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澄み渡る空  作者: ゴミ箱
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第一節「始まりの日々」

初めましてゴミ箱と申します。

基本的に小説はwordで書いてこちらに載せておりますので多少見づらい点があると思いますがご容赦ください。

まだまだ書き始めて少しなのでまだまだへたっぴですがよろしくお願いします。

 凛と澄み渡った空の下、俺はいつも以上にけだるく歩いていた。

「あちぃ…」

時は夏真っ盛り。照りつける太陽は限界以上の熱を地球にもたらしているかのようだ。ここまで暑いと地球温暖化も馬鹿にはならない。

「朝から元気がないなぁ」

「んだよ、うるせぇなぁ」

 馴れ馴れしく俺に話しかけてきたのは長月玲二だ。割と昔から一緒にいる、まぁ一つの幼馴染ってやつだ。長月という野郎は容姿端麗、成績優秀、さらに実家がお金持ちという、正にギャルゲーの主人公みたいな野郎。

「朝は一日の始まりだからな、元気よく挨拶しないと」

「元気なのはお前だけじゃないのか?月曜の朝、そしてこの気温…嫌にもなるさ」

「そんなこと言ってないで笑顔、笑顔、ほら睦月、イッツトライ!」

 ウザいから無視しておこう…俺の名前は睦月時雨。俺は、何処にでもいるような学生…自分で言ってて寂しいな…特にこれといって特筆すべきことが無いのが唯一の特徴、成績は中の中、容姿は、自分では分からないが如月が言うには「そこそこ?」らしい。何故疑問形なんだ?

「おっはよ~!」

 と俺を背中に衝撃が走る。前に倒れ込みそうになるがなんとか踏み止まる。そして後ろを振り返る、俺の知り合いの中でこんな事をするのはあいつしかいない。

「いってぇなぁ! 何しやがる如月!」

 如月が俺の背中を思いっ切り引っ叩きやがった。こいつは、いつか拳で教育してやる必要がありそうだ。

「どしたの?」

「どうしたじゃねぇよ! お前はいつもいつも人の背中を叩くのはやめろ!」

「あぁごめんごめん、いつか気をつけるよ」

「いつかじゃなく今気をつけろよ!」

 こいつの名前は如月美夜。こいつとも長月と同じように昔からよく行動を一緒にしてきた。顔だけ見ればそこそこ可愛いのだが…いかんせん暑苦しい。

「はぁ…帰りてぇ…」

「ほらほら、そんなこと言ってないで早く学校に行こうか」

「そうだよ! 早く行かないと遅刻しちゃうぞ!」

 いつも通りの風景、俺は口では嫌っている日常。口に出している程実は嫌いじゃない、むしろ好きともいえる。こんな毎日が続けばいいと思っている。でも神様…なんで俺の周りはこんなにも騒がしいのか…それだけが少し惜しい。

「うい~す」

「おはようございます」

「おっはよ~」

 やっと自分のクラスに着いたな、ふぅ…流石うちの学校は金を持っているだけあるな、各教室にはクーラーが完備されている。夏にはクーラーがないと死んでしまう可能性が大いにある。「おはようございます」

「ん~? おお、神無月か、おはよう」

 自分の席に座ると神無月が話しかけてくる、こいつの名前は神無月琳こいつも如月達と同じ昔から縁がある幼馴染だ。神無月は幼馴染メンバーの中で唯一物静かに喋る奴だ。ちなみに読書が趣味で基本的にいつも本を読んでいる、読む本は様々なジャンルを読み漁る。本人曰く「活字が好き」らしい。

「今日は何の本を読んでるんだ?」

「今はミステリーを」

「ふう~ん…ところで今日朝どうしたんだ?」

 普段はいつも幼馴染メンバーで登校しているのだが神無月だけがいなかった、誰も触れなかったので気づかなかった。

「図書委員の仕事で」

「朝から大変だな」

「好きでやっている事だから」

 全く本好きにも程があるな、俺からすると面倒以外何でも無い。

「しかし…何だかクラスが騒がしいな」

 さっきからクラス全体でザワザワ騒がしい、今の季節たしかにもうすぐ夏休みだ。心なしか特に男子が騒いでいるような。

「それはねぇ~明日うちのクラスに転校生が来るんだよ」

「転校生?今の時期にか?」

「うん! めずらしいよねぇ~」

たしかにこの時期に転校生なんて珍しい…夏休みまで後何日っていうのに…

「で、この騒ぎか」

「なんでもすごいお嬢様らしいよ、そうそう、たしか帝王実業のご令嬢だったかな?」

「はぁ? あの帝王か?帝王っていったら色々な事業に挑戦してそれをことごとく成功させて一代で莫大な資産を築いたあの卯月帝が社長の!」

「うん。たしかね」

 いやいや! なんでそんなことのお嬢様が? おかしいだろ! 普通そんなお嬢様だったら然るべき学校に通うはずだ、それがなんでこんなたいして有名でない学校に来るんだ? 全く分からん。

「それはたしかなんだな? 如月」

「うん! 信じていいよ!」

 う~む…信じられないな…ここは金持ちの長月に聞こう。

「おい長月、お前、帝王のお嬢様に会ったことあるか?」

 他の女子と楽しそうに話している長月に聞いてみる。長月は笑顔で俺の方を向き、話していた女子は俺をこれでもかと睨みつける。おぉ…怖い怖い…

「う~ん、そうだね、たしか前に一度会ったことがあるね。感じの良いすごく可愛らしい人だよ」

「へぇ…」

「気になるのかい睦月?」

「まぁな…あれだけの企業のお嬢様だ、どんな人物なのかは気にはなるな」

 一体どんな娘なのかまったく想像できない、一度話してみたいものだ。

「まぁサンキューな、長月。会話に戻ってくれ」

「いいえ、どう致しまして」

何と言うかいつも思うが長月は暑苦しい時とそうでない時がはっきり分かれている。常にこの状態ならいいやつなのに…もったいない…もったいないお化けがでるぞ…って出ねぇか…

「おーい、お前席につけ、HRを始めるぞ。」

 扉をガラっと開けて、見た目ガラの悪い教師が入ってくる。すこし見方を変えたらヤクザさんにしか見えない…

「おら、はやくしろ、HRが始まんねぇぞ」

 クラス全体が静寂に包まれる。この教師怒らせたら半端無く怖い…想像しただけでも恐ろしい。

「よーし、静かになったな。それじゃHRを始めるぞ」




昼休み

「やっと昼休みか…待ちに待ったぜ」

俺たちはいつものメンバーで昼食を食べる。場所はお決まりの屋上で行われる。

「そういえば睦月、今日はお弁当じゃないんだ」

俺が広げているコンビニの袋を見ながら如月が呟く。

「うるさい…弁当を忘れただけだ」

「ふぅ~ん? そうなんだ、じゃあ可哀想な睦月にはこの唐揚げをあげちゃおう!」

そう言って如月は俺の口に向かって唐揚げを放り投げる。そして…

「「………」」

 唐揚げは俺の口に入らず、頬に当たって地面に落ちる。如月は無言で唐揚げと俺を交互に見ている。なんだ? その顔は…今にも泣き出しそうな顔をしやがって、泣きたいのはこっちだ、いきなり唐揚げを放り投げられどう反応したらいいのか皆目見当もつかない。

「…わたしの…唐揚げが…」

「い、いや…お前がいきなり投げるから…」

「まっいっか!」

 いいのかよ! 結局、如月は唐揚げを見なかったことにするらしい、それは他の奴らも一緒だったらしく一切唐揚げには触れなかった。

「それよりさぁ、やっぱり気になるよね、転校生の噂」

急に如月は話を方向転換する。こいつはいつもこうだ、話していると尋常でないほど疲れが貯まる。

「あぁ、あの帝王のご令嬢ってやつか…明日には来るんだろ?明日になりゃ分かるだろ」

「まぁそうだけど会話を広げようと思わないのかい、睦月?」

「思わないね、俺は静かに飯を食いたい。なぁそう思うだろ、神無月?」

「でもみんなで食べるのは楽しいと思う」

 その神無月の言葉に、俺以外の奴らは深々と頷く。まったく、しょうがねぇな…

「で、転校生が何だって?」

 諦めて話を広げようとするが…

「ん? 何の事?」

 如月は気が付いたら弁当を貪り食っていた。テメェから話しておいて…お前こそ話を広げる気ないだろ…

「いい加減怒るぞ…」

「何が?」

「俺がだ! いい加減にしろ如月! テメェは人に話しかけておいて、人の話を聞かないとはどういう了見だ! 真剣で我慢ならん!」

「…ぐすっ…」

 如月の顔を見ると一気に怒りが消え、困惑が生まれた。…やばい、泣かしてしまった…こういう場合ってどうすればいいんだっけ…そうだ! たしか、これだったはず…

「泣けば済むってもんじゃねぇぞ!」

 絶対に違う、間違えた…もう良かったのに…自分の不器用さに悲しくなってくる。

「「それは違う!」」

 長月と神無月が声を合せて声を張る。いつも静かな神無月までもか…

「どうでもいいことで怒るのは悪い癖だよ、睦月」

「そうだよ、ほらはやく謝って」

 二人にいっぺんに責められる。確かに悪いのはおれしかいない…

「…わ、悪かった…言い過ぎた…許してくれ如月」

 俺がそう言うと如月は泣きやんでくれたが顔が怒ってる…

「いや! 名前で呼んでくれなきゃ許さない!」

 はぁ?名前で呼ばないと許さない?いつも呼んでるじゃないか。

「下の名前で!」

「わかったよ、美夜、許してくれ」

 なんだか物凄く恥ずかしいな…いつも、名字で呼んでいるのだが急に違うを呼び方はやっぱり恥ずかしい。

「うん、許すよ! 時雨!」

 如月はそう言って満面の笑みを向ける、くそっ!やっぱりこいつは可愛いな…正直少しドキッとしたぞ。ってかそれよりこいつ、俺を下の名前で呼びやがった!

「時雨って呼ぶな! 嫌いなんだよ! その名前!」

 自分の名前がこの世で嫌いなものの中で一番に入る。なんだか女っぽい感じだからだ。

「いいじゃん、せっかく両親が付けてくれた名前でしょ」

「親を怨むぜ…」

「私は好きだよ」

ったく…如月が好きかどうかなんて聞いてねぇし、関係ねぇ。

「それより転校生の話だろ? 色々噂が出てるからな」

 無理やり話題を戻す、こうでもしないと話が進まない。

「なんでもあの帝王のご令嬢って奴だろ、どんな奴かは気になるな」

「睦月、君が他人に興味を持つなんて珍しいじゃないかい」

「うっせ、あの帝王だぞ。興味ぐらい持つわ」

「でもまぁ、朝も言ったと思うけど凄く感じがいい可愛らしい人だよ」

 むぅ、いわゆる一つの美少女ってやつかな?

「でもでも、今の時期に転校なんて珍しいよね。なんでこんな時期に何だろう?」

「まぁそれも気になるが、俺は何故転校して来るのかが疑問だな…お嬢様ならお嬢様らしい学校に通うべきだよな。うちってそんな有名な進学校ってなわけじゃねぇし、これと言った特徴も無い学校だろ?」

「まぁ普通はそうだよね。親の反対を押し切って僕もこの学校に来たしね」

 たしかに長月は親に別の学校を勧められていたがそれを振り切りこの学校に入学したのだ。理由は俺たちと一緒の高校に通いたかったみたいだ…何というか友達思いな奴だ。

「流石は帝王か、普通だったらこんなに話題になるわけねぇし」

 その時チャイムが鳴り響く。もうこんな時間か、話に夢中でほとんど食事に手を付けていなかった。時間に間に合わせるため必死にパンを頬張る。

「頑張って」

そう言って如月達は教室に戻っていく。って、おい! 俺を置いて行くなよ!

「まふぇ!(待て!)」

 口にパンが入っているためうまく喋れない。ああもう! 何なんだよ…ちゃっかりあいつらは弁当食ってたし…俺の要領が悪いのか?

 なんとか完食し教室に戻る廊下で見覚えのある人影が目に映る。

「どうも、会長」

「ん? 時雨じゃないか、どうしたんだこんなところで」

 この人は皐月陽香。この学校の生徒会長を務める人だ。ちなみにこの人とは中学時代からの知り合いである出来事がきっかけで知り合ってその時から仲良くなっている。

「こんなところって、ここは俺達の学年の階ですよ。会長は一階上でしょう。っていうか時雨って呼ばないで下さいって何回言えばいいんですか」

「ふぅむ、どうやら私が間違っていたようだ。少し考え事をしていたのでボーっとしていたのかもしれんな、すまんな時雨助かった」

「無視ですか…もういいですけど、いいかげんその癖直したほうがいいと思いますよ、集中しているのは分かりますけど限度っていうものがあるでしょう」

 会長は髪を掻き揚げ誇らしげに

「私を褒めてもお金以外なにも出ないぞ」

「褒めてませんよ! ってかお金出るんですか?」

「ふふっ、やはり時雨は面白いな、話していて飽きないよ。どうだ今からお茶でもしないか?」

「もう授業始っちゃいますよ」

「サボればいいだろう」

 生徒会長がそんなこと言っていいのか…授業を率先してサボる生徒会長…いかにも駄目なイメージしか浮かんでこない…

「会長と違って俺は頭が良くないですから、授業はちゃんと出ておかないといけないんですよ」

「いいから、それとも私の願いが聞けないとでも?」

「くっ…そこまで言うならご一緒させていただきましょう…」

 正直この人には弱みを握られている、それを引き出しに使われると頭が上がらない…

「よろしい、では生徒会室に行こう。あそこなら教師も入ってこないだろう」

 学園内では絶対的な権力を誇る生徒会、更に会長ともなれば教師以上に力があるらしい。

こうなっているのは理事長が決めているらしい。理事長に関しては謎に包まれている、名前すら生徒たちは知らないし、教師に対して理事長の話は禁句だ。

 普通に考えたらどんな理事長だよ…

「時雨の担任はたしかガラの悪いあの教師だったね。一応私の方から話はしておくよ」

「助かります」

「さぁ着いたよ。そういえば時雨は生徒会室に入るのは初めてだったね」

「ええまぁ、一般の生徒はここには近づきもしませんよ」

 目の前に豪華な扉がある、これが生徒会室の扉だ…まったく、なんでこんなに物凄い扉を付ける必要があったんだ?ここは生徒会室、生徒会以外使わないのに…

「なんですかこれは?」

「これとはなにかな?」

「いや…もういいです…」

「おかしな時雨だな、まぁいい、さぁ立ち話もいい加減止めにしておいて中に入ろうか」

 そう言って会長は扉を開く、扉を開けた先は別世界と言ってもいいぐらいの部屋だった。いままで映画の中でしか見たことのない様な豪華絢爛な椅子やテーブル、更にはエアコンや冷蔵庫といった家電まで揃っている。

 この部屋で生活は間違いなく出来るだろう…

「ん? どうした時雨? 何をそんなに驚いている」

「いえ、正直ここまでとは思いませんでしたよ」

「まぁ確かに私も初め見た時は驚きもしたがすぐに慣れたよ」

「俺は会長と違って一般の庶民ですから、これに慣れてしまったら自分の部屋に住めなくなりそうです」

 マジでたかが生徒会室をここまでする必要があるのかまったく分からない…っていうかどんだけ生徒会は優遇されてんだよ。

「ひとまずそこに座りたまえ、せっかく生徒会室にまできたというのに立ち話でも続ける気かい?」

「…では、失礼します」

 俺は一番近くにあった椅子に腰かける。うわっ! なんだこれ、座り心地最高じゃねぇか!いつまでも座っていられそうだ。

「そうだ、時雨。飲み物はどうする? コーヒーか紅茶どっちがいい?」

「んー、じゃあコーヒーをお願いします」

「分かった。少し待ってろ」

 そう言って会長は部屋の奥に消えていった、まさか飲み物まで常備されているなんて…冷蔵庫があるなら当たり前か……当たり前か?

 待つこと十分ほどだろうか、部屋の奥の方から会長が姿を見せた。

 俺、絶句。

 何故か会長はメイド服に身を包んでいた。

「ふぇっ? な、何で? 会長、意味がわかりません!」

「似合ってないか?」

「滅相もございません! この睦月感動致しました!」

「ふふっ、それは何よりだな」

 ただでさえ整った容姿をしている会長、いつもより何倍も輝いて見える。

「でも何でそんな服を着ているんですか?」

「これは私の趣味だ、知らなかったか」

 あぁ…そういえばそんな噂も流れていたな。会長はコスプレが趣味だと…全くのデマだと思って信じていなかったが本当だったのか…

「待たせたな、はい、コーヒーだ」

そう言って俺の前にコーヒーを置く会長。やけにその姿が本物のメイドさんみたいだった。本物を見たことはないが…

「それにしても似合いますね…それ以外にも他にあるんですか?」

「あるにはあるが…普段私の事をあまり褒めない時雨がそこまで褒めてくれると正直驚きを隠せない」

「俺は会長の姿に驚きを隠せません!」

「そ、そうか…」

 少し照れた様子を見せる会長に対して俺の心臓は今にも破裂してしまいそうなくらい鼓動が早まっていた。

「で他にはどんなものがあるんですか?」

「やけにそこを聞いてくるな…それは見てからのお楽しみにしておくといいだろう」

「はい! 楽しみにしています!」

「それにしても時雨にそんな趣味があったなんて驚きだな。いつも以上にいい顔をしている」

「俺も自分にこんな趣味があったなんて初めて知りましたよ」

 くそっ! 治まれこの鼓動! 心臓が活発に動き過ぎだ!

「はぁ…まさかこんなところで自分の新しい一面を見ることになるなんて思いもよりませんでした」

「こんな姿を見せておきながら何だが…少し落ち着こうか」

「…すみません…」

 会長の冷やかな視線が浴びせられひとまず正気に戻れた。

「で、俺に話があるんじゃないんですか?」

「ふむ、今噂になっている転校生の話なのだが、確か時雨のクラスに決まったみたいだね」

「ああ、はい、かなり噂になってますね、でも噂になるのも分かりますよ。なんて言ってもあの帝王のお嬢様ですから。俺も興味はありますね」

 俺がそう言うと会長はやけに驚いた表情を見せた。

「あの時雨が他人に興味がある?」

「ええ、なんでそんなに驚いているんですか?」

「これは一大事だ! 自分が良ければ他人はどうでもいいあの時雨が他人に興味を持つなんてこれは学校を上げて祝うしかないな!」

「普段どんな目で俺を見ているのか解りましたよ…」

 普段、会長は俺を自己中心な人間として見ていたのか…

「落ち着いてください…はぁ…さっきとは逆の立場になりましたね…」

「だが、あの時雨がだぞ!」

「俺があの時雨です…会長…ひとまず深呼吸してください…」

 俺がそう言って、深呼吸を促した。すると会長は俺が言うままに深呼吸をした。

「ふぅ…すまない…見苦しい姿を見せてしまったな…」

「お互い様ですよ」

 俺もさっきまで取り乱していた手前強く言えない…っていうか、会長があんなになったのは初めて見たかもしれないな…

「えーと、何の話をしてましたっけ? あぁそうだ、転校生の話か」

「その転校生の気になる噂を聞いたんだが…」

 ふと会長は至極真面目な顔をした。

「でだ…その転校生何だが…思い人がこの学校にいるらしい…それが誰かは知らないがな」

「思い人? 好きな人ってことですか?」

「うむ、そうだ」

「ふぅん…そうなんですか…それも気になる点ですね、この学校で帝王のお嬢様との接点がある奴なんてそういないはず…いや、いたな…長月か…っていうかあいつ以外の接点が見つからないな」

 何故か俺の頭の中に満面の笑みを浮かべる長月が映る。えぇい! 気持ち悪いわ!

「ふむ、そう思うのが普通だな、しかしそれが外れていた時は面白いと思わないか? 一体どこの誰がお嬢様の心を射止めたのか…それが気になる」

「なんだか会長が乙女チックこと言っていますね」

「失礼な、これでも私は女だぞ」

「ははっ、確かに今の会長の姿を見ると分かりますよ」

まったく、それにしても会長のメイド姿はあまりにも似合いすぎている。正に筆舌に尽くし難し!

「で、その転校生と一度会って話してみたのだが…」

「えっ? 話したんですか? いつの間に」

「私は生徒会長だぞ、それぐらい当り前だ。それでだ、その時噂は聞いていなかったのでそれについては聞けなかったのだが、面白い話を聞けてな」

面白い話? ここはお決まりの富豪自慢か?

「やけに乙女の目をして言われたよ。私はこの学校に夢を追ってきたと…今考えたら思い人を

追ってきたんだなと思う」

「っていうかよっぽど惚れているんですね、誰かは知らないが少し羨ましい奴だ…」

「そういう時雨だって如月からずいぶん好かれているじゃないか」

「はい? 如月? あいつはただの幼馴染ですよ、あいつといると疲れます…」

何故如月の名前がここで出る、まったく話に関係しているとは思えない。

「私にはそうは見えないな、しかも昔あんな事を起こしているからね」

「うぐっ…会長…その話はしないでください、俺の忘れたい記憶ナンバーワンですよ…いわゆる若さゆえの過ちってやつですよ」

「それに一緒にいると疲れると言ったがそれなら何故一緒にいる、普通時雨だったら疲れるのであったら初めから如月に関わっていなかっただろう」

 俺はそこで少し言葉に詰まる、確かにあいつ等と一緒にいるのは疲れる、でも昔から一緒だった、今は一緒にいて当たり前になっているのか?

「別に、特別な理由なんてありませんよ。ただ…あいつ等といるのは確かに疲れます…でも…楽しいんですよ…なんでかは自分でもそれはわかりません」

「ふふっ、時雨にそこまで言わせるなんてよっぽど今の居場所が気に入っているようだ、羨ましいな…そこまで仲のいい友達に出会えるなんて」

「そういうもんなんですかね…」

「そういうものだ、かけがえのない友人を持つという事がどれだけ大変か」

「誰にだっているもんじゃないんですか」

「いないよ、現に私も友人と呼べる人物がいないのだから」

「会長、何言ってるんですか? 会長にもいるじゃないですか、それとも俺じゃ役不足ですか?」

「時雨…嬉しいよ」

 そう言って会長は静かに微笑んだ。その笑みは普段見せない微笑み、多分俺にしか見せたことの無いだろう…少し自意識過剰が過ぎるか?

「そろそろ俺は教室に戻らせて貰いますよ、頭の出来は良くないから授業は出ておかないと」

「勉強なら私が教えてやるのに、まあいい話したいことも話したし、少し脱線してしまったが、時雨久しぶりに話せて良かったよ」

「いえいえこちらこそ、それより楽しみにしてますよ次のコスプレ」

「期待に添えるようにやってみようか」

「それでは失礼します」

 そう言って俺は生徒会室を後にした。

「やれやれ…私も本格的に動かないと…他には負けてられないからな…」

 会長の呟きは当然俺の耳には届いていなかった。



ご意見・ご感想を是非お聞かせ下さい。

それを真摯に受け止め精進していくつもりでございます。

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