閑話 Day 186 2大国の王女
ウィリス聖王国の王城にある訓練場。そこで試合をしている2人の姿を私、ソフィーナ・ウィリスは教会の聖女であるアイリーン・セイクリアスと共に見ている。
試合をしているのは半年前領地視察の帰りに襲ってきた魔物を倒し私を救ってくれた一団の代表と副代表、セイヤ・アキヤマ様とケイ・スズキ様だ。
彼らはなんとウィリス聖王国が信仰している神クウェルディア様が異世界より召還した方々なのだ。初めて会った時はウィリス聖王国の王女である私になんて事を言うのだろうと思ったのだけれど本当の事だと分かった時には思わず赤面してしまった。
真偽の判断は神より信託を受けられるアイリーン――アイによるものだから間違いない。
実は私はセイヤ様に、アイはケイ様に惚れている。ケイ様はともかくセイヤ様はライバルが多いので大変だ。本人も女心に鈍いようで時々いらいらする。あの鈍感さはどうにかならないものだろうか?
アイが恋しているケイ様はそんな事はなく2人が上手くいっている事も私を焦らせる。アイとは王女と聖女という関係上、幼馴染であり親友だ。そのせいかこうも差をつけられると色々思うところがある。
幸いなのはお父様からセイヤ様ならば結婚相手でもよいと許可は取ってあることか。政治的に考えてもクウェルディア様の使いと言われている異世界人のまとめ役と結ばれる事は、ウィリスにおいて大きな意味を持つ。
アイにしても異世界人と結ばれることに横やりが入る危険はない。それ程この国における異世界人の立場は大きい。
(まあ先ずは他の異世界の女性に勝たないといけないんですがね……)
セイヤ様を狙っている女性は多い。彼女たちに勝ち、結ばれるには相当な苦労をすることになるだろう。
(そのためにも少しでも近づけるよう努力しませんと……)
2人の戦いに決着がついたのを見届けるとアイと一緒に2人の元に駆け寄る。タオルと冷たい水の準備は完了している。
セイヤ様と結ばれるため私は今日も頑張っている。
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「やはり此処にいたかマサシ。 少し稽古に付き合え」
ガルシア帝国王城の書架、そこに目的の人物はいた。
「タケシじゃ駄目か? もう少し調べ物をしたいんだが……」
目的の人物は嫌そうに顔をしかめ、そんなことを言ってきた。
「駄目だ。 お前たちは私が雇っているのだぞ? なら雇い主の意向は素直に聞け」
提案をキッパリ拒否すると仕方がないとばかりにその重い腰を上げ、私の後についてくる。
マサシ・クロカワを団長、タケシ・ミヤモトを副団長とする傭兵団、黒の傭兵団。それが私、ロザリア・クロス・ガルシアが雇っている組織の名前だ。
3ヶ月前偶然私が逗留していた街で魔物の侵攻があり、その窮地を救ってくれた存在でもある。
その力を気に入った私は私兵として彼らを雇うことを決めた。何人か劣った者もいるが全体的に優れた際を持つ者の集まりであり、実力主義を標榜しているこの国の王女である私にとって彼らはぜひとも手に入れたい存在だった。私が姫騎士と呼ばれる程戦うのが好きなせいでもあるだろうが……
時間が経つにつれみるみる力を着けていく彼らを帝国王城の資料室の自由な閲覧と少量の賃金、その他いくつかの細かな条件で雇えたのは僥倖だろう。実力から考えて本来ならもっと多くの対価が必要な存在だ。
「そう言えば今レベルはどれぐらいになった?」
訓練場に移動している最中なんとなく聞いてみる。こいつらの成長速度は異常だ。今どれぐらいなのか見当もつかない。
「99になったから【成長限界解除】を取ったところだな。 これでまたレベルを上げられる」
【成長限界解除】はレベルが99になってから取得できるようになる特殊なスキルだ。熟練度が存在しないエクストラスキルと呼ばれるもので、レベルの上限とステータスの上限値が無くなるという効果がある。
99レベルまで達する者などほとんどいないのだが……
「くくっ! 本当に規格外だな、お前は」
思わず笑みがこぼれる。本当にいい買い物をした。
「そんなことよりさっさと闘うぞ。 こっちは早く調べ物に戻りたいんだ」
そう言ってマサシがすたすたと先に行く。可愛げがないな、まったく。
それにしてもなぜ転移関係や古文書、伝説関係の書物を読み漁っているのだろう?契約で余計な詮索は禁じられているから調べようもないのだが気になる。
まあ実力主義のこの国において彼らは尊敬されるだけの力を持っている。父も下手に刺激して敵に回られるより今のままの関係を維持したいと考えているようだ。
私も彼らとは仲良くしたい。マサシとの闘いは本当におもしろい。戦闘狂と呼ばれようと構うものか。
私はこれから始まる闘いに胸を躍らせつつマサシの後を追った。
ちなみにもし影野が2大国に行ったらウィリスでは正体をばらした場合うざいほどの歓待を受け、ガルシアでは見向きもされません。




