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Day 366   禁薬

 俺と歩がギルドに辿り着くとそこにはすでに多数の冒険者が集まっていた。佐藤とティナ、フェリたちの姿も見える。


 5人共こっちを見てニヤニヤとしている。少しうざい。


「よく集まってくれた、諸君!! これより状況説明を行う!!」


 佐藤達の下に行こうとしたその矢先、ギルドマスターが姿を現し話始める。冒険者たちは私語を止めて全員ギルドマスターの話に耳を傾けている。移動できなくなったな。


「今回緊急招集を行ったのは魔物の大群がステディルに接近中という報告が来たためだ。 ただし、その数はいつものおよそ5倍でありフォレストオーガキングの様な上位の魔物の存在も確認されている!!」


 その話にざわめきが生じる。フォレストオーガキングはスタディル近辺の森奥深くに生息している魔物であり、そのレベルは100前後とかなりの強敵だ。佐藤なら真っ向勝負で勝てるだろうが俺じゃあ不意打ちや薬に頼らないと勝つことができない。


 それにしても魔物の襲撃は以前にも1度経験したがそれの5倍か…… 此処にいる人数では対応しきれないんじゃないか?


 そんな事を思っている間にもギルドマスターが発言を続ける。


「今回は街を挙げての総力戦だ!! 学園の教師や上位生徒も防衛戦に参戦する!! 諸君らも彼らに後れを取ることなく奮戦し街を守り抜くぞ!!!」


「おおおぉぉ―――!!!」


 ギルドマスターの鼓舞と共に冒険者の雄叫びがあちらこちらから上がる。それをしり目に俺は歩の手を取って歩き出す。目指すは佐藤達がいる場所。先ずはあいつらと合流しないとな。



**********



「数が多すぎるっ!?」


 次から次へと迫りくる敵の数に思わず舌打ちする。斬っても斬ってもきりが無い。


 そこは地獄とも言えるような先の見えない、何時までも続くと錯覚させられる戦場だった。


 戦いが始まって既に1時間近くが経過し、俺の周囲には魔物の死体が山となっている。


 しかし、被害があるのは当然魔物側だけでなく、深手を負い即時戦線復帰が不可能な者ややられてしまった者もいる。そのせいで少しずつ戦線が後退していき、俺は歩と共に孤立し、魔物に囲まれた状態になっていた。


 もっともこれは80を超える高レベル者にほぼ共通して起こっていることだ。というよりこうして俺たちが敵陣内で暴れていないと前線が崩壊しかねないせいなんだが。


 最初は共に戦っていた佐藤やフェリたちとも途中で別れることになった。高レベル者を分散させなくてはとてもではないが守り切れなかったせいだ。


 何処かが押し込まれそうになる度に何人かがそちらに向かい、バランスと連携を考え佐藤&ティナ、俺&歩、フェリ&リタ&ルディの3グループに分かれて行動することになった。


 現状此処にいるのは俺と歩の2人だけだ。お互いに疲れの色が見える。


 長く続く戦闘で集中力が落ち、余りの数に注意力が分散しすぎたのだろう。フォレストオーガキングの接近に気付くのが遅れてしまった。そして気付いた時にはもう腕を振り上げ終えており、すぐにその一撃が襲い来る。


「しまっ……!?」


 避けられないっ!!フォレストオーガキングはレベル100前後の上位魔物。それの直撃を受けたらタダでは済まないだろう。


 骨の数本は覚悟し、少しでも受け身を取ろうとしたその瞬間、俺の体が横から押された。驚いてそちらを見やると歩の姿が。俺にニコッと笑いかけてきた彼女は次の瞬間にはフォレストオーガキングの一撃を受けその場から消え失せる。


「っ歩!?」


 俺を庇い、大木の様な腕に吹き飛ばされた歩。その事実に一瞬頭の中が真っ白になり血の気が引く。


 50m程宙を舞い、地面を転がった歩はそのままピクリとも動かない。まさか、という思いがあるが歩は俺が渡した守護のペンダントを着けていたし、この戦いが始まる前に他にもダメージ軽減の効果がある魔導具を渡している。生きているはずだ。


 しかしそんな歩の下にフォレストオーガを含めた数体の魔物が近付いて行く。このままじゃ歩が……


 すぐさま歩の元へ行こうとする俺の邪魔をするかのように歩を吹き飛ばした元凶が立ち塞がった。その顔は醜く歪んで笑みを作っている。


「邪魔を……するなぁ――!!!」


 怒号と共に【暗殺術】アーツ《フェイタルシュート》を発動させながら左手のハイミスリルダガーを全力でフォレストオーガキングに投擲し、それがもたらす結果を見ることなく巨体の横を通って歩の下に駆け寄る。


 通り過ぎた後、後ろからズズン、と何か重いものが倒れる音がしたのでフォレストオーガキングの即死に成功したのだろう。


 《フェイタルシュート》は投擲した武器が急所に命中した際、一定確率で敵を即死させるアーツである。確認しなかったので俺が知る事は無かったが、投げた短剣はフォレストオーガキングの心臓に突き刺さっていた。


 倒れて動かない歩に止めを刺そうとしているフォレストオーガに向け、スローイングダガーを放つ。


 即効性のある猛毒と麻痺毒が塗られたそれはフォレストオーガの喉に突き刺さり、敵の動きを少しの間だけ止める。だがその一瞬で十分だ。


 止まっている間に歩の下へ辿り着くことに成功した俺はフォレストオーガを体術と爆弾で吹き飛ばすとすぐさま呪文を唱え始める。


「風よ、吹き荒れ竜巻となり、我が身を守る壁となれ《トルネードウォール》!!」


 唱え終わると同時に俺を中心に竜巻が出現し、周囲にいる魔物を切り刻む。風の上級魔法であり、攻防一体の術だ。効果発動中のおよそ30秒、俺がいる場所は安全地帯となる。


 その貴重な時間を無駄にしないためにもすぐさまマジックポーチから1本の薬を取り出し、半分程を歩にふりかけ、残りを少しずつ飲ませる。歩の意識が無いため気を遣う作業だ。


 俺が使用した薬の名はエリクサー。材料の関係で1つしか調合できなかった、最高級の効果を持つ回復薬だが、歩を助けるためなら惜しむ気は無い。


 治療が終了したのと同時に俺は転移符を使用し、自分の部屋へと転移した。転移しきるのと時を同じくして《トルネードウォール》の効果が切れたので、ぎりぎり間に合ってよかった。


「…………」


 傷は治ったが、まだ意識を取り戻さない歩をベッドに寝かせる。


 転移先を自分の部屋にしたのは下手な場所に転移するのは危険だったからだ。はっきり言って今回の襲撃は異常だ。十中八九魔王が現れ魔物が活性化したせいだろう。


 だとしたら他の街も魔物の大群に襲われている可能性が高い。ならば眼の届く、魔導具で防衛能力を可能な限り強化してあるこの部屋の中が一番安心できる。


 歩の脈と呼吸が安定しているのを確認し、ほっと息をつく。時間が無かったため薬だけ使って確認する暇が無かったので心配だったが、これなら命に問題なさそうだ。


 歩が俺を庇って吹き飛んだ瞬間、間違いなく冷静さを完全に失った。その事実に驚いている俺がいる。少なくとも今までは何があろうと心のどこかでは冷静な自分がいたのだから。


 そして気付く。昨日まで、俺は恋人になる最後の一線を超えないようにしていただけで、その実、歩に惹かれていたことに。


 こっちに飛ばされてからしばらく行動を共にし、明るく俺に接してきた歩。思えばこんなにも俺に正の感情で関わってきた女性は歩だけだ。


「そうか……俺は、歩の事が………」


 もう1度歩の顔をよく見る。意識を取り戻す様子は全く見受けられない。


「……………」


 それを確認した俺はそっと歩に口付けをする。ほんの2、3秒お互いの唇が触れ合う。


 ああ、俺は歩を失いたくない。俺を抱きしめ、慰めてくれたこの少女を。そのためにも……


「………行ってくる」


 俺はそれだけ言い残して再度転移符を使用し、戦場へ戻る。




 戦況は数の差で向こうが優勢、徐々に押し込まれてきているのが見える。気になるのは魔物が組織立って動いている事か。指揮官がいるのだろう。


 押されている戦況を見て思う。こんな時、以前の俺だったら《ワープ》なり転移符なりを用いてギルドの除名覚悟でさっさと逃げていただろう。けれど歩を守りたいがために戦場に戻ってきた。その事実が可笑しく感じる。


 けれど1度あの温もりを知ってしまった以上もう手放したくない。愛情の温かさを知ってしまったせいで恐れていた通り本当に歯止めが効きそうにない。


 この状況、明山や黒川だったら1人で無双し、あっさりと戦況を覆すだろう。


 けど俺にはそんなチート染みた力は無い。主人公みたいな華々しい活躍はできない。お姫様と結ばれたり魔王と対峙するなんてできない。


 手札の数や装備、常に最善の行動を思考し続ける事で補ってはいるが、所詮俺の力は平凡なものだ。物語で言えば語られない存在、ちょろっとだけ出る脇役、そんな存在だ。


「けど俺にだって守りたいものができたんだ。 歩のことを守り通す、そのためには……」


 俺を癒し、受け入れてくれた存在。大切な、絶対に失いたくない、守り抜きたい存在。


「そのためには手段を選ばないさ!!」


 これからするのは英雄譚の主人公は絶対に使わないような手。だけどそれが何だ。力が無い存在が強大な力を得るには相応の対価が必要に決まっている。


 だから俺は迷わず札を切る。3ヶ月前に作りだし、禁じ手とした最悪の切り札を。




名前:禁薬counterfeit immortality

種別:禁薬

効果:1時間HP即時全回復

   1時間状態異常即時回復

   効果終了後10日間行動不能。30日間激しい倦怠感。

   効果終了後HP最大値が1割減少(永続)

   禁薬dying fountain、禁薬fatal curseと併用すると……



名前:禁薬dying fountain

種別:禁薬

効果:1時間MP無限

   効果終了後10日間MP0で固定。30日間MP回復速度減少(極大)。

効果終了後MP最大値が1割減少(永続)

禁薬counterfeit immortality、禁薬fatal curseと併用すると……



名前:禁薬fatal curse

種別:禁薬

効果:1時間全ステータス2倍

   効果終了後10日間全身に激痛。

効果終了後ステータス1割減少(永続)。

禁薬counterfeit immortality、禁薬dying fountainと併用すると……



――Caution――


3つの禁薬の併用により以下の効果変更


1時間全ステータス2倍→全ステータス3倍

効果終了後HP、MP、ステータス1割減少(永続)→5割減少(永続)



3つの禁薬併用により以下の効果追加


レベル固定(効果終了後より永続)

5感の内1つランダムで欠如(発動確率30%、発動時効果永続)


次回投稿は13:00です

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