洞窟の5本道
輝と途中から奏視点
ー輝ー
俺たちは洞窟に入ってからまだ二時間しか経っていなかった。それでも昨日とはとても進度が違い過ぎた。
回復が有るのと、無いのとでは全く違う。傷付いたら暫く薬草で回復を5分ほど待たなくてはならなかったのに対し、今では奏のお陰でほとんどノンストップで進めている。ただそれだけでかなりの差だった。
「それにしても、さっきからモンスターの数が多すぎませんか?」
昨日しか潜っていない俺が言うのもなんだが、昨日と比べて明らかに多い。エンカウント率は倍近くあるんじゃないかと思う。
「うむ、何時もより少し多いな。しかしヒカル君とツカサ君、タケオ君が居るだけで、パーティーの火力、タンクは十分。しかも我々にはカナデ君が居る。この程度では、どうってことわ無い。」
「何、何かあったらワシらに任せておけ!」
ベテラン冒険者二人(一人は昨日の冒険者。もう一人はカナデの護衛)は自身満々に答えている。
「はい。そうですね.....。心強いです。」
「(どうしたの?輝?)」
俺の様子が気になったのか、司が話しかけてきた。流石幼なじみ。奏には届かないけど、やっぱり伝わるんだ。
「(んー、何か嫌な予感がするんだ。冒険者の人達はああ言ってるけど。何か皆が悪い事に巻き込まれるような。)」
「(心配しすぎなんじゃ無いかしら。)」
「(だといいんだけれど。)」
奏を見ると、警戒はしとくって顔に書いてある。
俺の顔をみて司は奏に警戒をするように伝えた事が分かったらしい。冒険者は注意深く周りを確認している。口ではああ言っていたけど、慎重にはなっているらしい。流石上級者と呼ばれるだけは有る。
パーティー皆でローテーションしているため、大してパーティー全体の疲労どは高くない。有るとすれば、団体行動特有の疲労...気疲れのようなものがあったりするだけ。
そのまま洞窟を進むと少し広い場所があった。その場所が正面に大きな扉。その扉を挟む様に左二本、右三本の枝道が出来ている。広場の中央には円盤の様な物を入れるオブジェクトがある。
「皆!一度ここで休憩しよう!このペースだと、15階は行けるかな。丁度半分位なので、暫く休憩取った後でパーティーを分けて行動しようか。」
どうやら5本の道が出来ている。これを三手に分けて攻略しようという事だ。
冒険者の皆で相談していたのを聞いていたけど、上級冒険者は2人。先生入れて転移組は10人。全員で12人になるんだけれど、とても最悪な事が起きてしまった。
パーティー編成だが、俺と司、黒木先輩、三バカトリオの一人。
奏とその護衛、野球バカ近藤、それと何と苛めの代名詞である武雄がペアになっていた。
先生と俺が抗議したが、武雄は敵に突っ込む事が多く、傷が絶えない。昨日のダンジョン探索も同じく、休憩のほぼ半数は武雄の傷の手当てが主だった。故に武雄に危ない戦いはしないように強く言ったのだが、武雄自体止めたいらしい。
「どうしても勝手に体が動くんだ。しかもこう、かー!っと熱くなって防御の事忘れちまうんだ。防御してーのに。いてて、おい、奏!さっさと直せ!」
とのことらしい。奏も少し呆れつつも今日何度目かの治療をしている。
「どうやらタケオ君はバーサーカーらしいな。バーサーカーは攻撃の意思を持つと攻撃しか出来ない様になる。コントロールは慣れればできるが、その分バーサーカーの特性、火力特化が消えるため、弱くなる。長所を生かすならカナデ君と組み合わせるのが一番合うんじゃないかな?」
とのことらしい。本当は、その長所消してもいいぞ!とか言いたかったけど、俺は言わなかった。そして奏を追いかける事も難しそうだ。因みに近藤も武夫と同じ理由らしい。カナデの護衛が居るから大丈夫だと・・・・。
5本の道の先にある5ヶ所の魔石に魔力を注ぐと、開くらしい。
パーティーの魔力量と編成の事を考えるとこの布陣しか無い様だ。
俺と由利子先生は諦め、司は武雄を睨んでいた。
「武雄!奏に何かあったら承知しないからな!」
「クラスの皆で袋叩きなんだから。」
お前らオトンとオカンか!というような目で奏は見てくるけど、無視無視!
「わーってるよ!俺だってこんな状況でやんねーよ!考えても見ろよ!諭吉がヒールしなければ俺は御陀仏だぜ?本当は俺だって多少嫌なんだ。」
奏がヒールを武雄に掛けなければ、ピンチに陥り易くなる。けど、奏には上級冒険者が居るから助かる可能性はかなり大きい。これで妥協しておくか。
一向はそれぞれの思いを持って別れた。
「奏!気をつけてな!暴漢に会ったら直ぐにきゃーって叫べよ!直ぐに駆けつける。」
「僕は小学生女子か!」
「ん?違った....な...。」
「おい!」
「安心しろ!この小学生女子は俺が守る。」
「武雄先輩!奏を宜しくお願いします!」
「だから輝は僕のオトンか!先輩も先生ですか!」
一頻り笑い合うと5手に別れた。由利子先生は武雄を恨めしそうに見てた。いや、先生がその台詞言ったらまんまでしょ!
和やかに別れた瞬間俺は敵を凪ぎ払う。
素早く敵を倒し、魔石に魔力を流して、奏の所へ行く。何か凄く嫌な予感がするんだ。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
ー奏ー
輝と司たちと別れ、武雄、近藤、上級冒険者と奥に向かう。その奥の魔石に魔力を流せばいいのだが、それまでに5手に別れてほぼ同時に魔力を満たさねばならない。ならないんだけど、俺たちのパーティーは止まっていた。何故って?俺があしを一歩踏み出したら何故か魔力がフルに溜まったらしい。
「お、俺スゲー!」
「な、何したんだ!諭吉!」
「...いや、カナデ君のお陰では無いな。何か扉の向こう側に何か居るのかも知れない。」
「何だ諭吉てめえ!一瞬てめえを尊敬しちまったじゃねーか!返せ!」
「そ、そんな無茶苦茶な!」
四人は直ぐに引き返す。が、他の班は次の場所に行ったらしい。僕たちは1か所しか待たされていない
暫く何もする事が急遽無くなってしまった。
他の班を追いかけるか提案すると。
「いや、扉前で待機していろ。俺は扉が開いたらこの先に何か得体の知れない物が居る気がするから少し見てくる。逃げろと言ったら逃げられるように準備しておけよ!お前らに何かあったらあの綺麗なユリコさんにしかられちまう。」
そこ?とか思いながら、ガハハハハ!と豪快に笑う所から見て冗談らしい。
「由利子先生は、甘い物が好き、辛いものが苦手、結構ぬいぐるみとか良いよ!お酒は結構行ける口だよ!ダイモン横丁のクローゼとか先生喜びそう!一度デート誘ってみたらどうですか?」
「「....。」」
「そ、そうか!....じ、時間が合えば。そうだな。」
この上級冒険者はタジタシ。顔が少し赤いから少しは脈あり、だろう。
「癒吉。てめえ、気持ち悪いな!」
「癒吉君。3ヶ月の引きこもりでそこまで根暗に....。」
「癒吉。俺のせいか。すまねぇー。」
「こ、近藤君?ちょっと残念な目止めて!武雄先輩も謝らないで!ちょっと!」
何故さっきから弄られ役に?
そうこう考えていると、輝たちが向かった道が魔力で青く輝き出した。
「やっぱりあの怪物ははえーな!」
「流石輝!」
「高枝君はつえー!是非野球部に!」
「その前に元の世界に戻れるかどうか・・・。」
そんなこんなで皆全て魔力を注ぐ事が出来たみたいだ。巨大な扉が開く。まだ輝達は戻らない。
「私は見てくるからここで待ってな!」
そう言うと上級冒険者は扉の隙間を通る。
残された俺たち。ふと、武雄が話し出す。
「癒吉!近藤だっけ?護衛のオッサン追いかけようぜ!」
「な、ここで待ってろって言われたじゃんか?」
「そうだよ!待ってよ!先輩。何か変だって言ってたし。」
「だったら尚更だろ?一人じゃあぶねー!それにこういう時は突っ込むと状況が良くなる。漫画だと。」
「「うーん。」」
僕と近藤は目を合わせる。
正直何か嫌な予感がするんだ。グダグタしていると...。
「おら!さっさとしろ!」
「痛い!痛いから!担がないで下さい!先輩。」
武雄は僕と近藤を担いだ。そのまま扉を潜る。