表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/32

1話

4月。

それは始まりと出会いの季節。

今年から大学に入学する俺にも当てはまることだ。

ずっと憧れていた東京。

そこには、きっと楽しい出会いと大きな夢が待っている。

――と、そのときはそう信じていた。



「私は年収400万の女よ」

それが、リビングの中央で偉そうに腕を組む女性――。

錐巣きりす 沙霧さぎりの第一声だった。


「へ、へー。凄いな。大学生なのに、もうそんなに稼いでるのか」

「勘違いしないで。私が直接稼ぐわけじゃないわ。働くのは男よ」

「お前は一体、何を言ってるんだ?」

「あら、理解できていないようね。いいわ。説明してあげる」

沙霧はニヤリと得意げな笑みを浮かべると、ピッと人差し指を上げて俺を指した。

「私と結婚したいのなら、年収400万以上稼ぎなさいってことよ」

「別に俺は、お前に結婚を申し込んでるわけじゃないんだがな……」


年収400万。

確かに、学生の俺からすれば大金だ。

だが、サラリーマンで言えば、30代の平均年収くらいになる。


それに対して、目の前で腕を組み、不敵に笑っている沙霧を見てみる。

身長は俺と同じくらいだから162㎝くらい。

女なら少し高め、と言ったところだろうか。

スタイルはやや瘦せ型。

胸とお尻は普通ほどだが、ウエストが細い印象がある。

白いワンピースを腰で絞っているので、さらに強調されている感じがする。

とにかく、男から見て、十分魅力的な身体ということだ。

……って、なんか、おっさんくさい表現になってしまったが続けよう。

やはり一番目を引くのは、そのルックスだ。

腰まである、黒い髪をポニーテールで括っている。

やや釣り目で、きつそうな性格っぽい印象を受ける。

だが、街ですれ違えば思わず振り向いてしまうほど整っている。

クラスにいる一番可愛い子というよりは、アイドルという方が近いレベル。

つまり美人だということだ。

それで年は俺と同じ18歳。


総合的に見てだが……。


「安すぎないか? 年収400万ってハードル」

「あら、嬉しいこと言ってくれるわね。でも、その根拠は?」

「え? そりゃ、まあ、可愛いし……」

「待って。顔の造形に関しては査定範囲に入れないで。顔で見ていいのは肌くらいよ」

「どうしてだ?」

「顔は持って生まれたものだし、見慣れるものよ。美人は三日で飽きると言うでしょ」

「う、うーん。そうかぁ?」

「私は努力で身に付けたもの以外は、価値として認めていないの」

「なるほど。いい考えだな。ぜひ、俺も見習いたいくらいだ」

「ふふ。そうでしょう?」

「で? お前が努力で身に付けたものってなんだ?」

「これよ!」

沙霧は自信満々に、自分の腹を指差す。

「……腹?」

「くびれよ!」

Yシャツの裾をめくり、腹を露出させる。


当然、へそも見えた。

へそも綺麗だな。


「なるほど。確かに細い。で、他は?」

「え? 他? ……な、ないわよ」

「いやいやいや、待てよ。お前、くびれだけで400万の価値を付けたのか?」

「くびれだけって何よ! この体型を維持するのに、どれだけ大変だと思っているの!?」

「苦労してるのはわかる。けど、ライ〇ップとかに行けば、30万で痩せれるだろ」

「ぐっ! あとは性格もあるわ。性格だって、十分価値として認められるはずよ」

「それを入れると、逆に下がらないか?」

「へえ、カスのくせに面白いこと言うわね」

「その台詞が何よりの証拠だよ……」

「ふん! 貧乏な男と話している時間は無駄でしかないわ」

そう吐き捨てると、沙霧は自分の部屋へと戻っていく。

ドアを思い切り閉じた後、ガチャリと鍵を閉める。

リビングは静寂に包まれ、俺はポツンと取り残された。


あれが同居者か。

極力、関わらない方がいいな。

思わず、ため息が出てしまう。


やっぱり、断るべきだったか。

――いや、あのときの俺には選択肢がなかった。

それに、人との縁は何よりの宝物と親父も言っていたしな。

シェアハウスの『管理人』なんて、そうそう経験出来るものじゃない。

きっと人生にとってプラスになるはずだ。

何事も、まずは全力でやってみる。

もしかしたら、俺の『夢』にも繋がるかもしれないしな。



――なぜ、俺がシェアハウスの管理人をやることになったのか。

それは2週間前に遡る。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ