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閑話 Day 263   デート

視点切り替えが2回あります


影野→神田→佐藤です

「あ、あれ美味しそう」


「そうだな。 おっちゃん2つくれ」


「あいよ、銅貨30枚だ」


「おっ、美味い! 次は何処行く?」


「そうね――」


 そんなカップル染みた行動をとる佐藤とティナをジト目で見つつ後を追う。2人だけの世界を作ってるから非常に気まずい。隣にいる神田も苦笑いだ。


「どうしてこうなった……」


 いちゃいちゃしている2人の姿を見て思わず溜息をついた。



**********



 事の発端は昨日、神田、佐藤たちのパーティーと合同で受けた依頼を達成し打ち上げを行っていた時だ。


「そういえばなんだか街中が騒々しいけどなんかあるのか?」


 ああ、依頼のせいで3日も野宿してたから知らないのか。情報収集もしなさそうだしな。


「明日が同盟結成日でお祭りがあるせいだろ。 しかも此処貿易都市ターランはタリス自由都市同盟の中枢を担う大都市だ。 元々タリス自由都市同盟はターラン、リンドベルグ、スペラの3都市を中心にできてるからな。 祭りの規模も大きくなるさ」


 佐藤の疑問に答えるとフェリが感心した声を上げる。


「博識ですね、ユウトさん。 アユムと同じ世界出身なのにそんな事を知ってるなんて」


「質で勝てないなら量で補うしかない。 才能の差は努力で埋めるしかない。 知識はどんな物でも無いよりはましな力だ。 だからスタディルの図書館の本を今は片っ端から読んでる。 そのせいだ」


 それでもチート連中には勝てないがやり方次第で多少の格上ぐらいは相手取れる。敵を知り己を知ればってやつだ。


「お祭りか~ 見て回ろうぜ!!」


 佐藤はずいぶんノリノリだな。


「ティナと2人でいけよ。 デートにはちょうどいいだろ」


 ホワイトデーの後付き合い始めたって報告されたし邪魔して馬ならぬ龍に蹴られたくないし。


 しかし俺のデートという発言のせいでリタがとんでもない爆弾を落とす。


「どうせだったらアユムとユウトも一緒にいってWデートにすれば~~?」


 その発言に俺はむせ、神田は赤くなる。


「ちょっ、リタ!?」


 しかしそんな神田の抗議の声を遮るように


「ああ、いいですねそれ」


「確かにコーイチとはいつも一緒だしたまにはそういうのもいいかも」


「俺も別にいいぜ」


 と次々と賛成していくメンバー。上からフェリ、ティナ、佐藤の順だ。当事者の意見は無視か……


 発言をしていないルディに視線を送る。暴走気味のこいつらを止めてくれるかもしれない。




 ………良い笑顔でサムズアップをしてくれました。


 はあ、仕方ない。この流れに逆らうよりは従った方が賢明だろう。少なくともデメリットはないはず。


「分かった。 明日の10:00に出発でいいな?」


 俺が提案を受け入れると神田以外の全員が良い笑顔を返してきた。……料理に薬混ぜてやろうか?


「ああ」


「了解」


「えっ、えっ!? ほんとにするの!!?」


 まだパニクってる神田を置き去りにしたまま明日の予定が決定した。


 可哀想な気もするが特に問題は無いだろうしべつにいいだろ。



**********



 なんて思ってた時期が俺にもありました……


「コーイチ、はいあーん」


「あーん。 うん、うまい! ほら、あーん」


「あーん」


「…………」


 2人のバカップルぶりが見ているのがつらいレベルになってきた。問題ありまくりだった。てか祭りのせいで人通りが多いのにそんなにイチャイチャするな。周囲の視線が痛い!!


 今俺は苦虫を噛み潰した表情をしていると思う。神田は真っ赤になってるが……


「あれ、どうする? 正直知り合いだと思われたくないんだけど……」


「う、うん…… 2人と別行動とって後で合流しよっか?」


 やっぱり神田もあいつらから距離を取りたかったのか一端解散する事を提案してきた。


「それがいいな。 おーい佐藤!!」


「なんだ~?」


 ティナとのイチャイチャを一時中断しこっちを向く佐藤。これWデートの意味無いよな?


「ここらで一端別れないか? 俺と神田で別のところ見て来る」


 神田と別れるつもりはない。祭りのせいで人が多い以上、1人だと変なのに絡まれそうだからな。


「わかった~ また後でな」


 そう言って2人はさっさと歩いて行く。とりあえず俺と神田は今いる屋台会場を出てバザーの方を見に行くことにした。


 それにしても本当にホワイトデーの時から変わったなあいつ。まあ俺もそれに関係してるんだが……


 俺が信用している数少ない友人だ。幸せになれたなら良い事だ。




 さて、気を取り直してバザー会場。こういう場所には掘り出し物があるものだ。【鑑定】スキルをフルに活用して良い買い物しないとな。


 ぶらぶらと2人で露店を見て回る。珍しいものや変なものが結構売られているな。


「わっ、綺麗……」


 神田が一軒の店の前で足を止める。ガラス細工やオルゴール、ちょっとした小物を売っている店みたいだ。


「いらっしゃい、可愛いお嬢さん。 何か買ってくかい? おまけするからそっちの彼氏さんに買ってもらうと良い」


 露店の店主がそんな事を言ってくる。


 まあ、お祭りで年頃の男女が2人で歩いていたらそう見られるのが普通か。俺は大して気にしないが神田は頬が赤くなっている。鈍感じゃないから怒ってるなんて思わないがな。


 神田の様子を気にせずに商品を見る。……意外と品質いいな。値段も安いし何か買ってもいいかもしれない。


 そんな事を考えているとチラッと神田がこっちを見てきたので小さく頷いておく。


「あの、それじゃあこれ下さい」


 そう言って神田が手に取ったのは小箱状のオルゴールだ。開けると音が鳴る仕組みになっているようで、中には仔馬を模った置物が入っている。仔馬の背中に乗っている小石大の魔石がオルゴールを鳴らしているのだろう。


(ということはこれも一種の魔導具か。 良くできてるな、俺じゃあまだ作れないな……)


 電池切れならぬ魔力切れを起こした魔石を容易に取り換えられるように作られているし全体としてのレベルも高い。これを作るには【細工】と【魔導具作成】の熟練度が相当必要だろうな。


「それとこれもくれ」


 俺が手に取ったのは十字架を模ったキーホルダーみたいなものだ。これも魔導具らしい。


「はいよ。 2つで銀貨8枚だ。 おまけでこれもつけてあげるよ」


 そう言って店主が渡してきたのは紐がついたガラス玉だ。魔導具ではなくただのストラップのようだ。


 神田が金を払おうとするのを手で制して全額払う。神田と付き合ってはいないが流石にこの場面で金を出させるほど野暮じゃない。


「まいど」


 金を受け取ってにっこり笑う店主の視線を背中に感じつつ再び歩き出す。神田が戸惑った表情で着いてくる。


「えっと、影野くん。 お金……」


「別にいい。 大した出費じゃない」


 この言葉は本当だ。ランクが上がり報酬も良くなったためオルゴール代ぐらい問題ない。それは神田も同じだろうが。


 俺の言葉に納得したのか神田は大人しく引き下がる。そして、


「……ありがと、大切にする」


 花が咲いた様な笑顔でお礼を言ってきた。


 それにああ、と短く返答し、特に気にしていない風を装い別の露店に向かう。


 ………ポーカーフェイスが得意でよかった。




 その後露店をひやかして屋台で昼食を取ったりサーカス等の見世物を見物し、夕方に差しかかった時間に佐藤達2人と合流した。向こうもそれなりに楽しめたようだ。別れた時よりピンク空間が広がっている。


 時間も時間なので合流した後は宿に戻ることになった。しかしその道中佐藤が突然、


「あっ、ちょっと先に帰っててくれ。 俺、神田に大事な話があるんだ」


 なんて言い出した。その言葉にティナがピクッと反応する。


「なんだ、浮気か? ずいぶん堂々とするな」


 散々砂糖を吐きそうになる光景を見せられた腹いせにからかってみる。そして若干後悔することになった。


「………何? コーイチ、浮気するの?」


 俺の言葉にティナが反応し、黒いオーラが吹き荒れた。はっきり言ってすごく怖い。今すぐ逃げ出したいレベルだ。ガタガタ震えている佐藤が哀れに思える。尻に敷かれるな、これは。


「い、いや……待て、落ち着け!! お前が考えてる様な事じゃない。 大事な話だけど違うんだ!!」


「じゃあ何? 言ってみて!」


 有無を言わせぬティナの剣幕に怯えながらも佐藤は言わない。


「いや、此処じゃちょっと……」


 言い淀みながらチラッとこっちを見てきた。ああ、そういうことか……


「ティナ、行かせてやれよ。 後で神田に何の話だったか聞けばいいだろ?」


 なんで佐藤が言いたがらないか理解した俺は助け船を出してやる。まあ火に油をまいて激しくしたのも俺だが。


 ティナはキッと俺を睨んできたが、やがて渋々といった様子で許可を出す。


「ワリぃ、ティナ。 この埋め合わせはするから!!」


 そして神田の手を掴んで走り去っていく佐藤。意外に速いな。早くティナから離れたかったせいか?まだ黒いオーラが見えるもんな。


 その後ティナを宥めすかして宿まで帰るのは大変だったと言っておく。



**********



「それで話って何?」


 走って乱れた息を整えながら佐藤くんにそう聞く。


 佐藤くんに連れて来られたのは人の少ない展望台だった。こんな所に連れてきてどうするんだろう?ティナがいるからそっち関係じゃないだろうし……


「影野の事でちょっとな。 神田はあいつの過去知らないだろ?」


「うん。 けど勝手に話すのは駄目なんじゃ……」


「それが話したいなら勝手にしろってさ。 あいつ俺が話してもいいって思ったやつなら別に構わないみたいなんだ。 それでどうする、聞くか?」


 その言葉に正直、悩む。たぶん影野くんの過去を知らないと手が届かない気がする。けど人伝に聞いてはいけない気もする。


 数分間の葛藤の末出した答えは――




「……教えて、影野くんの過去」


 私がそう言うと佐藤くんはニッと笑う。


 そして語りだす。佐藤くんが知る限りの影野くんの過去を。




「――っと、まあ俺が話せるのはこれが全てだ。たぶん俺が知る以上の事もあるんだろうけど、こっから先は自分で頑張ってくれ」


「うん……分かってる。 ありがと、話してくれて」


 影野くんが抱える心の中の闇。今聞いたのがほぼすべてなのか氷山の一角なのかは分からない。けど、影野くんにもっと近付くきっかけにはなると思う。


「どういたしまして。 俺は宿に戻るけど神田はどうする?」


「もうちょっと此処にいる。 今影野くんに会うのは気が引けるし、色々整理したいから」


「そっか、気をつけてな」


 そう言って去っていく佐藤くん。私は感謝の気持ちを込めてそれを見送った。



**********



 神田と話して少し歩いた先に思ってた通りそいつはいた。


「やっぱ聞いてたか」


「余計な事を…… このお節介が」


 建物の陰に隠れて目立たないようにしていたそいつの第一声に思わず笑みがこぼれる。お節介なのはどっちだ。


「お前に言われたくねえよ。 お前の後押しがなきゃたぶんティナとイチャイチャしてなかっただろうしな。 お前は俺たちの恋のキューピッド?」


 俺のその言葉に思いっきり顔が歪む。


「ハハッ! まあ正直な話、お前も救われていいんじゃないかって俺は思ってる。 だからこれぐらいのお節介はさせてもらうさ」


「馬鹿のくせに気を遣うな。 馬鹿」


 すごくひでえ言い様だな。まあ別にいいけどよ。


「ま、精々頑張れ! 俺は神田を応援してるからな」


 実際、神田が現時点じゃあ一番あいつに近い。神田の性格と合わせて影野には一番いい相手だと思うんだけどな。


 俺は未だに苦虫をかみつぶした表情をしているそいつに手を振りながら去っていく。そいつのおかげで結ばれた愛しい相手がいる場所に……


佐藤組は書くと甘すぎるのでこれ以上無理でした……


バカップルを書くのはつらい……

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