立場と苦悩
「で、では私も仕事に戻りますね」
そう言ってフィルユさんは保育所に戻っていった
「フィルユさんの仕事って保母さん?」
「いえ、子供達の教育です」
…………保母さんとは違うの?
「というより戦いに行ったりしないの?」
「要請があれば出ます、基本師団長は指示が出るまでは城に待機ですね、フブキ様が訓練、フィルユ様は教育という風に城にいる間も出来ることをやっています」
「そうなんだ…………」
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
それからルサに城の中を案内された
娯楽室や休憩室
食堂もあり酒場まであった
…………なんでもあるね、魔王城………
そして案内が終わり部屋に戻った
「何でもあるね………」
僕がベッドに腰掛けながら言う
「基本兵達は城に待機していますので、息抜きできる場所も必要です」
ルサがそう説明する
「へぇ………」
「…………………」
ルサが黙る
「……………ねえルサ……」
「どうしましたか?」
「なんで召喚されたのが僕なんだろうね………」
「私にはわかりませんね」
そうだよね……
「疑問に思ったんだけど………なんで勇者が召喚される前に地上界を侵攻しなかったの?」
魔王始め、全員強い魔物ばかりだし……
「………魔王様は地上界と争うつもりはありませんでした」
「えっ!?」
そうなの!?
「ただでさえ魔界の統治をされているのです、更に地上界の制圧するを必要がありませんでした」
「じゃあなんで………」
「魔物です」
「えっ?」
「地上界に暮らす魔物達の為です」
「どういうこと?」
「元々魔物は地上界では嫌われていましたが、10年前から差別が酷くなってきました……先程も聞きましたよね?魔物だから殺される」
「うん………」
「地上界に住む魔物達は魔界では暮らせないから地上界で暮らしているだけです……ですので理不尽に殺されるのを見捨てる訳にはいきません」
「だから制圧?」
「…………最初は魔王様も交渉をしていたのです………ただ制圧するだけでは地上界の人間と変わりませんから」
「交渉?」
「地上界で使われていない土地、もしくは人間が住まない土地を購入すると」
「その買った土地に魔物達が暮らせるようにしようとしたんだね」
「はい、しかし交渉は決裂しました」
「…………なんで?」
「地上界の王達は言ったそうです………この世界に魔物が存在することは認めない、魔物は滅ぼすべきだと」
「………」
「それならばやむを得ない………そう判断した魔王様は地上界を制圧することにしたのです………地上界の魔物を守るために」
「……………」
地上界の王も魔王も
どっちの言い分もわかる
魔物の存在が不安でたまらない地上界
地上界の魔物を助けたい魔王………
「………………そ、それでも10年もあれば制圧出来たんじゃ……」
「地上界には勇者以外にも戦える人はいます」
「いるの?どんな人達?」
「…………これ以上は客人の黒井様には話せません………軍事に関わりますので」
「…………そう」
そうだよね………重要な事だしね……仲間になったわけじゃない僕に話せないよね
「………………」
「………………」
ルサが黙る
僕も沈黙する
「ルサ、今日はもう一人にしてもらっていいかな?」
「………かしこまりました」
ルサは部屋を出ようと扉に向かう………
「………そういえば魔王様から案内が終われば伝えるように言われていた事があります」
「なに?」
「黒井様がどうしてもと望まれるなら元の世界に帰すとのことです」
「!?」
ルサが部屋を出た
真っ暗な部屋
時々、外の雷の光で部屋が一瞬光る
「…………」
僕はどうするべきか
今日1日ここで過ごしてわかったことは人間も魔物も変わらないって事
案内された先で魔物達は普通に過ごしていた……
友人と遊んだり
訓練に励んだり
親子で食事してたり………
「僕は………」
僕はどうしたいんだろう………
帰りたい
帰りたくない
帰りたい
帰りたくない
そんな気持ちが渦巻く
帰る?帰って何がある?
僕には何がある?
友達?
……心配されてるかな?
親?
………………心配してるの?
…………………………
「あぁ、そうか………帰っても何もないのか」
誰かに自慢できる事なんてない………
平凡、普通、無個性………
「…………でも残るのも…」
魔物が人間と変わらなくても………
魔王が地上界と戦う理由を知っても………
「異世界で生きるってのは不安なんだよ………」
僕は………僕は………




