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11話 射撃訓練2


「全然……駄目だった」


 散々な結果に彰吾は落胆する。思わず手に握った銃へ力が籠る。

 ファクトリーで撃った時はもう少し扱いやすかった筈だ。

それが急に暴れ馬のように跳ねるとは思わず、修正するのに慌ててしまった。

 自分の技術の無さを前面と出した結果に、悔しさと不甲斐ない気持ちで恥ずかしくなった。


「オートマタの癖に射撃下手か」


 そんな彰吾の様子を見てマーカスは鼻を鳴らして言葉を吐き捨てた。

 返す言葉もない。

照準システムと言うのも使いこなせていた感も無く、2人には失望させてしまった。

 数発撃った程度の経験で狙った場所へ当てるのは、改めて難しいと実感させられた。


「初弾での跳ね上がりは想定外だったな。数える位しかまだ撃っていないんだろう?」


 ファズはエリナの戦闘記録を確認している為か、彰吾へとフォローの言葉を掛ける。

そして、ポケットに手を忍ばせながら彰吾の目の前に来ると、ごつごつとした手のひらに弾薬を2つ拡げて見せた。

ハンドガンに使用している物と同じ9ミリの実包だ。弾倉に詰まっている状態でしか見ていないが、全体の大きさは小指の長さ未満しかない。


「この2つの弾の違いは分かるか?」


 そう問われて彰吾はじっくりと2つの弾薬を見比べるが、違いは特に見当たらない。

薬莢の長さも弾丸の色も形も2つは全く同じだ。外見で違いが無いのならば中身の違いだろうか?


「重さ、ですか?」


 その言葉にファズは頷くと片方の弾薬を指で摘まんだ。


「半分正解だ。こっちは+Pと呼ばれている。威力を上げる為に火薬の量を増やしているから、その分の反動が大きい」


 エリナがファクトリー内で話していた事を思い出す。

『ただでさえ9ミリ弾は、オートマタ相手には威力不足が目立つ』この言葉の通りなら、エリナが使用していた弾薬は反動が大きいと言う事だ。

 彰吾はエリナに撃たれた箇所に手を当てると、胸部の装甲に微かな凹みを感じる事が出来た。3発の接射でも効果が出ない強度を持つ装甲だ。


「オートマタに有効な威力を出す為に弾薬を改造している、という事ですか?」

「あぁ、それで合っているぞ。だからこそ鹵獲した銃にはコイツが最初から装填されていない」


 この銃はオートマタから奪った物である為、最初に射撃した情報がオートマタの身体に残っていた。

だからファクトリー内で2発目以降を撃ったとしても修正が可能であり、狙った場所に当てる事が出来ていた。

それが今回は別の弾薬で撃った為、銃の反動に計算の狂いが生じたのも原因の一つだと説明する。


「……オートマタって賢いのか賢くないのか、分からないですね」

「まぁ、そこが人間との差だ。それも学習と経験次第と聞く。だから訓練は怠るなよ?」


 彰吾は弾が切れたコーカスハンドガンを見つめながらその場で佇む。


「マーカス、手本を見せてやれ」

「了解です」


 マーカスは腰のホルスターから銃を抜き出すと、彰吾の隣のレーンの射撃位置まで歩み出た。

 彰吾の視界に映し出された情報には、『ヘイクトル11.5ミリハンドガン 装填数12発』と表記されている。

マーカスが持つハンドガンは大型に分類されている。9ミリより高い威力を持つ11.5ミリの弾薬を使用し、アンダーレイルには状況に応じて使用出来るレーザーサイトとウェポンライトが複合された機器が装備されていた。

 セーフティを解除すると静かにターゲットが現れるのを待つ。

 ブザー音が鳴る。マーカスの立ち位置から10メートルほど離れた箇所に20センチ程のターゲットが次々と現れた。

マーカスは瞬きを一つせず、流れるようにターゲットの中心に弾痕を残していく。

殆ど連なって聞こえる銃声にスライドが激しく後退する。最後の12発目を撃ち切ると、銃口からは白い煙を上げた。

 10秒にも満たない時間だったが、彰吾はその正確な射撃に目を奪われていた。


「――7.9秒、全弾命中。また腕を上げたな」

「ありがとうございます!」


 ファズからの賞賛を受けてマーカスは気を引き締めた返事を返す。

そして彰吾の方へ振り向くとニヤリと口元を緩めた。


「どうだ? 俺の実力は?」

「あぁ、正直に言うと目を奪われた。上手いなんて言葉じゃ表せないほどだ」


 その言葉に調子を良くしたのか、マーカスは満足そうに鼻を鳴らす。

スライドが後退したハンドガンの弾倉を交換すると、彰吾へもう一つの弾倉を手に持って向けた。

 ファズに渡されたコーカスハンドガンの弾倉だ。


「装填しろ。9ミリの+Pだ」


 彰吾は恐る恐るマーカスから弾倉を受け取る。

そして空の弾倉と交換して、スライドストップを解除する。

『コーカス9ミリハンドガン 装填数8発』の表記が現れたのを確認する。


「良いか? 銃ってのは狙いを付けるのに力む必要はない。たが、ちゃんとグリップを支えてやらねぇと手の中で暴れる」

「……教えてくれるのか?」


 彰吾は急にレクチャーを始めたマーカスへ困惑気味に声を掛ける。

その様子を笑みを浮かべながら面白そうに眺めているファズが、二人へ聞こえるように伝える。


「訓練に使用する弾薬は会社負担だ。十分練習しろ!」

「早く構えろ。二度は言わんぞ」

「わ、わかった」


 彰吾はターゲットの方へ銃口を向けて構える姿勢を取る。

エリナからは下手くそなクリアリングと酷評されたが、見たままなら悪くは無い筈だ。

 マーカスは銃を構えた彰吾の姿を見ると、呆れた様にため息をついた。


「お前はAIで射撃を制御しているが、射撃の基本姿勢は必要だな」

「何か間違っているのか……?」

「まずは背筋を伸ばせ。それに首が曲がっている」


 言われた箇所を意識するように姿勢を正す。


「そうだ。次に銃を強く握り過ぎだ。オートマタの馬鹿力で握るとフレームが歪むから気をつけろ」


 銃を構える時に無意識で力が入っていたのか、柔らかく包む感じで銃を構え直す。


「こ、こんな感じか?」

「力を抜けと言ったが、それじゃ反動で銃が暴れる」


 ちゃんとグリップを支えろ、と言われた言葉を思い出して両手で挟むように支える。


「及第点だ、TYPE-2と聞いて呆れる」

 

 マーカスは壁の端末を操作するとシューティングレンジに1つのターゲットが現れる。

先ほど狙ったターゲットよりも少し大きい。


「初めは20メートル、50センチでブルズアイを狙え」


 射撃姿勢を矯正されながら、次々と渡される弾倉でターゲットに向けての射撃訓練が始まった。

 合間にハンドガンの構造理解から弾倉への弾の詰め方、弾詰まりの対応、弾倉交換の練習等、覚える事は多いが、マーカスの教え方は分かりやすい。

 終わりの方では時間は掛かるが、ターゲットに弾を全弾当てる事が出来るよう進歩した。


「20メートルの標的に全弾当てるとなれば、最低限使い物になる。今後も訓練しろ」

「あ、ありがとう」

「お前に礼なんか言われる筋は無い」


 マーカスは彰吾の方へ顔を向けず、作業を行いながら淡々とした言葉を返した。

いまだにぶっきらぼうな対応に慣れない彰吾は苦笑するだけだった。

 ふと気になった事が浮かんだ。


「そういえば、エリナのタイムはどれぐらいなんだ?」


 途端にマーカスの機嫌が悪くなる。

やっぱり聞かなければ良かったかもしれない。


「……アイツのスコアはお前と同じコーカス9ミリで」


 エリナは射撃の能力が高く、オートマタの頭部へ的確に当てる事が出来ていた。+Pを使用して更に強い反動を抑えながらだと、より高度な技術の持ち主なのだろう。マーカスに近いスコアを予想出来る。


「――25秒だ」

「え?」


 25秒。8発で25秒だと言う事だろうか?

聞き間違えたのか、と彰吾はマーカスへ聞き返した。


「25秒?」

「あぁ。25秒ジャストだ」


 どういう事だろうか?

詳しく聞こうとしたが、マーカスは知らんとばかりに話を切り上げてしまった。


「あと予備の弾倉は持っておけ。何も無いよりマシだ」


 何度も射撃訓練で使用した弾倉を手渡してくる。

+Pの弾薬が8発装填されている弾倉を受け取り、大腿部へハンドガンを格納するが、予備の弾倉は何処に入れようか迷ってしまった。

 必要な時にこれでもないあれでもないと探す羽目にはならないとは思うが、すぐに取り出せる位置には置きたい。

 動きを止めて考える彰吾の姿にマーカスは壁に掛かっている黒色のウエストポーチを手にする。


「こいつを使え」

「勝手に使って良いのか?」

「元々、装備は会社の支給品だ。自分で使いやすさを選んでの実費も有るがな」


 ウエストポーチをありがたく受け取り、自分の腰に装着してみる。

ベルトの長さは調整可能であり、最大の長さにするとオートマタの強靭な腰周りでも装着する事が出来た。

左腰の辺りに弾倉が2本入りそうなポーチが付いている。コーカスハンドガンの9ミリ弾倉なら詰めれば4本は収納出来そうだ。あとは背中側に小物入れになりそうなポーチが付いている。


「これでマシになったな。ベスト辺りは必要無いだろう。何度も言うが銃の整備を忘れるなよ」

「ありがとう……でも、どうして助けてくれるんだ?」

「テメェが弱いからだ。気に入らねぇのは変わらないが、会社の迷惑には絶対になるな」


 案外良い奴なのかも知れない。


「あと、別にお前を認めるつもりは無いからな! そこを勘違いするな!」


 吐き捨てるように1階へ戻ろうとするマーカスの後に着いていく。

階段に昇ろうとした時、ファズが彰吾にだけ聞こえる声で話しかけてきた。


「あいつ、俺が昔教えた事をお前に教えてるぜ?」

「そうなんですか?」

「なんだかんだ口は悪いが、後輩が出来て嬉しいのさ」


 ファズはマーカスの後ろ姿を見てそう呟いた。


「なんとなくですが、エリナとマーカスは似てる気がします」

「……それ、思ってても本人達に絶対言うなよ?」


 思う所が有ったのか、ファズは苦笑いを彰吾に向けた。

修正点:数字を半角数字に統一していきます

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