Day 552 終わりの宴
魔王出現からおよそ半年、明山、黒川の2大チートの働きで遂に魔王が討ち取られ、此処ユルス皇国で祝勝会が開かれることになった。
元々魔王を討伐する気はないと言っていた黒川たちのグループだが、魔王が現れた以上倒した方が早く地球に返れるし、明山たちの事が心配という理由で結局は戦ったらしい。この世界の人に対する情もあるんだろうけど。
ユルスで祝勝会を行う理由については此処が中立であり、魔王討伐の立役者2人が所属している国両方と隣接しているからだ。魔王討伐の立役者になった集団が2つの大国所属だったからどちらかに偏らないよう配慮したらしい。
俺や歩、佐藤もこのパーティーに参加している。クラスメイトだからと誘われたせいだ。まあ、佐藤はティナに乗って文字通りあっちこっちの戦線を飛び回わって戦果を挙げたけどな。眷族も[悪魔]を含め3体倒したらしいし。俺も補給関連で地味に活躍した。
そもそも禁薬の副作用のせいで俺は現状、碌に闘えないからそれしかできなかった。そんな俺を現実的にも精神的にも支えてくれた歩には感謝が絶えない。
「ふう……」
パーティー会場の壁に寄りかかって溜息をつく。正直疲れた。もう3時間以上続いている。長いぞ……
隣にいる歩が気遣うようにこちらを見て飲み物を差し出してくる。ありがたく受け取ってそれを飲んでいると佐藤とティナが近付いてくる。
「お疲れだな影野。 その足のせいか?」
「ああ、『シャイニングドラグナー』か。 まあ魔力を常時消費するタイプの魔導具だからな。 それでも本来の足と同じ様に使えるんだから便利なもんだよ」
ニヤッと笑ってそう答える。それを聞いて嫌そうに顔を歪める佐藤。龍形態のティナを駆って活躍した佐藤についた二つ名だ。初めて聞いた時はその厨二病な響きに大爆笑した。歩は微妙な表情を浮かべていたな。
半年前の戦いで失った左足には自作の魔導具の義足を嵌めている。定期的なメンテナンスが必要であったり、魔力消費の問題はあるが以前と変わらない動きができるから便利な物だ。製作に3ヶ月、慣れるのに1ヶ月も掛かったが今では元の足と大差ない。
「それで呼ばないでくれよ、さっきも散々クラスメイトにからかわれたんだぞ!! 厨二だ厨二って…… ところでお前らもこっちに残るのか? 俺含めて少なくとも7人は残るみたいだけど」
こっちに残るメンバーは佐藤のように何かしら大きなしがらみができたやつらだ。主に恋愛関連で。俺には確かにこっちに残るしがらみなんて無いが。
「そうだな、俺としてはこっちに残るつもりだけど……」
そこで言葉を切って隣に寄り添う最愛の人を見る。
「私も残るよ。 ちゃんと悠人の側にいるから」
そう言って微笑む歩。あの日、確かにそう言っていたが俺の心の中にはその言葉を信じきれない部分もあった。その不安を打ち払ってくれる。歩の存在は本当にありがたいな。この半年、彼女の優しさに何度救われた思いになったか……
「アユムはそれでいいの? 家族と会えなくなるのに……」
ティナのやつ、歩に聞いているようで佐藤にも確認を取っているな。視線が一瞬そっちに行った事で気付いた。まあ、家族に会えなくなるのは佐藤も同じだし、ましてや自分のために残るんだ。しっかり確認しておきたいんだろう。
少し遠回りな気もするが直接聞くのは怖いんだろうな。
「うん、家族に悠人を紹介できないのは残念だけどずっと側にいるって決めたから」
「家族も大事だけどそれ以上に相手が大事ってことだろ。 残るやつは大抵そうさ。 もちろん俺もな」
歩の返事に相鎚を打つ佐藤。だから心配すんなって、と言いつつティナの頭を撫でている。なんだか佐藤の女性への対応が上手くなった気がするな。
そのまま会話しつつも視線を周囲に向ける。明山と黒川の隣にはそれぞれが属していた大国の王女が、明山の右腕だった鈴木啓の隣にはウィリスの聖女が、黒川の副官だった宮本武の隣には元奴隷の犬っ娘がいたて楽しそうに談笑している。
他にもこの世界の人と恋仲になったやつやクラスメイト同士でカップリングが成立したのも何組かいるようだ。というより大半に恋人が出来ている。
相手が出来ずに独り身なのは教師の山田先生含めて4人だけ。凄く肩身が狭そうだ。今も壁際でまとまっている。
こっちに飛ばされてから約1年半、その中で命を落としたやつもいる。生き残った地球出身者は30人、5人が魔王との戦争で、2人が魔王出現前に亡くなった。この2人に関しては自業自得らしい。馬鹿な行為をして断罪されたのだとか。
いきなり会場が不自然に静かになった。なんだと思っているとあの神を名乗る光球が会場の中央に出現した。
『お疲れ様で~~す!! 無事魔王を倒してくれたみたいでほっとしました。 今から地球出身者に大事な御知らせで~~す! 元の世界に還りたい人は1週間後の12:00までに教室の中に入っていてください。 念のために言うとこの世界に来たと聞いた場所ですよ~。 ちなみに還らない人は地球で存在した痕跡が全て無くなるので親とかに心配されたりする可能性はありませ~ん。 それとご褒美として1人につき1つなんでも願いを叶えてあげま~~す。 1週間後までに考えておいてくださいね~~!! 私って太っ腹っ!!!』
久しぶりに声を聞いたがイラッとするな。しかし言っている事は重要だ。還るつもりはないが何でも1つ願いが叶うというのは大きい。
『それでは1週間後にまた会いましょ~~』
それだけ言って光球がいなくなる。願い事を何にするか……
**********
パーティーは光球の出現を機にお開きとなりそれぞれに割り振られた客室にどんどん戻っていく。何人かはそれぞれの相手と夜の散歩やらなにやらに向かったみたいだが。
そして俺と歩も割り振られた部屋に入る。部屋数の関係もあり同じパーティーや恋仲の相手は同室になるよう割り振られているため俺たちも同じ部屋だ。……ちゃんとベッドは人数分あるぞ。
「悠人、悠人は願い事なんにするの?」
お互い自分のベッドに腰掛けながら会話をしていると突然そんな事を聞いてきた。
「そうだな、家…かな。 こっちに永住する以上いつまでもアパートの一室じゃあな。 金はそれなりにあるけど復興でしばらくごたごたしそうだし、願い事で貰った家なら色々便利な機能が付きそうだしな 歩はどうするんだ?」
「私は悠人の禁薬の副作用を無くしたいかな? 悠人がずっと苦しむのは嫌だから……」
「いや、俺のために願い事を使わせる訳「いいの!!」…には……」
歩の願いを聞いて変えるよう言おうとしたら遮られ、ベッドに押し倒される。ステータスの差が大きいせいでそのまま身動きが取れなくなる。
「いいの。 私がそうしたいからそうするだけ。 それに悠人、本来のステータスならこんなに簡単に押し倒されてないよ? 抵抗できない程弱ってるんだからもっと私に甘えてよ。 重荷でも苦痛でも無いから……」
その言葉に思わず身を委ねそうになる。しかしそこを甘えてしまうのはどうなんだと抵抗する。
「いや、俺がそう願えばいいだけだろ? 家は金があれば願い事で貰うものに劣りはするだろうが買える訳だし、絶対すぐにいる訳じゃあない。 いくら恋人でもそこまで甘えることはできない」
俺がそう言うと歩は自身の体を支えていた腕の力を抜いて俺にのしかかり、手を背中にまわして抱きしめてくる。
「いいの、私にとっても悠人の家が欲しいって願いは大切なんだよ。 それに私は他に願い事なんて無いもん。 それとずっと側にいるって言ったでしょ。 その言葉を、その……まっすぐ受け止めてよ………」
すぐ眼の前にある歩の顔が言葉と共にゆでダコ状態になる。後半部分は消え入りそうな声だったが決して聞き逃す事は無かった。
(そう、か…… 歩は俺と………)
歩のその発言で言葉の意味を理解した。俺を安心させるためだけにそう言っていた訳ではなかったのか。しかし、告白だけでなくそれすらも女性側からされるのはどうなのだろう?
俺も歩と共にいたい。その気持ちはこの半年の間にどんどん強くなっていった。だから俺は……
「………地球に還る日の前日」
「え?」
「その日に、俺から言わせてくれ。 その時に決めてくれ、本当にそれでいいかどうかを」
俺が何を言いたいのか一瞬分からなかったようだがすぐに理解し頷いてくれる。
「……うん、わかった。 けど、私の答えはきっと変わらないよ」
そう言って俺の唇と自分のそれを重ねてくる。
ああ、歩とずっと一緒にいたい。この温もりを手放したくない。気がつくと俺は力の限り歩を抱きしめていた。歩もそれに応えてくれる。
(直人さん、見つかったよ。 俺の……)
そして夜は更けていく。
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