Day 142 米騒動
「なん……だと………」
その日、俺はスタディルにある図書館の一角で大発見をした。
いや、この世界に住む人々にとっては正直どうでもいいことだと言われるだろう。
だが、俺を含む極一部の人間にとっては大発見である。
「…………」
その証拠に俺はもう一度その記述を読み直し間違いが無いことを確認すると、すぐさま新しく取得した【複製】スキルを用いてその部分を書き写し、図書館を飛び出した……
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「おい、佐藤! 今どこにいる!?」
図書館から飛び出した俺はすぐさま念話石を取り出して佐藤を呼び出す。
『なんだよ影野。 いきなりどうした?』
「良いから今どこにいるか言え!!」
悠長にしている余裕は今の俺にはないんだよ!!
『今はクローラルって街にいる。 一体何なんだ?』
なんでそんなところにいるんだ!?ていうか何処だ!? こっちはさっさと合流したいのに!!
「《ワープ》で飛べないな…… 転移符使ってティナを連れてスタディルまで来てくれ。 大至急だ、代わりの転移符は渡す!!」
『何そんな焦ってんだ? まあ分かった。 5分後にお前ん家行くから』
俺の態度に疑問を抱いたみたいだがそれでも佐藤は俺の指示を了承し、通信を終了する。
(5分か、長いな……)
俺は思わず舌打ちをした。
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「なん……だと……… それは本当か!!?」
宣言通り5分後、俺と佐藤、ティナは俺が借りているアパートで呼び出しに関する話をしていた。
そして俺が図書館で見つけた大発見を言った際の佐藤の反応がさっきのだ。
佐藤と同じ反応するって………
まあ5分間でクールダウンできたからこんなこと思えるんだろうけど……
「ああ、本当だ。 だからティナの力を借りたい。 いいか?」
「もちろんOKだ! 当然俺も一緒に行くけどな」
首が取れるんじゃないかと思う程力強くうなずく佐藤。
うわ、俺もこんな感じだったのか? 恥ずかしいな……
「……ねぇ、いったい何なの? 2人共テンションおかしいわよ?」
まあティナに俺たちの気持ちは分からないだろうな。だけど日本人なら必ずこの気持ちを共感できると思う。
「コメ……だっけ? なんなのそれ?」
「日本人のソウルフードだ!!」
ティナの疑問に佐藤がこれまた力強く答える。俺もその言葉に何度も頷く。
「俺たちの国で主食だった穀物だな。 カバー範囲が広くて大抵の食べ物に合うし調理法もそれなりにある。 俺も本に米の記述があったときは興奮したよ。 なんせ4ヶ月以上も食べてないからな」
まだいまいち分かっていないティナのために説明を付け加える。
そう、俺が見つけた大発見は米だ。
俺がなんとなく読んだ『世界珍食材100選』に載っていて、それが食べられている場所と栽培されている場所も書いてあった。
この本、変な食材ばかり(ゲテモノ系とか)載っていそうな気がしたが、実際に載っていたのは生産量が少なかったり、特定の地域でしか食されていない珍しい食材だった。
この本によると米はヤマト国という島国でしか生産されていないらしい。
そしてその国まで行くのにはそれなりに時間がかかる。馬車を活用しても1月以上は必要だろう。
そこでティナの出番だ。
俺は実際どの程度速いか知らないが、佐藤が以前馬なんかめじゃないと言っていた。
空を飛ぶことで魔物との戦いも少なくなる事を考えるとかなり早く着けるだろう。
今までずっとパンか麺類だったから早く米が食べたい。
念話石で伝えられれば良かったが、あいにくヤマト国までの地図(本の物を正確に書き写してきた)を佐藤達は持っていない。
そのため佐藤達を呼んだのだ。米の情報だけ佐藤に渡して買って来てもらうことは無理だった。
「地図によると此処からヤマト国までは2500~2600kmってところだ。 ティナは本来の姿だと1日にどれぐらい移動できるんだ?」
「う~ん……大体600~700kmの間ぐらいね。 夜の移動は無理だし食事や休憩の事を考えるとね」
「それだと3~5日ぐらい掛かるな。 強行軍をするより街を転々と移動していった方が良いだろうから1週間見積もった方が良いな」
ティナと俺でヤマト国への行き方を考える。佐藤はまだテンションが上がったままで使い物にならないからな。
「ところでその地図正確なの? そうじゃなかったらたどり着けないけど……」
「それは心配しなくていい。 マッピング系のスキルで作られた地図を【複製】スキルでコピーしたものだからな。 店にも売ってない世界地図が食べ物の本に載ってるっていう理不尽さにはツッコミたいところだけど……」
「そうね…… 今日はもう昼過ぎだから出発は明日の朝でいい?」
「ああ、その方が良いだろうな。 それじゃあまた明日」
そして2人を部屋から送り出す。佐藤は遠足前の子供みたいなテンションだった。
……ティナ、大変だな。
「早く米、食いたいな……」
1人になった俺は思わずそう呟いた……
それから1週間後、ヤマト国で米を手に入れた俺が今度は醤油や味噌を作る魔導具の製作に着手しだしたのは余談である。
【複製】スキルは文字通り同じものを作り出すスキルです。
材料を用意する必要があり、本来は魔剣等の劣化コピーを作ったりするのに用いられます。
影野は紙とインクを用意することで本の数ページをコピーしました。




