魔王の問い、流星の返答
「………………」
「……………」
『………………』
長い沈黙
「おい小僧!」
「ひゃい!?」
蛇の様な姿をした魔物が僕に声をかける
「何をボーとしている!魔王様の御前である!頭が高い!跪け!」
「えっ?えっ?」
目の前に立っているこの強そうな魔物が魔王!?
魔王ってあれだよね?ラスボスだよね!?
「は、はい!」
僕は取り敢えず魔王に向かって跪く……こ、これであってるよね?
「……………」
蛇の様な魔物は不服そうだけど静かになった
「………異界の者よ」
「は、はい!」
魔王が喋る、異界の者って僕の事だよね?
「怯えるな………混乱しているのであろう?」
「はい…………あの、ここはどこですか?」
「魔王様に馴れ馴れしいな!」
蛇の魔物がまた怒る
「ジュアル、少し黙れ………」
「………はい」
ジュアルと呼ばれた魔物はションボリしている
「ここはリーデ・クラシア……5つの世界によって構成されている世だ。」
「5つの世界?」
「詳しいことはこいつが教えよう………バルト」
「は、魔王様」
バルトと呼ばれた梟の姿をした魔物が僕の前に立つ
「始めまして異界の少年、私は24師団長のバルトと言う、君の名前を教えて貰えるかな?」
バルトって魔物が優しく僕に聞く
「黒井、黒井流星です………えっと流星の方が名前です」
「そうか、では流星………先ずは君が何故召喚されたのかを説明しよう。」
そう言うとバルトさんは僕の頭に手を………ていうか羽?を乗せる
すると頭の中に映像が流れる
・・・・・・・
『この世界リーデ・クラシアには先ず5つの世界があるのはさっき言ったよね?』
バルトさんの声が直接頭に流れる
『先ずはここ、私達が住む"魔界"、そして死んだ者が逝く"冥界"、妖精達が住む"自然界"、人間が住む"地上界"、そして神などと名乗る者達がいる"天上界"』
バルトさんの説明と一緒にそれぞれの世界の大体のイメージ映像が浮かぶ………
『君を召喚理由はね、地上界に住むある魔法使いが異世界から勇者になるものを召喚したんだ、その勇者の実力が意外と高くてね、末端とはいえ魔王様の軍の兵士達を次々と倒しているんだ、そして調べてみたらどうやら異世界から召喚されたものはこの世界では身体能力が強化されているんだ。』
貧弱な男がマッチョな男になる映像が流れる………いや極端すぎません?
『それでその勇者の対策として我々も異世界から人間を召喚することにしたんだ、それで召喚されたのが君だよ。』
バルトさんが手を離す
「えっ?でも僕が味方になるなんてわかりませんよね?勇者の仲間になるかもしれませんし?」
「だからここに皆が居るんだよ?」
バルトさんは周りを見るようにジェスチャーをする
「……………」
僕は周りを見渡す………さっきも見たけど魔物がいっぱいいる
「わからないと思うから簡単に説明するけど、ここに居るのは全員魔王軍の幹部だよ、もし君が暴れるって言うのならここにいる全員で相手になるって事だからね?」
「………それって僕に選択肢無いですよね?」
逆らえば死って事じゃないか………
「言ったよね?君が暴れたらって?なにもしないなら私たちもなにもしない」
嘘だ………
「……………」
「バルト、もうよい…下がれ」
「はっ!」
バルトが下がる………
「異界の者………いや流星よ、我の下で戦え……戦うのなら相応の立場を約束しよう。」
「………そんなの、嫌ですよ!」
僕は立ち上がって魔王を睨み付ける
ザッ!
周りの魔物達が構える。
「待て……」
魔王が周りの魔物達を止める
「………理由を聞かせてもらおうか………」
そして僕に問う
「理由?聞く必要があるんですか?いきなり召喚されて!従わないなら殺すって脅迫までされて!不信感しかない!」
どうせ死ぬなら………言いたいこと言ってから死んでやる!!
「……………成る程な」
「大体勇者が怖いなら全員で一気に挑めば良いじゃないか!」
「それが出来ない理由があるんですよ。」
バルトが言う
「理由?」
「魔界と冥界以外の世界は私達にはなかなか馴染めない場所なんですよ、例えるなら水中に居るような感覚でね、君達人間は魔界や冥界に入ってもあまり影響が無いのにね。」
「だったら魔界に来るのを待ってて待ち伏せすれば………」
「勇者に自由にさせてたらどれだけ強くなるかわからないでしょ?だからそれも無理なんだよ。」
「……………それでも僕は従わない!」
「さっきから生意気言いやがって!もう我慢ならねえ!俺が殺る!」
ドシン!
豚の様な魔物が前に出る………槍を構えて僕を見ている
「ブルム………下がれ」
魔王が言う
「申し訳ねぇが魔王様!俺はもう我慢できねぇ!こんなガキが魔王様に無礼を働く姿はもう傍観できねえ!」
「だったら次は悪党を召喚すればいい!僕みたいな平凡な奴じゃなくてね!!」
「………………はぁ」
魔王からため息が聞こえた………
「死ね!ガキ!」
"猪突猛進"
ブルムと呼ばれた魔物が槍を構えて突進してきた
見た目からは想像できない速さ………避けれる訳がなく
ドゴォ!
槍が僕の胸元に当たる…………んっ?当たる?刺さるじゃなくて?
僕は胸元を見ると槍の先端が僕の胸元で止まっていた
「なっ!?」
ブルムが驚く
ザワザワ!!
周りの魔物達も驚いている
「ほぅ………」
魔王が感心している
「ちっ!うぉぉぉぉぉ!!」
"猛々しい牙"
ガッガッ!
ガガガ!
ブルムが乱れ突きをする
けどどれも少し痒くなる程度しか感じない
「そうか、身体強化………」
さっき言ってた、異世界から召喚されたら強くなる
僕も強くなってるんだ
「この!」
バシッ!
僕は左手で槍を逸らす
「ぬっ!」
ブルムがバランスを崩す
「うわあああああ!!」
そして僕は右手でブルムを殴った
僕は殴り倒すつもりで殴った
普通に考えたらブルムとの体格の差があるから微動だにしないはずなのに
ドゴォ!
「がっ!」
ドガン!
まさか壁まで吹っ飛んで跳ね返って
バン!
床に激突してバウンドして
ダン!
天井に激突して
ビタン!
また床に落ちるなんて想像できないよね
「…………」
魔物の1人がブルムを見に行く
「気絶してまーす!」
ザワザワ!
ザワザワ!
そしてまた魔物達が騒ぐ
「ブルムを一撃で?」
「あいつ6師団長になったんだよな?」
「面白いな、俺が挑んでいいか?」
魔物達が玩具を見つけたような眼で僕を見る
こ、こうなったら全員と戦って!!
「静まれ………」
………………
魔王の一言で全員が黙った
「流星よ、我を見よ」
「……………」
僕は魔王を見る、魔王は玉座から立ち上がっていた
「我に挑め、魔界では力が全てだ………我を倒せば貴様を元の世界に戻してやってもよい………もしくは我に変わり魔王になるのも構わん。」
「………つまり貴方に勝てば帰れるんですね。」
「勝てればな………」
…………やってやる!!
「うぉぉぉぉぉ!!」
僕は魔王に向かって走る
狙うのはお腹………顔とかは届きそうにない
そして
ドゴン!
全力の拳を魔王のお腹に叩き込む、ブルムをぶっ飛ばした時より確実に強く入った!
けど………
「成る程………良き拳だ………だが」
ボトッ!
「我を倒すにはまだ弱い………」
………今………何が落ちたの?
僕は足下を見る
腕だ………肘から先の右腕
誰の?…………これは
僕の………腕!?
「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!?」
ガクッ!
僕は膝を崩す
左手で肘の部分、今の僕の右腕の先端を押さえる
痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!熱い!痛い痛い痛い痛い熱い熱い痛い痛い痛い痛い熱い痛い!!
「……………」
魔王が僕を見下している………今から僕を殺すんだ………結局僕は死ぬんだ………ちくしょう………ちくしょう!!
「ネルソン………」
「は、はい!!」
女性の声?
「腕借りますね!こうしてこうして!はい!」
「…………えっ?」
右腕の痛みが無くなる
「腕が………くっついてる!?」
右腕を見ると確かに斬られた右腕があった
「………」
魔王が玉座に座る
「流星よ、今の貴様では我は倒せぬ………」
「ぐっ………」
「そう警戒するな………非礼は詫びよう」
「…………」
「確かに決断を急かしすぎたな………貴様には考える時間が必要だ。」
「………えっ?」
「ルサよ」
「はい、ここに………」
「うわぁ!?」
いつの間にか隣にメイドさんが現れた………えっ?人間?
「流星を部屋に連れていき休ませよ………こやつは暫く我の客人とする」
「かしこまりました………」
「えっ?ちょ?」
グイ!
「うわぁぁぁ!?」
そしていつの間にか僕の後ろにいた大きな岩の魔物が僕を持ち上げた
「なに!?どういう事!?僕どうなるの!?」
僕の質問に誰も答えない
そして僕は魔王達の居た部屋から追い出された。




