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Day 378   戦い終わって

「ここは……」


 ぼんやりとした意識の中、最初に視界に入ってきたのは見慣れた天井だった。どうやら俺が借りている部屋にいる様だ。


「あっ、眼が覚めたんだ悠人。 よかった……」


 ベッドのすぐ横にある椅子に座っていた歩が声をかけてきた。それに返事をしつつ体を起こそうとすると歩が背中を支えてくれる。酷い倦怠感を感じていたためその行為はありがたかった。


「あれから12日経ったんだよ。 今まで眼を覚ましても意識が朦朧としてたみたいだから覚えてないでしょ? 心配したんだよ。 すごく苦しんでたようだし……」


 それは禁薬の副作用のせいだろう。最も酷い副作用が襲うのは禁薬を飲んでから10日間だからな。しかしその間丸々意識が無いとは……


「あっ、お腹空いてるよね? お粥作って来るからちょっと待ってて」


 そう言って神田はキッチンに消えていった。それと同時に話し声が聞こえてきて佐藤が部屋の中に入って来る。ダイニングの方にいたのだろう。他のメンバーもいるのだろうか?


「おっ、眼が覚めたのか! よかった、よかった」


 なんて言いながら近づいてきて椅子に座る佐藤。


「神田に感謝しろよ? 意識が無い状態でうめいているお前に定期的に【治癒魔法】掛けてたんだから。 基本徹夜で看病してたしよ。 流石に途中から止めに入って【治癒魔法】はティナとフェリを合わせたローテーション制にしたけどな」


 そう言われれば歩の顔色が悪かったような気がする。それに少しやつれていたかもしれない。


(けど、そこまで心配されるのも初めてかもしれないな。 歩の体調を気にするより先にそんな事を考えるのはどうかと思うけど……)


 佐藤の言葉を聞いて最初に感じたのは歩を気遣う思いではなくそこまで心配してくれたことへの喜びだった。そのことに少し申し訳なく思う。


 気分を切り替えて佐藤に礼を言う。命の恩人になる訳だしな。


「歩だけでなくお前と、あとティナにも礼を言わないとな。 倒れた俺を助けたのはお前だろ? それに[悪魔]の動きを止めた火球はティナのものだろ、お前も降ってきたし」


「ああ、あんまりにも敵が多かったからティナと親玉を潰そうって話になったんだ。 それで上空から突っ込んだらお前がやられそうだったんでな。 慌ててティナに牽制の火球飛ばしてもらったんだ。 ビックリしたぜ? 片足無いし何時まで経っても意識取り戻さないし呻き声上げ始めるし」


「悪かったよ。 それと助けてくれてありがとう。 ついでに俺はもう戦力にならないだろうから魔王討伐頑張ってくれ」


 素直に礼を言うとどこか照れくさそうにする。男がやってもきもいだけだな。


「分かってるよ。 明山たちと一緒に頑張るさ。 けど薬の補充とか頼むぜ? お前が寝ている間に残党討伐とかしたせいでもう数があんま無いんだ」


 寝ている間に色々あったんだな。薬の補給も大変なのだろう。


「分かった。 ただし今までのより質は落ちるぞ。 そこは了承しておいてくれよ」


「……どういうことだ?」


 俺の発言に疑問を抱き聞いてくる。できれば言いたくないが誤魔化しが効かないレベルで質が落ちる以上言うしかないだろう。


「禁薬の副作用だよ。 ……疑問に思わなかったのか? 俺が魔王の眷族なんかと渡り合えていた事に」


 いくら佐藤が目撃したのが死にかけの俺の姿だったとしても既に[悪魔]は片腕が無くあちこちに傷が出来ていた。そのことに違和感を覚えているはずだ。


「確かにあれを倒したせいかレベルが3つも上がったよ。 そう考えると確かに異常だな。 俺よりレベルが低いのにあんな深手負わせられたなんて」


 3つもレベルが上がったという事は佐藤からしても相当の格上だったという事だ。勝てたのは俺が与えたダメージに装備の質、最初の不意打ちのおかげだろう。


「あの時の俺は禁薬の効果で一時的にステータス3倍、即時全回復、魔力無限の効果を得ていたんだよ。 力に振り回されて結局眷族を倒す事も出来なかったけどな……」


「マジか!? その禁薬ってのがあれば魔王なんて楽に倒せるだろ。 俺にもくれ!!」


 禁薬の強大な効果を知って眼を輝かせる佐藤。しかしこいつは肝心の事を忘れている。


「馬鹿かお前は…… 副作用があるって言っただろ。俺はそのせいでレベルが上がる事は無いし全ステータスも半減している。 ついでに倦怠感にも襲われている。 下手すれば5感の1つも失う。 言っておくが一時的じゃあ無く一生このままだぞ。 それでもいいって言うなら渡すけどな」


「ってお前そんなの使ったのかよ!? 何考えてんだ!!」


 淡々と禁薬の副作用を述べる俺に怒ったように佐藤が怒鳴ってくる。


「使ってでも守りたかったんだよ…… 本当に、以前お前に言った通りになったよ」


 俺のその言葉に佐藤が急に静かになった。


「……愛に狂うってやつか。 で、お前はそれに見合うものを与えられるか、神田?」


 佐藤がチラリとドアを見やると同時に開き、歩が入って来る。その手には土鍋が。


「与えられるよう頑張るよ。 私は悠人といるって決めたから」


 きっぱりと言い切る歩に苦笑しつつ佐藤は立ち上がる。


「とはいっても見ていて危なっかしいんだよな。 まあなんかあったら言ってくれ。 力になるからさ」


 そう言って佐藤は部屋から出ていく。2人きりにしてくれたのか。


「ねえ、悠人が禁薬を使ったのって私のせい?」


「……………」


 ある意味ではそうだろう。歩の存在が無ければ禁薬を使う事も無く自分の命優先で逃げていただろうから。


 けれど使う事を選択したのは間違いなく自分で、他人のせいにするつもりはない。結果として俺は無言を貫いた。


 そんな俺の様子を見てどう思ったのか歩は椅子に座りお粥を差し出してくる。起きた時から空腹は感じていたので大人しくそれを食べることにする。


「いただきます」


 丁寧に作られたそれはお粥と言う中では十分美味しい部類に入った。久しぶりの食事に胃に負担をかけないよう少しずつ食べていく。


「私、悠人の事を支えられるよう頑張るね」


 お粥を食べている時とても小さな声で囁かれたその言葉。それは意思表明のための独り言のように思え、あえて聞こえないふりをする。


 結局半分ほど食べたところで食事は終了し、襲ってきた睡魔に身を委ねることにする。


「おやすみ、悠人」


 歩のその一言に安心感を覚えつつ、俺はゆっくりと眼を閉じた。


次回投稿は明日7:00です

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