人間は弱く、そして未熟
凱旋山に着いてから数時間がたった。
「ここが祭壇だよ。」
目的地に着いたようだ。
(ここが祭壇か・・・。)
これでやっと姫に逢える。そう思うと心が躍った。
(神々に祈りをささげればいいんだよね??)
俺は最初に確認しておいた。
「あぁ、あと、生贄もな。」
俺は一瞬嫌な言葉を耳にした。
(生・・・贄・・・・?)
どう言うことか解らなかった。何故なら、生贄なんて俺は聞いていない。
(おい、フール。今のはどういうことだ?俺は生贄なんて聞いてないぞ!!説明しろ!!!)
「あれ、聞いてなかった??“たとえ、どんな犠牲が出ようとも”ってちゃんと言ったんだけど。」
確かにその言葉に聞き覚えはあった。
(言ったとしても“生贄”なんて言葉は聞いていない!)
「今更ごちゃごちゃ言うなよ。普通考えれば“犠牲=生贄”だろ?」
俺は怒りがこみ上げてくるのが解った。
(俺自身のためだけに・・・・犠牲を出すくらいなら・・・俺は・・・俺は願いなんて叶えなくていい!!!!)
ただ姫に逢いたい。そんな思いだけだった。
「もしかして、僕を裏切る気??駄目だよ、ロート。神を、僕を裏切っちゃ。神々は目覚めるのを楽しみに待ってるんだよ。その期待を裏切るの?」
(裏切る・・・?俺は契約なんかしてない。裏切るも何もない!)
「・・・・ロート。君ちゃんとぼくに言ったよね?“何があっても絶対に裏切りません”って。忘れたとは言わせないよ・・・。」
確かに言った。“何があっても裏切らない”と。でも、これとそれとでは話が別だ。誰が生贄なんて出すもんか。
「その顔は完璧な敵意だね。これだからそういう人間は嫌いなんだよ!」
フールはそういうと俺に向かって攻撃してきた。
「裏切るならここで死んでもらうよ!!覚悟しな!ロウィート・アミュレッタ!!!!」
俺は瞬時に避けると、この場の対処を考えた。
((フールには攻撃する武器がある。だが俺はそんなものは持っていない。どうやって対処すれば・・・・・!!))
“心は顔に出る”とよく言うがどうやらそれは本当のようだ。
「何迷ってるの??顔にちゃんと書いてあるよ。」
フールは攻撃を辞めてまた話し始めた。
「もしかして、“逃げる”・・・なんて考えてるわけじゃないよね?迷ってるくらいならこっちに来ればいいのに。」
どうやら、俺には逃げるという選択肢はないようだ。
よく考えると、ここで逃げたら姫たちに迷惑がかかるかもしれない。
そう考えるとやはり逃げるわけにはいかなかった。
「おや、迷いが晴れたのか・・・。態々そんなことしなくてもよかったのに。」
(ここで君を倒さなかったら後から大変そうだからね。)
“逃げる”という選択肢を捨てたとしても、俺にはフールに対抗する手段も武器も無い。
そんなことを考えている時でもフールは構わず攻撃してくる。
そんな時、祭壇の方が光った。
俺はそれに気がついたがフールは俺を倒すことに夢中で気が付いていないようだ。
((あれは!!何でこんなところに!?))
そこには驚くべきものが置いてあった。
俺はすきを狙ってその光の方へ行った。
((これはやはり!!見間違えるはずがない!))
「なんだ、ロート。その石に興味があるのか。だがそれはくれてやらんぞ。」
俺はフールに勝つ手段を思いついた。
それを思い立ったときに思わず笑いがこぼれてしまった。
((俺は頭の回転だけはまだ良いようだ。))
「何を笑っている?そんなにその石に興味があるのか。」
(なぁ、フール。きみさ、この石の意味ってちゃんと知ってるよね?)
俺はわざと問いかけた。
「何を言ってるんだ。もちろん知ってるにきまってるじゃないか。その意味を知らなかったらそんな石なんていらないさ。」
(じゃぁ、何でここにあるの??)
「えっ・・・?なんでって、それは・・・その・・・あれだよ、あれ。」
フールは動揺していた。俺に問いかけられた時から膝ががくがくしていた。
それに俺はさらに追い打ちをかける。
(ねぇ、フール。“あれ”ってなぁに??)
「お前・・・・・!!」
思わず笑いがこぼれる。
(何でそんな怒った顔してるの?この石の意味を尋ねただけなのに何でそんな怒る必要があるの?)
「お前、調子に乗ってんのも今のうちだぞ!!ここで俺に倒されりゃ終わりなんだよ!!」
俺は冷静に問いかける。
(じゃぁ、この石の、秘宝の本当の意味は?)
「本・・・・当の・・・意味??」
フールは知らなかった。
この秘宝にもう一つの意味があったことを。
(なんだ。本当の意味も知らないでこの秘宝を盗んだんだ。)
「“盗んだ”だと?証拠も無いのに勝手な言いがかりをつけるな!」
おっと。これには反応した。
(この秘宝って、ウォスレイト王国が戦争起こすきっかけになった秘宝なんだよね。この秘宝が無くなって先ず第一に疑われたのが隣の国の王。あの王は宝石には目がないからな。それが原因で戦争が起こったんだよな。)
俺は涙をこらえながら言った。何故なら、その戦争さえなければ姫とも離れずに済んだからだ。
(それに、フール言ってたよね?“王国秘密機関探索科”って。この秘宝の捜索を担当してたのって、フールたちだよね?)
フールは青ざめた顔をして、膝をついた。
まるで、もう全てがばれてしまった殺人犯のように。
「お前は一体何なんだ!?何故その石の存在のことを知っている?王族でもない一般兵士のお前が、何故!?」
(それは国家機密上、教えられないね。言っとくけど、秘宝を盗んだことは“大罪”だからね。)
俺は本当の意味を伝えていなかった。だが、伝えても伝えなくてもきっとフールは神の逆鱗に触れた罰が下るだろう。
だが、最後だから言っておくことにしよう。
(本当の意味を教えるよ、フール。何故、俺がこの秘宝を目にしてここまで話せた理由を。)
そう言っても、放心状態のフールには聞こえているかわからない。
(この秘宝の普通の意味は“癒しの輝石”。人の心を浄化する力を持っている。だが悪用すれば、その力は逆となり“浄化”ではなく“制圧”へと変わる。その“制圧”の状態がお前だ。)
俺はじっとフールを見つめた。
未だ放心状態でかなりこの秘宝を悪用したらしい。
(そして、本当の意味。この秘宝の本当の意味は“真実の証”。この秘宝が見た真実をそのまま教えてくれる。だから俺はここまで話せた。この秘宝が真実を教えてくれた。)
俺が本当の意味を言うと、フールは意識を取り戻したのか、何やら話し始めた。
「はははっっ・・・・。どうやら僕は君に負けたようだ。」
そうフールが言うと、祭壇の方からすさまじい音がした。
(さ、神々のお目覚めだ。フール、君には覚悟していて貰わないとな。)
「もうとっくの昔に覚悟はできている。」
祭壇の方を見ると長年の封印が溶け、神が姿を現した。
(恨むなら神や周りの人間じゃなく、大罪を犯した自分を恨むんだな。)
そう言って、俺は秘宝をしっかり持ちその場を静かに立ち去った。
祭壇を後にする時、フールの悲鳴が聞こえたが、俺は無視して立ち去った。
***********************************************************************
凱旋山をおりようとした時、何かに呼び止められた。
『ロウィート・アミュレッタよ。そなたは見事に灰と化した状態で悪事を裁いた。それをたたえ、そなたの願いを3つだけ叶えてやろう。』
俺は迷った。俺自身の願いは沢山ある。
だが、それでは俺にしか良いことは無い。
姫に逢いたい気持ちもある。
どうすればいいかわからなくなった俺は、神に言った。
(直ぐには決められません。決まったらここへきても良いでしょうか。)
『いや、ここへきてはならぬ。ここはもともと人間が来る場所ではないからな。よかろう、決まったらそなたの心でわしを呼べ。さすれば再びそなたの願いをかなえてやろう。』
(お手数掛けて申し訳ありません。)
そういうと、神は消えてしまった。
俺は願いを考えながら、凱旋山をおりた。