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Day 366   悪魔

「うおおおおおぉぉ!!!」


 3つの禁薬を飲み、戦線に復帰した俺は手当たり次第敵を斬り裂く。急激に上がったステータスを使いこなしているとは言えず、振り回されているが十分力押しできる。


 この1年間で培ってきた細かな技術は扱えないがステータスの高さ、半不死、魔力無限という純粋な力を前面に押しだし、どんどん斬り込んで行く。


 とにかく時間との勝負だ。禁薬の効果は1時間しか持たず、切れた後俺は完全に戦闘不能になる以上できる限り敵の戦力を削るべきだ。


 そのためにも指揮官を討つ。俺は【隠密】を用いつつ一気に敵陣深くまで突貫する。指揮官さえ倒せば組織立った攻撃はできないだろうし浮足立ちもするだろう。戦況をひっくり返すにはそれが一番手っ取り早い。


(いたっ!!)


 そいつは最後尾にいた。人型でトカゲのような尾と蝙蝠の羽、鬼のような2本角を持った存在。魔族と呼ばれる魔王の眷族。


 隠密状態からの不意の一撃。しかし存在がばれていたようで、盾代わりにされた右腕を斬り落とす事も出来ず弾かれる。


「ほう、ここまで辿り着くとは中々…… どうやら相当な無理をしているようだがおもしろい。 お前たちは手を出すな。 魔王様に仕える22の眷族が1人、この[悪魔]が直々に相手をしてやろう」


 弾かれた勢いを利用して距離を取った俺に悠々と名乗りを上げる魔族。それと同時に周囲にいた魔物が離れていく。一騎討ちをしてくれるのはありがたい。魔族の体から禁薬を使用していなければ先ず勝てないと思わせるだけの圧力が放たれている以上他の敵を相手にしながらでは勝ち目は無かっただろうから。


(厳しい戦いになりそうだな……)


 禁薬の効果が切れるまで後40分強。それまでになんとしてでも倒さなくては……



**********



 2つの影が何度も交錯し合い甲高い音と共に火花を散らす。戦闘を開始してから既に30分以上経過しており、時間制限が刻一刻と迫る。


 高いステータスを生かしきれない俺と禁薬の圧倒的な効果のせいで攻めきれない[悪魔]。戦いは一種の膠着状態になっていた。


 これまでの戦いで俺の装備はぼろぼろだ。コートはあちこちが破け、ハイミスリルの胸当てと脛当てには罅が入り、投具もほぼ打ち切り。対して[悪魔]の体は切り傷だらけだがどれも致命傷には程遠い。そもそも禁薬counterfeit immortalityの効果が無ければとっくに俺は死んでいるだろう。


(このまま戦っても勝てないな。 時間が無い以上賭けに出るしかないか……!!)


「はあっ!!」


 そう決めると俺は守りを捨てて大きく前に出つつ全力で突きを放つ。これまでの流れを崩して放つ不意の一撃。当たれば深手と言えないまでも相応のダメージにはなる。しかし、


「舐めるなアアァァ!!!」


 あっさりと左手で剣が掴まれ、体を貫く事無く止められてしまう。そのまま[悪魔]は手に力を込め、ハイミスリルソードが粉々に砕かれる。


 ニヤリと笑う[悪魔]。だが笑うのは俺だ。賭けに勝ったのだからっ!!


 確かに俺はメインウェポンを失った。だが剣が砕かれ、破片が宙を舞う今の状況はチャンスでもある!!


「風よ、吹き荒れろ《ストームゲイル》!!」


 斬撃能力を持つ突風を引き起こす風の中級魔法を素早く唱える。引き起こされた風はハイミスリルソードの破片付きで[悪魔]を襲う。


「小癪なっ!?」


 顔を腕で庇う[悪魔]。それによって視界が塞がれた隙に素早く背後に回りつつマジックポーチから予備の剣を取り出しざまに斬り上げる。


「ぐあぁ!?」


 俺の一撃は[悪魔]の左腕を肩の付け根から斬り落とし、そこから青い血が大量に噴き上がる。コイツが固いのは肘から先にかけての部分のみでそれ以外は普通に斬る事が出来た。だからこそ肩の部分を狙ったのだ。


 目論見通り片腕を奪えた。このまま押し切る!!


「はあっ!!」


 苦悶の表情を浮かべながらこちらに振り向いてきた[悪魔]に半歩近寄り零距離に。前に出た勢いを乗せ左手を[悪魔]の腹に押しつける。


「がはっ」


 所謂、寸剄と呼ばれる衝撃を直接叩き込む技だ。高い【体術】スキルのおかげで多少なりとも扱える。


「うおおおぉぉぉ!!」


 止めとばかりに首を斬り落とそうと剣を振るう。しかしその直前、


「調子に…ノルナァァァ!!!」


 絶叫と共に[悪魔]が右腕で薙ぎ払う。俺はそれを避ける事も出来ず吹き飛ばされた。衝撃で吐血するが禁薬の効果によってすぐに回復する。


 剣を地面に突き刺し、飛ばされる勢いを殺しつつ体勢を立て直そうとした俺の眼に入ってきたのは[悪魔]が黒く染まった光の奔流を放つ光景だった。


「ッ!!?」


 身を捻り、剣で無理矢理横に移動したことで辛うじて命は助かったが、左足は奔流から逃れられず膝より先が消失、剣も跡形もなく溶けてしまった。


 禁薬の効果で傷はすぐに塞がったが禁薬に部位欠損を治す力はなく、勢いも完全に殺し切れていなかったため片足で避けるために崩れた体勢を整える事が出来ずに無様に地面を転がる。


「ぐっ、くうっ!!?」


 地面にぶつかる衝撃を受けつつ10m程進み、止まる。顔を上げると[悪魔]がゆっくりとこちらに歩み寄って来るのが見えた。左腕は再生していないが出血は既に止まり、傷も塞がっている。とんでもない再生力だな……


(ここまでか……)


 現状を冷静に把握しそう結論を出す。メインの武器と片足を失い、防具もボロボロ。投擲用の武器は僅かに残っているが、毒が効かないコイツをそんなもので倒せるはずもない。


 だが、コイツの片腕を奪う事は出来た。次に戦うやつは大分有利なはず。なら、ここで倒れても意味はあるだろう。


「死ネッ!!」


 そう言って[悪魔]が俺に止めを刺そうとしたその瞬間、空から無数の火球が降り注いだ。


「なに!?」


 牽制目的だったのかその攻撃は俺にも[悪魔]にも当たらなかったが動きを制限することはできた。たまらず[悪魔]は後ろに飛び退る。


「うらあぁぁ!!」


 そこを次いで空から降ってきた男の攻撃に襲われ、咄嗟に盾代わりにした右腕ごと[悪魔]は体を斬り裂かれる。


「馬鹿なっ!!?」


 腕ごと斬られたことに驚いたのか[悪魔]の動きが完全に止まった。その隙を逃すほど降ってきたやつは弱くない。


「でりゃあぁぁ、《龍断閃》!!」


 男が放った【剛断剣】上位アーツの直撃を受けた[悪魔]の体が十字に切断された。これで終わりだろう。


「魔王…様……申し……あり……せ……………」


 その言葉を最後に[悪魔]は黒い光の粒子となって消滅する。魔物たちは[悪魔]が倒されたために混乱し、右往左往しているようだ。


 それだけ確認したところで緊張が切れたのか意識が遠くなる。最後に見た光景は[悪魔]を仕留めた存在――佐藤の慌てた顔だった……


次回投稿は19:00です

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