器の調達が出来ない事に、現状で持っている予備の銃が無いのかを尋ねる。

 武器の供給だとしても戦利品を持ち帰る仕事上、敵のオートマタが使用していた銃を持ち帰る事も有るはずだ。自分が装備しているハンドガンのように。

 多少なり手だてが有る言葉を期待したがエリナは首を横に振る。


「予備のライフルも使い切ってたのよ。困ったわね……今月はただでさえ赤字なのに」


 それはタルトを食べたからだ、と口に出そうになったのを無理やりこらえる。


「他の店は駄目なのか? 弾薬を購入した所とかは?」

「無理ね。契約してないから割高よ」


 一般的なアサルトライフル1丁の相場は約10万クレジット。未契約であれば5~7割ほど価格が上がる。

もちろんピンキリはあるが、ある程度の品質を保ってなければ、銃の故障が原因で死にました。とは目も当てられない。


「他の社員に銃を借りるのはどうだ?」

「アゴスからは前々回に借りてたの。その前はファズからも借りてるし」

「マーカスも怒る訳だ」

「うるさいわね!」


 と言っても命のやり取りをする生活であるため、そう何度も簡単に渡せる物ではない。

 エリナは店員へ胸を張って振り返る。


「倍にして返すわよ」

「エリナさん、その台詞は前回も前々回も言ってましたよ?」

「嘘だろ」


 エリナはその体勢のまま冷や汗をダラダラと流す。

 胸を張って言う事がそれだったのか。彰吾はまた大きなため息を着きたくなった。

 装備が無ければ依頼を予約した意味が無い。いや、調査なら戦闘を考慮しなくても大丈夫ではなのだろうか?

現状でもエリナはコーカスハンドガンを手にしている。ファクトリー内での戦闘を思い返すと、ハンドガン一つでも不可能ではないと思う。


「ハンドガンだけでの調査は出来ないのか? エリナの腕なら不可能じゃ」

「無理よ」


 そんな淡い期待をエリナはバッサリと切り捨てる。

何ふざけた事を言っているのか、と言うように彰吾を睨みつける。

 

「調査は名目だから実際は討伐よ。それにハンドガンだけで相手出来るほどオートマタは容易くないわ。今回は山岳地帯だからファクトリー内での戦闘と違ってハンドガンだけだとリスクが桁違いになるわ」


 可能なら岩陰に隠れて何をしているか確認だけでも、と思ったが違ったらしい。

ファクトリー内だと近接戦闘がメインとなる為、屋外である山岳地帯だと武装が心許無いとの事だ。

 エリナは胸元で腕を組み、顎に手を当てながら思考する。


「5.56ミリのアサルトライフル、せめてアサルトカービンと予備弾倉5つは持っておきたいわね」

「でも当てがないんだろう?」


 その言葉に反応するよう顔を上げると、彰吾の身体をジロジロと見定めるように視線を動かす。

そしてニヤリと口角を歪めた。

 悪い顔だ。何か悪い予感がする気がする。


「大丈夫、一つだけ当てが出来たわ」

「……本当に大丈夫なんだろうな?」

「勿論大丈夫よ。ほら、着いてきて」


 そそくさと銃器店を離れたエリナは目的地へ足を進める。

彰吾は店員へ謝罪の意味を込めて頭を下げると、慌ててエリナの後を追いかけた。

 エリナが目指す目的地は喧騒な町並みから少しずつ離れていき、商業地区の最端とも言える場所だった。

ポツンと離れた場所に建ててあるコンクリートで作られたような灰色の一軒家が見える。

一軒家の辺りには意味の分からない機械の部品が転がっており、廃棄場か何かと思えてしまう。

 本当に自分を売りに来たのか? と不安が募る一方、エリナの心意を確認しようにも曖昧にはぐらかされる。

 エリナは玄関らしき箇所の足元に有る機械の塊を蹴って退かすと、扉に付いているベルをカランと鳴らした。


「ブリンクマン博士、居るかしら?」


 シーンとした静寂にエリナは2度3度とベルを鳴らす。

それでも博士と呼んだ者は姿を現さない事に苛立ったのか、エリナは扉へ手を掛ける。

軽く引いただけで鍵は掛かっていないらしく、エリナは建物の中へと足を進める。


「勝手に入って大丈夫なのか?」

「大丈夫よ。それに多分地下で作業中だと思うし」


 エリナは慣れた様子で室内へ進む。

中は更に物が溢れ返っていた。空の容器や工具らしき道具が所狭しに床の面積を圧迫しており、油に混じった特有の科学薬品の臭いが充満している。

 こんな所で人は住めるのか、と疑問に思うがエリナは特に気にする様子が見られない。


「ブリンクマン博士って一体?」

「変わり者で有名な変人よ。技術者として腕は確かだけど変人なの」


 変わり者と変人を合わせて3回出てくるほどの人物だそうだ。

技術者なのは家の前を見た時からなんとなく理解出来ていた。ジャンク屋と言った方が分かりやすい。

機械弄りが趣味の技術者、といった評価だ。発明品らしき変わった機械の固まりが転がっているが、エリナが言うぐらいだから腕は確からしい。

 ゴミの山をかき分けると、エリナが地下に続く階段を見つけた。

階段の先には機械の作業音が少し聞こえる。

防音加工されているのだろう。壁を伝って振動を感じるが、音はそれ程大きく感じない。

 階段を降りて1枚の分厚い扉を開けると、盛大な音が響き渡った。

あまりの大きさにエリナも耳元を抑えている。

銃声を緩衝させるイヤーピースを装備していても突き抜ける程の爆音だ。

 爆音の中心ではイヤーマフを装備した老人が切断機らしき工具で火花を散らしながら金属の固まりを切り出している。

音楽を聴いているかのようにノリノリだ。


「博士! は、か、せ!!」


 エリナが大声を出して注意を引こうにも、作業音で声はかき消されている。

近付こうにも透明なカプセル状のシールドらしき防御壁の中で作業をしている為か、防御壁を叩いても気付く素振りを見せない。

 痺れを切らしたエリナはホルスターからハンドガンを取り出した。工具に連結されている機械に向けて狙いをつけている。

 彰吾は慌ててエリナの銃を持つ方の腕を掴んで止めた。


「それは拙いだろ!?」


 掴まれると思わなかったのか、エリナは驚愕の表情をする。

 後先考えずに何でも破壊しようとすれば、借金の負担が増えてしまう。


「は、離しなさいよ!」


 しかし、ワーギャーと騒ぐエリナは掴まれた腕をがむしゃらに振り解こうと、彰吾の静止の声を聞かず暴れる。


「待てって、銃を持った手を振り回すな!?」

「離せ――って、言ってるでしょ!!」


 エリナは彰吾の腕を一際大きく振り払うと、彰吾の頭に向けて躊躇なく引き金を引いた。

彰吾は頭部へ狙いを付けられた銃口を慌てて避ける。視界のすぐ近くを9ミリの弾丸が通り過ぎた。

 目標を失った9ミリ弾は地下室の壁を跳弾し、運悪く1センチも無いガラスのような防御壁に守られた老人の方角へと迫る。

いくら跳弾だとしてもオートマタの装甲を貫く+P弾では防御壁を容易く貫いてしまうだろう。

 拙い! お爺さんが死んでしまう!?

 

「お爺さん!!」

「ほえ?」


 彰吾はあらん限りの大声で老人へ声を掛ける。

声に反応して振り返ったとしても弾丸は止まらない。

 +Pの弾丸は防御壁を貫いて……貫い、て? あ、あれ?

 彰吾の心配をよそに、弾丸はガラス状の防御壁へ傷を付ける事も無く、弾丸だけが潰れてその軌道を止めた。

防御壁に当たった事で気付いた老人は、爆音を鳴らす工具を止めるとエリナの方へ振り返った。

 

「おお、エリナちゃんじゃないか!」


 老人は数本ほど歯の抜けた口をニッカリと笑ってみせた。

エリナはハンドガンをホルスターに戻してため息を着く。


「こっちの耳が壊れるかと思ったわよ」

「いやぁ、すまんすまん!」


 たった今、その機械を壊そうとしたエリナが老人へ文句の言葉を放つ。

老人の手元にあるリモコンのボタンの1つを押して防御壁を地面へ収納すると、軽い足取りでエリナの方へと向かってくる。

 歳は80近く顔には皺が寄っており身長は150センチほど。研究者のような白衣を身に纏い、ゴーグル状のヒビが入った遮光グラスを掛けている。

カランカランと音を鳴らす足元を見れば下駄を履いている事が分かる。


「鉄製の、下駄……?」

「コレか? 結構エエもんじゃぞ?」


 金属製の下駄を指摘すると、老人は履いている下駄が見えやすいよう足を大きくあげた。

ニシシ、と年甲斐も無く無邪気に笑う様子に圧倒される。


「ムムムッ!?」


 しかし、彰吾の姿をオートマタだと確認すると、割れた遮光グラスを外して肉眼で彰吾を値踏みするような視線で観察し始めた。

 目を細めてはジリジリと近付いてくる。

 

「うっひょー!! TYPE-2の旧規格ではないかぁ! 更に新型材質の装甲持ち!? ウヘヘ、涎が止まらんぞ!」


 彰吾の身体がビクッと驚きから後ずさる。

老人は涙と鼻水と涎が混ざった顔で彰吾の身体をベタベタと触ってきた。

 ベトベトやぬるぬるとした感触が気持ち悪い。

エリナへ助けを求めるよう視線を向けると、冷めた目で眺めていた。


「腕は確かだから」

「いや、流石に……」

「関節も従来型より強度が高い!? ウェッヘッヘ~分解して骨格構造も見てみたいのう!」


 あちこちと興味津々なまま、ワキワキとした指で装甲をなぞってくる。

 背筋がゾワッとするような悪寒だ。

 彰吾は老人を体から無理やり引き離すと、そのまま腕を伸ばして宙吊りの状態にする。

 背中を摘ままれて持ち上げられた猫みたいだ。

いや、猫ほど愛嬌が有るものではないが。

 

「分解って嫌な言葉が聞こえたけど大丈夫なのか?」

「腕は確かだから」


 答えになっていない。

 宙吊りになった事で落ち着いたのか、老人は大人しくなった。


「いかんいかん。ワシとした事が……もう大丈夫じゃ」


 その言葉を信用して床にゆっくりと降ろす。


「それで、ワシの研究所まで来てどうしたんじゃ?」

「オートマタの装甲を売りに来たの」

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