Day 559 エピローグ
パーティーから1週間後、俺たち地球出身組は教室の近くに集まっていた。既に還るやつらは教室の中にいる。俺や歩、浩一たちは見送りだ。
結局こっちに残るのは俺を含めて11人。予想以上に多い。その大半がこっちで相手を見つけたやつだ。
明山と黒川はこっちの王女と恋仲になったから残ると思ったんだが驚いたことに地球に還るらしい。ただ願い事で地球とこっちを自由に行き来する力を貰うと言っていた。
そんな力を貰えるとは思えないんだがチート2人だしどうにかなるか? まあ貰えても色々と制限がつきそうだ。
そして時計が12:00を指すと同時に光球が上空に現れる。
『は~い、それではこれから異世界転移を始めま~~す!! ご利用の方は急いで教室に入ってくださいね~~ ではいきま~~す!!!』
光球がそう言うと同時に教室がどんどん薄くなっていき、完全に消える直前に閃光を放った。
余りの眩しさに思わず目を瞑り、視力が回復した時にはもうそこに教室は無かった。転移したのだろう。
『さて、教室の人達の願いは転移中に聞くとして…… それではこっちに残った皆さ~ん! 願い事を言ってってくださ~~い!!』
周りが言いにくそうにしている。こういう時日本人は最初に言うのを嫌いそうだからな。何時までも待ってるのは時間の無駄だし俺から言うか……
「家が欲しい、俺が望む形と立地の」
場所はスタディルがいいよな、慣れているし歩のパーティーメンバーの拠点でもある。半年間スタディルを守っていたためか彼女たち3人もそれぞれ相手を見つけてスタディルから離れる気が無くなったのだ。
俺が望む家は生産に必要な作業部屋にそれなりに広い風呂、トイレは2ヶ所欲しいよな。後は個人部屋が4~5室にLDKは必須。後は―――
と、結構細かく想像し、足りない分は補ってもらう形で家を貰う。もうスタディルに建てられたそうだ。矛盾が発生しそうなところは神パワーでどうにかしたらしい。
「悠人の禁薬の後遺症を無くして」
次に言ったのは歩だ。その薬指には昨日俺が渡した指輪が。
昨日、指輪と共にプロポーズをし、満面の笑みと1筋の涙と共にそれは受け入れられた。元々勝ち目しかないようなものだったが重要なけじめだ。
半年前のあの日からずっと側で支えてくれた歩の存在は俺には勿体無いとさえ感じるが、絶対に手放したくない。
歩が願いを言うと半年間感じていた倦怠感が嘘のように無くなり、念のためにステータスを確認すると数値が倍になっていた。それを歩に告げると日溜りの様な笑みを返してくれた。
「ティナと同じだけの寿命が欲しい」
これは佐藤の願い。仮にも龍であるティナの寿命は相当長い。短くても千年単位だ。とてもただの人間が生きていられる時間じゃない。それでもティナを遺して逝きたくないんだろう。そんな長く生きるのは苦痛にしかならない気がするがティナと添い遂げることにしたらしい。
他のやつも次々と願い事を言っていく。即物的な物やどこかおかしく感じる物等様々だ。
全員が願いを言い終わると光球は『それでは皆様ご機嫌よ~~』とだけ言い残して消え失せる。もう会う事もないだろう。
「終わったね。 そして始まるね、私たちの新しい生活が」
「ああ、そうだな。 ……帰るか、俺たちの家へ」
「うん」
佐藤も連れ《ワープ》を発動する。転移先はスタディル。ティナ、フェリ、リタ、ルディが待ち、俺と歩の家がある場所。帰るべき場所。
歴史書に書かれるであろう1つの物語の最初と最後。その両方に立ち会った語られる事の無い1人の男の話。
これは後世語られることのない、伯父の最後の願いを叶えられた脇役の物語―――――
(脇役影野の異世界譚―fin―)
10:00にあとがきを投稿します




