「自分のスキル」
「おはよう、咲〜。今日、移動してくる社員いるんだよね?
それと派遣も一人入るって聞いたけど…どんな人かな、いい人だといいね。」
***
「今日から派遣の前田さんが入ります。皆さんよろしくお願いします。
前田さん、何かあれば同じ派遣の吉野さんに聞いてね。」
「吉野さん、よろしくね!とりあえずPCの設定からお願い〜。」
「はーい…」……私ですか…
最近は、自分でPCの初期設定をするのが当たり前。
前の職場ではセットアップ済みを渡されたけど、今は全部自分で。
意外とこれ、地味にめんどくさいのよね…。
「じゃあ、まずは社内システムの使い方から説明しますね。」
***
昼休み。
「あー教えるのって、ほんと疲れるね〜。」
「蘭、おつかれ。相手のレベル探りながら話すの大変だよね。」
「そうそう。社内用語とか、最初はわからないだろうし、
“そこから?”って思っても、ちゃんと説明しなきゃいけないしね。」
「逆に“わかってる前提”で教えてくる人もいるよね。」
「うん、いるいる。あるあるだよね。」
教える側も、教わる側も、温度差がある。
一から知りたい人もいれば、言われたことだけやればいいって人もいる。
前田さんは、どっちのタイプなんだろう…。
***
数日後。
「吉野さん、前田さんどう?慣れてきた?」
「うーん……どう思います?」
「って、質問返し?」
「あ、すみません。自分の感覚で言うと、PCスキルは“中の下”くらいかなって…。」
「え、そうなの?へぇ〜…」
自分の感覚ってなんだ・・・自分を自分で中間って位置付けているが
それが、本当に周りは、どうみてるんだ?
私の“中の下”は、他の人から見たら“中の上”かもしれないし、
もしかしたら、私自身が“下の下”かもしれない。
なんで、先輩にあんなこと言ってしまったのだろう。人のこと言えるのか?
自分の基準って、どこなんだろう。
***
「咲さ〜、自分のPCスキルってどうやって申告してる?」
「うーん、難しいよね。“やったことある”と“できる”は違うし、
“やればできる”っていうのも、実際にやらないとわからないし。」
「たしかに…」
人によって、経験値も環境も違う。覚える気があるかないか、
だから、“スキル”なんて言葉ひとつで測れるものじゃない。
蘭はふと、自分の指先を見つめた。
同じタイピングでも、音も速さも人それぞれ。
それが、職場というひとつのリズムになっている。
——私も、その中のひとつの音なんだな。




