ただの最弱ヒーラー
ぷんすか!
「あのー!」
「ふん!」
「....。」
今ダンジョンを探索している。強いモンスターが襲って来るが、エメリアがブレスで瀕死迄追い込んで、僕は止めを刺していく。
だけど.........。
「ふん!」
「.......。」
めっちゃ怒ってます。
30分前。
「奏!良くこんなステータスで生きてたね?」
「幼なじみが強くて。」
「へー!そっか!その子達も私の可愛い弟にしたいなぁ!」
「お、おう!因みに片方は女の子だよ?」
「妹!!」
目がキラキラしている。どうやらエメリアは一人ッ子らしい。どの世界でも妹は最強らしい。
しかし次で爆弾を落としてしまった。
「ああ、俺たち17歳なんだ。エメリア18?」
多少上目に言ってみた。多分同い年位だろうと思って。けど。
「..............................。」
「え?何かまずい事言った?まさかもっと上?」
ドラゴンは長命と聞く。全然違う可能性もある。
「...........................................15....................。妹じゃなかった。」
「そっちかー!」
女性に歳聞くものではない。これ異世界でも常識。
いずれはこうなる事なのだけれど、このタイミングかよ!とにかく平謝りした。
そして今に至る。
「エメリア様?」
「ぷんすか」
「あのー?」
「...........」
くっ!これだけは使いたく無かったけど仕方ない。
「エメリアお姉ちゃん!」
「ぱぁー!はい!おねーちゃんですよ!」
「ちょろかった。」
「何か言ったかしら?」
「いえ、何でもございません。」
なんとかご機嫌とりは成功した。何とかこのまま上手く行くと良いのだけれど。
「エメリアは可愛いから、怒った顔は似合わない。....くもないかな?」
「どういう意味?」
「いや、起こってても可愛かったから、つい。」
「むー!どうせ他の女の子にもそういう事言ってるんでしょ!」
言ったことあったかな?いや、思ってても無かったかも。うん、エメリアが初めてかも。」
「こ、心の声漏れてますよ?」
「く、風でそんな事も出来るのか!」
「心は読めません!奏がポロッと漏らしたんじゃん!」
「しまった。」
「ふん!」
あ、やべ!機嫌損ねてしまったか?と思いきや、小さい尻尾がさっきより動いている。まさか照れてる?
思わずその容姿に見とれる。髪は綺麗な緑色、まるで宝石の様だ。背中には翼を畳んでいるのか少し膨らんでいる。スカートの中からは緑の尻尾が伸びていた。背は少し僕より低く、細すぎず、太すぎず。すらっとした脚。顔はさっき見たときは瞳もエメラルドグリーン。ちょっとあどけなさを残しているけれど、将来有望だろう!
そんな可愛い彼女がブレスを吐くと、殆どの強面モンスターが吹き飛ぶから恐ろしい。そして美しい....かも。ちょっと悔しい事に。
もうさっきから強すぎるモンスターをブレスと炎の魔方陣で倒しまくっているため、レベルも上がってきた。
ユキチ カナデ Lv:27
適正職業:ヒーラー
HP:54
At:12
Gp:123
Ma:68
Mg:128
Sp:196
スキル:ヒール強化Lv9 mLv0
「相変わらずのポンコツ性能ね!」
「ポンコツ言うな!」
前言撤回。可愛く無い。
「かーわいい!」
「うう!」
逆に可愛がられる始末。
暫く進むと階段が現れた。
「階段..........。そう言えばここ何階だろう?」
「僕たちが落ちたのが8階。落ちたのが12秒たから、えっとおおよそ55階層?」
「え?ふーん?」
どうやら本当に答えてくれるとは思っていなかったらしい。そのままスルーしていることからただの戯言か、適当に答えたとか考えているだろう。俺も正確性に欠けた情報なので黙っていた。
「うーん!そう言えばさっきからブレス使ってるけど、マナが切れない。凄く回復速いわね。ここの辺りに聖域でも有るのかな?」
「聖域?」
「そ!聖域。聖域ってのはその場所に居るだけで魔力の増強、マナの高速回復等の恩恵が有るの。」
「へー。じゃあ俺のスキルのお陰では無いのか。」
「ん?奏のスキル?ふっ、ふふふ!貴方に何が出来るの?」
「んー、『ヒール』」
「ん?私怪我何てして無いけど?」
「マナは?」
「ん?あ、満タンだ!って嘘?半分しかマナ無かったんだけど!まさか....。」
頷いてみせると驚いて見せた。どうやらヒーラーは数が少ない。しかしこの中でもマナ迄回復出来るのは奏以外聞いたことすら無いらしい。
「こ、これは。貴方何者?」
「ただの最弱ヒーラーです。」
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ー輝ー
朝。人によって朝とは意味が変わる。
人によっては朝はただ、その日の始まり。
人によっては朝はただ、絶望の始まり。
輝は後者だった。昨日迄身体にあった何かが失われた気分だ。まだ両手が無くなった方がまっしな位。
ふと視線を落とすと司がいた。昨日は奏が死んだ事で気絶。すぐに屋敷に戻ったけど司は気がつくと半狂乱。落ち込む暇もなくなだめていたら二人してソファーで寝ていた様だ。どうやら自分も相当疲れていたらしい。司をどうにかしなきゃ。司の事なら先ず奏に相談....出来ない。
クラスの皆もかなり大きなショックを受けていた。
奏はクラスに馴染めない。しかし誰も奏を恨んだり、嫌ったりはしている人は少ない。武雄が奏にロックオンしているのは、クラスメイトに火の粉がかかりそうなとき、庇ったからだ。
皆は何も言わないけれど、色々奏は裏方で動いている。クラスは違えど噂は良く聞く。
故にクラスの皆はかなり大きなショックを受けていた。
頑張らなくては!そうだ!俺は勇者!勇者なんだ!だからこんな世界認めない。俺から大切な者
を奪うこの世界は俺が許さない。
「ん?っん?輝?おはよう!ってきゃ!」
「ん司おはよう!」
「なななんで私輝の腕のなかに?」
「何でって、司が泣きじゃくって宥めてたから。」
「うう、は、恥ずかしい。そ、そう言えばかな.......。」
話題反らしに奏の名前を使おうとして気がついた。まさかまた暴れだすのか?と身構えると。
「奏は...し、死んだ、のよね?」
「........ああ!」
「っ!死んでないわ。」
「はぁ?」
「奏は絶対に生きている。」
「何を根拠に。」
誰がどう見ても奏は死んだ。何故なら武雄曰くドラゴンが襲ったらしい。現場には大きな足跡と凄惨な破壊の爪痕もあった。生きている訳がない。だって奏はただの最弱ヒーラーだから。
「奏は生きている。私にはその証拠を持っている。」
「ほ、本当か!?その証拠って!」
「それは私の能力を使ったの。ただそれ以外の説明のしようが無いの。」
「どういう意味だ?」
「とにかく、私を信じて!」
いきなり信じてと言われても。一瞬ただ、奏の死を受け入れないだけかと思った。しかし司の目は去勢や盲信の類いでは無いと訴えかけている。
「それで輝!あのときの穴。どうなっていたか聞こうと思うの。」
「聞くって誰に?」
「それは、輝と一緒にいた近藤君しかいないでしょ?」
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ー奏ー
二人は再び洞窟の探索を続けていた。
「まさかまさか、本当に聖域とは!」
「これが有れば、エメリアも俺もマナの心配無し...だね!」
聖域。とある場所に有る世界の特異点。自然に沸くマナの楽園はとても希少な資源なんだ。けど、スキルで聖域化というスキルを取る事が出来た。これは自信から1メートル以内の仲間がマナの回復が出来るというスキル。実は自分のマナすら回復出来る。自分もある意味チートを授かっていた....かも知れない。自分で敵を倒さないと経験値が入らないのにレベル上げにならない攻撃貧弱がチート....と言うならの話だけれど。
どうにか一応役には立つと言う名目は立てることが出来た。
すると突然エメリアが叫び出す。
「あ!あそこに希少な鉱石が!」
「え?あれは最強硬度の金属結晶。何か危ない気がする。」
「何を言っているの?マグタイトよ!あんな綺麗な宝石見たこと無いわ!」
どうやらキラキラ青く光っているそれはとても綺麗だけれど、何か引っ掛かりを覚える。ダンジョン、宝石類......ミミック...。
「まて!エメリア!」
咄嗟に手を引っ張る。何事かとこっちを見るエメリアを強引に手繰り寄せる。ふわっといい臭いが鼻を掠めるが、無視だ無視!
足元の石ころを金属に投げる。すると空間が波打ち、石ころが消える。
「な!なにこれ?面白~い!」
「いやいや、面白いって....。トラップの可能性が大きいから!気をつけて!」
「大丈夫よ!私ならどんな罠でも粉砕してあげる!」
「それはとても心強いけど、ここは慎重に....ってあ!」
言ってるそばから空間にその空間に触ってしまった。空間に触った瞬間に周囲の風景が変わる。
洞窟風の風景から周囲はレンガ風のダンジョンみたいになっていた。
どうやら罠に触ったエメリアに触っていた自分もどこかに移動してしまったらしい。
周囲を見ると何も無い。けれど、猛烈に嫌な予感がする。そしてそれは突然に訪れる。
「え!何よこれは!」
「あ、アラート。だけれど、これはヤバそう!」
地面に転送陣が浮かび上がり、そこから一種類のモンスターが出現してきた。ただし100は越えるだろう!そのモンスターは二本の黒い角をもち、手が翼であり、足が異様に大きい。明らかに突進して角で敵を倒す風貌。それもかなり強そうだ。さっきの階層でもいたけれど、結構硬い。故にエメリアも、倒すのに時間がかかった。さっきは敵も一体だったから、突進をブレスで何とかしていたけれど、今度は大群。エメリアのブレスでは意味をなさない。ブレスの外から周り込まれたら終わりだし、先ず第一に周りを囲まれている。
「な、なに....これ!そんな...。」
「エメリア!静かに!どこかに出口が無いか探そう!」
「い、嫌!助けてー!」
いきなり大声を出すから、モンスターの目が全てエメリアを向いた。
「ひっ!」
「くっ!逃げ出すのは無理か!エメリアこっち!」
俺は項垂れるエメリアの手を引っ張る。そして壁際迄来る。
「エメリア、ドラゴン形態でタンクって出来る?」
「む、無理よ。あの角で一撃で貫かれてしまうわ!」
「わかった!前衛は僕がやる。敵は君を狙わない。だからブレスと魔法で一体づつたおしてくれ!」
「む、無理よ!あの数は無理!ここで死ぬしかないわ!」
「大丈夫!俺があいつらの目を引き連れる!だから頼む!エメリア!君が!君だけが頼りなんだ。」
「...無理...よ。あんたのステータスで何が出来るの!」
クルシュに、輝達に言われた事を思い出す。前衛が守らなければ・・・・・と。全て・・・とは言わない。が、ほぼヒーラーは前衛が居なければ崩壊する。しかし今は火力職とヒーラーしか居ない。前衛はいない。
「敵を引き寄せる事。全職業の中で一番モンスターから狙われるのがヒーラー。だから大丈夫!君にモンスターが襲う事は無い!」
「その前に貴方が...。」
「そう思うのならブレスで少しでも敵を減らしてよ!大丈夫!」
一度ここで言葉を切る。周囲を確認し、モンスターは攻撃を開始しようとしている。足踏みや唸りを上げている。全周囲確認良し。小手片方しかないけれど良し!杖は落としちゃったけど・・・・。いける!
ここで、エメリアに安心させる言葉は見つからないけれど・・・。一つ言える事がある。
「全ての敵は俺から目を反らせられない。」
次は聖域について