Day 365 神田の選択 ――神田side――
「もう1年経つのかぁ……」
私たちがこの世界に飛ばされて今日でとうとう1年になる。つまり明日からいつ魔王が現れてもおかしくなくなるのだ。
そしてそれに対応できるようにするため影野くんと佐藤くんとの話し合いで7人全員スタディルに滞在することになっている。
しっかりと連携が取れる仲間がいた方が生存率は高まるし、影野くんから大量に作り溜めしてある薬を補充しやすいからだ。
魔王の事を踏まえて今日中に決めた方が良い事が1つ、私にはある。それはこの世界に残るかどうかだ。
「どうしようかな……」
連携のためとか色々と理由を着けて4月から影野くんと何度もパーティーを組み距離は縮まったけどどうしても後1歩を近付かせてくれない。
その1歩を近付くためにはたぶんこの世界に残る覚悟を決める必要がある。
けど、そうすると私は2度と家族に会う事が出来なくなる。ここまで育ててくれた感謝や親孝行が出来なくなる。
魔王が現れたら倒すまでゆっくりとした時間は取れないと思う。それにもしかしたらその戦いの中で死んでしまうかもしれない。だからこそ今日中に結論を出したいのだけれど、どうしても出す事が出来ない。
「けど、先延ばしにする訳にもいかないし…… どうすればいいのかな?」
思わず独り言を呟くと後ろから声をかけられる。
「アユム、何を悩んでいるんですか?」
「フェリ……」
そこには私たちのパーティーのリーダーを務めるエルフの少女の姿が。
「私でよければ相談に乗りますよ」
「………うん、じゃあお願いしよっかな。 あのね―――」
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私の話を聞き終え、少しの沈黙の後フェリは語りだした。
「人生は取捨選択の連続です。 それには猶予がある場合もありますがほとんどはその場その場での選択になります。 今回は幸い考える時間がそれなりにあります。 ただ、その分いくら考えても迷ってしまうでしょう。 大事なのは後になっても後悔しないと思える選択を選ぶことだと私は思います。
……案外アユムの中では答えは決まっているかもしれません。 ただそれを選ぶための1歩が踏み出せないだけで。 だから、どうしても答えが出せないときは1度頭を空にして心のままに選んでみてはどうでしょう? 感情のまま選んだ方が意外と後悔しないものですから」
それだけ言うと、にこりと笑って部屋から出ていくフェリ。1人にしてくれる配慮がありがたい。
もう1度2つの選択肢について考えてみる。
こっちの世界に残ったら家族にはもう2度と会えない。代わりにフェリたちや影野くんと一緒にいられる。それにティナの事もあるしたぶん佐藤くんもこっちに残ると思う。後はこの1年で手に入れた力やアイテムを使えることもメリットとして挙げられるかな?
逆に地球に還った場合。家族と会える代わりにこっちに残る皆とはもう会えない。力やアイテムはもしかしたら地球でもそのまま残るかもしれないけどとても使う事は出来ない。もし誰かに見られたら大騒ぎになってしまうかも。
家族を取るか、影野くんやパーティーメンバーを取るか……
(………やっぱり決められない。 フェリの言う通り1度頭の中を空にしよう…)
眼を閉じ、全てのしがらみを一端脇に置き、思う。どちらを私は選びたいのか。
「……………そっか、私はやっぱり……」
再び眼を開いた時には答えは決まっていた。あまりにもすんなり答えが浮かんだから、フェリの言う通り本当はもうとっくに決まっていたのかもしれない。
ともあれ答えは出た。だから、私は……




