役に立たない召喚術
目にとめて下さり、ありがとうございます。
俺は召喚師である。
召喚師は、魔術の中で廃れた分野だ。都立魔術大学でも、講義を受けていたのは俺1人だった。講師の教授も参考書片手に朗読するだけだった。
本当に指定した【モノ】が召喚できるとは限らない。召喚された【モノ】が有益であるとは限らない。
ちなみに俺が召喚師になった理由は、単位の取りやすさからだ。大学を卒業し、都で就職も出来ずに里帰りした。
長閑な田舎町にて、俺は実家で農作業に明け暮れた。召喚術は毛ほども役に立っていない。
「いつまで。ナレーション続けんだお!飯にしてくれよ!もう昼だぞ!」
俺の後ろで喚いているメタボなニートがその証拠だ。
日本という国で無職な引きこもりをしていたというダイゴロウ(♂)、偽名だ。異世界で本名を名乗るのは、危険だとか言い訳しやがった。
こいつの国では、異世界召喚された時の為の基本知識があるそうだ。それだけの頻度、召喚術が行われているのかと聞けば、ただの妄想の中だけらしい。
随分と自意識過剰なお国柄だ。
特技はないかと聞けば、パソコンのカスタマイズと答えた。パソコンの説明について求めたが、理解できない専門用語を並べたてられた。
「異世界来たのに、トリップ特典もないのかお」
不満そうに俺をジト目で睨んできた。
俺の召喚術で来てしまったのだ。帰せるようになるまで、家に置いておくことにした。
居候の間は家事でもしてもらう。
「え~、勝手に呼び出しておいて扱き使うお?超理不尽」
畑を任せようと鍬をもたせれば、自分で足を怪我する。
料理を任せれば、火傷する。
洗濯は服を破く。
掃除は物を壊す。
「家でも、何もしてなかったのに、今更、できるわけないお」
剣を持たせ、魔物の駆除退治を任せようとしたが…。
「素人に剣持たすなんて、やだ~この人、ひとでなしだお」
腹が立って、拳骨をくれてやった。俺は悪くない。
元の場所へ帰す術は、思った以上に難航した。恩師の教授に協力を頼み、一カ月かけて完成させた。
その間、ダイゴロウはのんべんだらりと過ごしやがった。ただ、読解力に優れているらしく、読書をして過ごしていた。
何故か、お袋はダイゴロウを気に入っていた。昔、飼育していた豚を思い出したそうだ。お袋、ダイゴロウは食べられないぞ。
後は、術式を間違えずに法陣を描けば終わりだ。
その前に、こっちは一カ月も衣食住を提供したのだ。ダイゴロウにはひとつ、恩を返してもらおう。
「買い物に行って来い」
「へ?」
超簡単、夕飯の買い出しだ。
「いいか、このオレンジの道を辿っていけ、そうすると市場につく。露店の魚屋と肉屋と八百屋を回れ。そして、このメモを見せろ。俺の名でツケにしてもらえ」
俺は丁寧に市場への道のりを教え、買物籠とメモを渡した。現金など持たせない。スリに遭うのがオチだ。
「ボク、コミュ障なんだけどお」
「お袋や近所のおばさんと漫談できて、何がコミュ障だ!」
言い訳するコイツを家から叩き出した。
結果、三日後の昼に帰ってきた。しかも手ぶらだ。何故か身なりがボロボロだった。でっぷりとした腹が破れた服から、はみ出していた。
お袋が悲鳴を上げ、ダイゴロウを労わった。俺が一週間くらい無断外泊しても、心配しないくせに。
「お外こわいお、お外こわいお。お家に帰りたいお」
ダイゴロウは泣きながら、訴えた。
たかが、買い物に何を怯えてんだ。こんな面倒な物臭野郎と別れられるだけでも、御の字と思う事にした。
「二度とこんなところ来るか!もう呼ぶんじゃねえぞ」
ダイゴロウは散々、悪態ついて帰って行った。俺は清々したが、お袋は淋しそうだった。
翌日、俺の家に、領主様直々の訪問があった。
「この家に住む、ダイゴロウという御仁にお会いしたい。この国の窮地から救った英雄に感謝とそれに見あう褒美を」
最初は悪い冗談だと思ったが、違う。
俺は領主様から、ダイゴロウの召喚を依頼された。だが、何度やってもダイゴロウは喚び出せなかった。代わりに、立派な黒豚ばかり呼び出された。
本当、召喚術って役に立たねえ!
読んで下さり、ありがとうございました。