Day 126 遺跡探索
気がついたら日間ランキングですごい上位に……
ありがとうございます。執筆頑張ります。
今俺は佐藤、ティナ、依頼主である考古学者のアリスと共に遺跡の前にいる。
昨日の昼に此処に着き、半日ゆっくり休んだ。いよいよ今日から探索開始だ。
道中での戦いを見たところ、佐藤は大剣を用いたアタッカー兼タンク。ティナは片手剣と魔法、治癒術を使う万能型だった。まあ俺と佐藤が前衛型だからメンバー的に後衛役になることが多いが……
「さて、それじゃあ今日から探索を開始します。 護衛よろしくお願いしますね」
そう言ってどこか浮かれ気味にアリスが遺跡の中に入って行った。普通護衛から入るもんじゃないのか?
到着するまで冷静沈着を地でいく性格に思えたので驚きだ。遺跡に着いてからテンションも高いしひょっとして遺跡マニアかなんかか?
「影野、俺たちも入ろうぜ?」
「はあ、そうだな」
中に入るとそこはそれなりの広さがある部屋だった。部屋の左右には通路が1つずつある。
道中聞いた話によるとこの遺跡は半年前に見つかったばかりで、何度か調査されているがどうも隠し通路があって、それが見つからないらしい。
アリスは【看破】スキルを持っており、そのおかげでその存在は分かるが、通路への行き方が分からずに毎度右往左往するとか。
それでもあきらめずに何度も依頼を出して調査をしに来ているらしい。
護衛を雇う理由は道中の魔物に対しての用心が8割、時々現れるゴーレムへの用心が2割だとか。
(こりゃあ失敗したかな~ どうせ今回も隠し通路をどうにかなんてできないだろうし、そうなると当然遺跡の宝は手に入らない。 それで1週間拘束は割に合わないよな……)
今回と似たような依頼の相場はB+ランクだと金貨5枚だ。
遺跡の宝(大体1ヶ所にある程度固まっているらしく大抵の場合ゆうに金貨10枚を超える価値がある)が手に入るかもしれないからこそ金貨3枚でも破格の報酬なのだ。それがまず手に入らないというのなら安い報酬で働かされているということだ。
はあ……、と溜息をつく。
佐藤は遺跡に興味津々であちこち触ってアリスに叱られている。
ティナはその様子を見て額を押さえている。 ……心中お察しします。
「私のスキルだとここに隠し通路があるはずなんです。 なのに何しても出てこないし攻撃しても壊せない。 通路に続く部分を開かせる仕掛けも発見できない。 調査に来るのは今回で6度目だけど正直お手上げ状態ね。 けどスタディルの領主が諦めないせいで依頼が出され続けてるけど……」
遺跡が好きだから私は別にかまわないけど、と付け加え、アリスは隠し通路が存在するらしい壁を叩く。
「ふ~ん、此処に通路ねえ……」
なんて言いながら佐藤が壁に手を伸ばすとそれは起こった。
佐藤の手が壁に触れた瞬間、壁の1部分が消失し通路が現れたのだ。
「うわ、なんてべたな…… これだからチートは……」
その光景を見て思わずそんな言葉が口から洩れた。聞こえたのかティナが苦笑いしている。
「良く分かんねえけど見つかったんだし先に進もうぜ!」
そう言って佐藤が通路の奥に進んで行き、遺跡大好きなアリスも後に続く。
俺とティナも入ろうとしたら急に壁が再出現した。
「ふむ、時間切れか? そうすると大体1分ぐらいで閉じるのか……」
そりゃあずっと開いてるなんてことはないよな。閉じるのは当然だ。
そうなると開く条件がなんなのかが重要になってくる。佐藤が開けた理由か……
「佐藤のレベルって確か50前半だったよな?」
「そうよ。 なんであなたが知ってるかは知らないけど」
「【鑑定】スキルのおかげだ。 けどB+ランクの依頼なんだから50越えのやつは今までにもいたはず…… 所持スキル? それとも俺たちの……」
とりあえず俺も壁に触ってみる。これで開いたら今考えている仮定は恐らく正解だろう。
結果は……
「開いた……」
「1分ぐらいで閉じるみたいだしさっさと入るとしますか。 ティナは遅れないでくれよ、たぶん俺と佐藤にしか開けられないから」
「了解」
そして俺たちも通路の奥に進む。少し進んだ先に小部屋があってそこで先に進んだ2人は待っていた。
「遅いぞ! なにしてたんだ?」
「壁がまた出現したんだよ。 1度開くと大体1分で閉じるんだと思う。 俺が触れても開いたから開く条件は俺達の出身地に関係してるんだろうな……」
「あなた達の出身地?」
まあ、気になるよな。でも下手に教えるのは得策じゃない。どう転んでも厄介事になりそうな匂いがぷんぷんする。
「気にしないでください。 それよりも調査を開始しましょう」
暗に聞くなという思いを込めて先に進むことを促す。
何か言いたげだったが遺跡への興味が勝ったのか、それとも聞き出せないと思ったのかは知らないが、アリスは深入りせずに先に進むことを選択した。
「止まってください。 この先に罠らしきものがあります」
調査しながらのゆっくりした移動を続けて1時間、突然アリスがそんな事を言ってきた。
恐らく【看破】スキルで見つけたのだろう。遺跡探索の時には本当にありがたいスキルだ。ただ【看破】の効果は隠密状態の敵、罠、隠し扉の発見なので自分で取ろうとは思えないけれど。
アリスの言葉を聞いて俺とティナは立ち止まる。だが……
「罠なんて関係ねぇ!! ガンガン行こうぜ!!!」
と佐藤が暴走し罠に向けて突撃する。…………あ、落ちた。
おわぁぁぁ、という叫び声を残して佐藤は罠であった落とし穴の中に消えていった。
その場に残されたのは唖然とした様子のアリスに頭痛を堪えるように眉間を押さえるティナ、そして半眼の俺という微妙な取り合わせだった……
たっぷり10分程かけて微妙な空気を脱した俺たちはとりあえず今後の事を話し合う。
話し合いの中で佐藤の事はいったん放置することになった。まあ死んじゃあいないだろうという思いがあったし、佐藤の後を追おうにも穴が閉まってしまったためどうしようもない。
不幸中の幸いなのは落とし穴がもう作動しないということか。佐藤の犠牲は無駄では無かった。
話し合いが終わり、先に進むとそこにはゴーレムが1体いた。大抵の人が思い浮かべる岩人形といった感じの姿だ。
若干色が青っぽく、普通のゴーレムではないことが分かる。
「っ!? ミスリルゴーレムです!! 気を付けてください!!」
名前からして強そうだな。
(本にあったゴーレム系の倒し方は2つ。 四肢を砕いて行動不能にするか中心にある核を砕くか。 大気中の魔力で動くから核が露出してるのがせめてもの救いか……)
完全に核を覆ってしまうと魔力が補給できず使い物にならなくなるためはっきりと見える。また、効率良く動かすために核の位置が体の中央で固定になっている。
そんな弱点を持つゴーレムだが、痛覚を持たないこと、生物で無いため【暗殺術】が効かないこと(生物にしか効果が無い)、状態異常が効かない、高い防御力と攻撃力を持つことなどの利点も多く、どちらかといえば優秀なガーディアンだ。
ゴーレムの材質を砕けるだけの威力を持った攻撃か爆発系の魔法が有効だが、アリスの言った通りミスリルゴーレムだったなら魔法はあまり効かないだろう。ミスリルには高い魔法耐性があり、鋼よりも硬いと本に書いてあったからな。
(俺たちの今の手札にミスリルをどうこうできるものは無い。 となると核狙いで仕留めるしか手は無いんだけど……)
「どうみても1撃でやられるだろうな……」
俺もティナも回避系で防御力はあまり高くない。そして今いる通路は横幅がゴーレムの1.5倍程度、高さは2.5mぐらいか。ちなみにゴ-レムは2mぐらい。
はっきり言って回避し続けるのは不可能で、素早く倒さなければ危険だ。
30mぐらい距離があるのがせめてもの救いか。
「不利すぎるな。 切り札を切るしかないか……」
マジックポーチから1本のスローイングピックを取り出しながら溜息をつく。
「何かする気なの?」
ティナが聞いてくる。
「ああ。 確か火属性の魔法使えたよな? ピックが核に刺さったらピックめがけて放ってくれ」
それだけ言って全力で投擲する。
核となっている魔石の硬さはガラス玉と変わらない。ただ大きさがハンドボール大しかないため投げる時には少し緊張した。無駄使いできるものじゃないからな。
ピックは見事核に当たり、突き刺さった状態になる。浅く、簡単に取れる程度で倒せた訳では断じてないが。
「今!!」
しかし刺さったことが重要なのだ。ティナに向けて指示を出す。
「いくわよ、《ファイアボール》!!」
ティナの手から文字通り火球が放たれ、狙い違わずピックに命中。その瞬間爆音が轟きピックがさらに奥へと押し出され核を砕く。
核が砕かれたことによってゴーレムはオオォォォ、という唸り声のようなものを残し動きを止める。なんとかなったか。
「ちょ、ちょっと今の何!? なんか爆発が起きたみたいだけど!!?」
《ファイアボール》がもたらした結果に驚いていたティナが問い詰めてくる。
「はあ、早速使うはめになるとは…… 30本しか用意してないんだけどな……」
だが俺はそれどころではない。30本しかない切り札を1つ使うはめになったのだから。
「ねえ、いったい何なの? 答えてよ!!」
「ああ、うん、分かった分かった。 ピックの反対側――尖って無い方に火薬をくっつけておいたんだよ。 調合方法は図書館にあった本に載ってたからそれをベースに色々と改良を加えて」
「……すごいですね」
アリスが感心したように言う。
「だけどあのピック、1度使うと爆発の衝撃で歪むんだよ。 おかげで基本使い捨て。 しかも火薬のせいで普通のより飛距離が落ちるうえに火属性を使える人がいないと役に立たない。 貫通能力が高いからゴーレム相手なら有効だけどコストパフォーマンスが悪いんだ」
損耗率の高い投擲武器もある程度の値段はする。
回収さえすればそれなりの回数使える物を1回で使用不能にするのだから当然その分高くつくのだ。
「それより、さっさと先に進もう。 早めに佐藤と合流しないとまずそうだしな」
ミスリルゴーレムとまともにやり合えるのは装備の都合上、佐藤だけだ。早めに合流した方が良いだろう。
ミスリルゴーレムの残骸に《ドロップ》をかけることで、良質なミスリル鉱石にして回収し、俺たちはさらに奥へと進んだ。
**********
「ここで休憩をとりましょう」
アリスの提案に賛同し、俺たちは発見した小部屋の中で座りこむ。
全員かなり疲労していた。
この遺跡に入ってからかなりの時間が経過している。まだ佐藤とは合流できていない。
途中何度か休憩をはさみ、襲い来るゴーレムを倒してここまで辿り着いた。ゴーレムのレベルが高いのかガンガンレベルアップしたが、爆発ピックの本数が心もとない数になってしまった。
懐中時計で時刻を確認する。もう19:00を過ぎていた。
「とりあえず今日はここで野宿――とは違うか…… なんて言うかよく分からないから野宿でいいか。 をしないか? 疲れも溜まってるし武器の整備もしておいた方が良い。 それにもう19:00をまわってるしな」
「そうなの? あ、ほんとだ…… 確かにその方が良いかも」
ティナも時計を取り出して確認する。
ゴーレムに襲われる危険を考慮しても、寝ずの番を立ててしっかりと休んだ方が良いだろう。俺の持ってるショートソードはゴーレムの攻撃を防ぐのに何回か使ったせいで刃こぼれしている。ティナの剣も同じはずだ。ここらで1度整備しておきたい。
「……分かりました。 幸い此処には結界の様なものが張られているみたいなのでゴーレムは入ってこないでしょう。 探索は明日の朝に再開します」
アリスも俺の提案に賛同してくれ、今日は此処で寝ることになった。
結界が分かったのは【看破】スキルのおかげだろうな。とにかく依頼人が賛同してくれて良かった。依頼人の指示に逆らう訳にはいかないからな~~
ちなみにティナもアリスも料理が得意ではないため俺が夕食を作ることになった。両親に虐待されていた時から自分で作っていたためそれなりにうまいと思う。
道中の食事も俺が作っていたが女性がいるのに作るというのはなんだか泣けてくる。神田と一緒にいた時は交代制だったし、互いに手伝うことも多々あった。
後ろでのほほんとしている女性陣をジト目で見てから俺は料理に取りかかった……




