戦いの果て
ー輝ー
状況を整理しよう。
昨日俺が奏の失踪した現場に着いた時、奏の死体があった。近くに奏の籠手が落ちていた。
何故か俺達は負傷した近藤を連れて、奏の死体は持ち帰らなかった。
朝、司が落ち着くと、奏は生きている。そう言った。そこで俺は気がついたんだ。
あの時、あそこにあった死体は奏では無いのではないか。記憶に齟齬が有るのではないか。
俺は皆の能力を知っている。何故かって?奏が洞窟で教えてくれたから。アビリティーの名前、おおよそどの様な能力か。
皆がアビリティーを知る為に特殊な紙と筆で書いたけど、その書く筆の音から大体の当たりを付けて漢字を当てはめ、漢字四文字を当てる。
それを踏まえて、実践で使う、実験している所を観察していたらしい。やっぱり奏は敵に回したくない。因みに司だけは分からなかったらしいけれど。
その話は置いて、今回の件に関わっている能力と言えば恐らく黒木先輩だろう。
奏曰く『死者活従』らしい。違うかも知れないけれど、恐らく死者を甦らせる能力。けれど、それに伴って記憶が曖昧に改竄されるデメリットが有るのではないかと俺は考える。
つまり、奏が死んだのでは無くて、近藤が死んでおり、近藤を黒木先輩が生き返らしたために、記憶齟齬が生まれたらしい。恐らく黒木先輩は善意でやった事だろうけど、やってくれた。救助が遅れてしまった。
しかし分かれば話が速い。奏は生きている。
なら、モンスターや例のドラゴンに殺されないように守らなければ。助けにいかなければ!
俺は縦穴を降り、地面に着地した。
周りが真っ暗なのでライトの呪文で周りを照らす。
洞窟のようなダンジョンだった。その辺りには誰も居なかった。しかし岩にロープが掛けられていた。まるで誰かが縛られたかのように。まさか奏は一人ではない?誰かと行動を共にしている?
周りを見て足跡が無いか探す。
「硬い地面でも埃等が積もるから、足跡が残るはずなのに。」
まるで風で消えてしまったようにない。暫く洞窟を進んで見るとモンスターが倒れていた。しかし何かに押し潰されたように死んでいた。恐らく風魔法か土魔法。奏が倒せるはずが無いから、やっぱり誰かと行動しているみたいだ。
しかし、階を降りて暫くすると、途端に戦闘の跡が無くなってしまった。
それから三時間探したが、遂に奏は見つからなかった。
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ーエメリアー
信じられなかった。
能力もステータスもアビリティーも何も無いに等しい人が全ての敵の攻撃を掻い潜る。
己の体術一つで全てをいなしてしまった。
あの100もいたモンスター全てを片付けてしまった。
最後の一体を私が止めを刺すと、ゆっくりこっちに歩いて来る影があった。
「いやー!助かった!エメリアが居ないとヤバかったよ。」
「…」
「ん?どうしたの?エメリア。押しだまっちゃって。」
「ばか。」
「え?」
「ばか!奏のばか!死んじゃったかと思ったじゃない。」
「ご、ごめん?」
私が悪いのにポカポカ奏を殴る。もう心が限界だわ!奏と私、死んじゃうかと思った。
だから少しだけなら奏に甘えてもいいよね?
こんな危険な目に会ったのだから。
私はひとしきり泣きました。そして一度落ち着く迄奏は側に居てくれた。そういう所はお兄ちゃんなんだから。
「...ぐすん。ありがと。もう大丈夫!」
「そっか。それなら良かった。けど、どうしようか。出口は無いみたいだし。」
「えっと、それならあそこの転送魔方陣を使えば。」
「なるほど、魔力を流した方から流された方の魔方陣に転送される仕組みか!」
私達はあの宝石に近づくだけで起動分の魔力を吸いとられていたみたい。だから向こうがどこに繋がっているかは分からないけれど、この閉鎖空間から出られる...とはおもうの。
「...っとその前に」
「そのまえに?」
「あのモンスターから使えそうな物を剥ぎ取ろう。」
「そうね。どうやらお肉も食べられるらしいし。お腹も空いたかも。」
二人してお腹が鳴り出す。って恥ずかしい!またなる前に急いで準備しよう!
私は腰からナイフを取りだし、剥ぎ取る。切り取ったお肉に村から持ってきた香辛料を少し掛けて火の魔方陣で焼き上げる。
「はい!ラスプラスの丸焼き完成!奏の分...何それ!」
「ん?そこの辺りにあった食べられそうな草と胡椒、モンスターの部位を柔らかい胸肉を使って焼いてるだけだけど。」
「奏も調理してたんだ。」
ちょっと無駄だったかな?と思いつつ、奏の方が美味しそうなのでついつい目が行っちゃう。
「うう、美味しそう。」
「なら、こっち食べてみる?そっちのも二人で食べよう。」
「ほ、本当?」
ー10分後、気がついたら私は奏の料理を食べてるうちに奏は私の失敗作を食べてた。よし、決めた!これからは奏が旅の料理担当ね!
「嫌な予感...。」
「え?なに?」
食べ終えた私達は持てる分の食料だけ持って魔方陣を起動させる。思ったより簡単に起動してくれた!
「ふふ!さぁ!次の冒険に行くわよ!」
「ノリノリだね。」
「だってパーティーの役割を二人でこなせているから。初め旅に出た時は魔族と旅の仲間として勧誘して目的地迄行こうと思っていたけれど、奏に会えて良かったかも。」
「ん?そう?」
「そうそう!私は村の掟の聖なる泉に行く途中.....!あ!」
「僕たち脱出してる訳では無かったんだね。」
「旅の目的話して無かったわね。」
「ま!このダンジョンにいるって事はつまりこのダンジョンの中にあるのか?」
「うん!この92層がそうなの。ただ、このダンジョン長細く、魔族の領地迄伸びているからね。魔族の領地の辺りの92層を目指しているの。」
「それが何で人族領?にいるの?」
「そ、それがアラートで....。」
「二回目だったんだ。」
「てへ!☆」
「.......................。」
「地図担当お願いします。」
「地図持ってない。」
「え?」
いやいや。出口探す時紙見てたのを思い出す。
「行った場所は簡単に記しているだけだけど。だからこのダンジョンの地図何か無いよ?まずこの階層にすら誰も到達出来てないんだ。人族は。」
「つまり時間掛けて道を探すしか無いの?」
「そういう事。さぁ!行こう!」
今迄地図通りに進めば簡単に終わる儀式だった。けれど、これからは一から探索しなくちゃいけない。
でもここでグダクダ言っていても仕方ないよね。
私は気を取り直し...。
「そうね。出発しましょう!」
この二人なら大丈夫!何とかなる気がしてきた!
「ダンジョン探索何てさくっと終わらせるわよ!」
奏は微妙な顔をしていた。
魔族領地に向かいます。