Day 366 戦いの始まりの朝
朝、俺は美味しそうな匂いに鼻腔をくすぐられ眼を覚ます。一体何の匂いだ?
疑問を解消する為に昨日の事を思い出す。確か昨日は……っ!!?
(ああ、そうだ…… 昨日神田が来てみっともない姿晒したうえに大泣きして……)
そこまで考えてふっと思い出す。頭を抱きしめられた時に感じた甘い匂い、柔らかな感触。
(神田って意外と着やせするタイプ……ってそうじゃない!!)
頬が熱くなるのを感じて思いっきり頭を振り思考を1度リセットする。
(よし、落ち着いた…… 結局昨日は泣いた後神田と少し会話して、その後の記憶が無いんだよな、段々と意識が遠のいていって。 ……ひょっとして泣き疲れて寝た? 子供か、俺……)
そのことに軽くへこんでいるとDKに通じている扉が開き、神田が顔を覗かせる。
「あっ、起きてたんだ。 朝ごはんできてるよ、悠人」
そう言って笑いかけてくる神田、いや……
「ああ、おはよう歩。 すぐに行く」
歩に返事をしてダイニングの方へ向かう。
昨日歩に言われたのだ。お互い名前で呼び合わないかと。
最初は抵抗したが恋人になるのだからという歩の発言に結局は押し負け、名前で呼び合うようになった。慣れていないせいで気恥ずかしい部分があるがこれも俺との距離を詰めるためなんだろうな。
歩が用意してくれた朝食は白米に大根の味噌汁、ベーコンエッグと簡単なサラダだった。できたばかりの様でなかなか美味しそうだ。
「「いただきます」」
2人揃って挨拶し、食べ始める。
味噌汁を少し飲んでからベーコンエッグの黄身を崩し醤油を垂らす。良い具合に半熟だ。それを1口食べてご飯をかきこむ。シーリスでの共同生活の時より腕を上げているように思える。もしくは和食の方が得意なのか?シーリスにいた時は醤油も味噌も無かったからな。
「どう、美味しい?」
「ああ、美味しい。 前より美味くなったんじゃないか?」
若干不安そうに聞いてくる歩にそう返すと、よかったと笑みを浮かべてくる。
なんとなくその顔を見るのが気まずく、とりあえず食事に専念することにした。
そんな俺の様子を見て、可笑しそうにくすくす笑う歩の声が耳に入る。その声は不思議と俺に不快感を与える事は無く、どこか心が暖かくなる気持だった。
「この後歩はどうする? 俺はできる限り薬を作るつもりだけど」
食事を食べ終わって洗い物も終了し、一段落着いたところで歩に尋ねる。
俺が薬作りに専念するのは魔王が出現すると同時に魔物も活性化する以上、下手に討伐や採取に出かけるのは危険だからだ。ならば地味だが安全で重要な事をすればいい。
「私はパーティーの皆のところに行って来るね。 行き先は言って来たけど1晩帰らなかったし、悠人と付き合うことになった報告もしたいし」
なんだかからかわれそうだけど、と付け加える歩にそうかと返し、《アイテムボックス》から調合に必要な物を取り出す。
「じゃあまた後で。 お昼頃にはまた来るね」
そう言って歩が部屋を出ていこうとした時、鐘が鳴った。魔物の群れの襲来を意味する冒険者緊急招集用の鐘が……




