「乱れ始める音」
ある日、街で律と蘭を見かけた一人の女性——
その瞳が、一瞬で凍りついた。
笑い合う二人の姿に、過去の記憶がフラッシュバックする。
「……律……?」
胸の奥から、封じ込めたはずの痛みが滲み出していった。
***
この数週間、律との時間は穏やかで、静かな波のようだった。
社内の不協和音を苦しく感じることもなく、過ごす日々が続いていた。
………‥…そう思っていたのも束の間
「吉野さん、申し訳ないんだが、この書類確認して、まとめてくれる?」
「はい…わかりました」
ため息をひとつついて、机に向かう。
ていうか、なんで私?あの人が直接私に依頼してくるなんて…
彼は、この部署の部長の長井さん。まだ50代。
まあまあ、社員からの信頼度はあるようだけど…
しかし、なぜ派遣の私なの?
社員もお局さんもいるのに… あ…逆恨みされたくないな…
「長井さん、お待たせしました。」
「おー ありがとう。」
「では、失礼します。」
「あーちょっとごめん、これの内容確認してくれる?
この後報告があるんだ」
「承知しました…あの残業申請してもよろしいでしょうか」
「ああ いいよ 頼むね」
”あーマジで定時前に依頼って、流石に酷くない?
しかも派遣だよ私!!!さっさと終わらせて帰ろっと…”
でも、そう簡単にいかなかった…何これ、間違い多くない?
これは、簡単には終わらない…どうしよ…
とりあえず、律にチャットしておこうかな…
”今日残業になっちゃった…ごめんね…終わったら電話するね…”
”わかった、連絡待ってるよ”
律の返答に力をもらい 少しだけ心が和らぐ。
………‥…全然終わらない…
「吉野さん。」
背後から低い声。振り返ると長井が立っていた。
「あ、すみません。これかなり間違いが多くて、
直すのに時間がかかるのですが…」
「あ〜それね、明日でもいいよ。今日はこれで終わりにしよう…
それに、お腹も空いたでしょう。ご飯たべに行こうか。」
え、なんで?イヤイヤ行きませんけど・・
「すみません…これから、約束があるので、失礼します。」
「そうか〜彼氏か〜 残念だな じゃあ今度いこうな 」
蘭は鳥肌がたった。なんだこの感じ、イヤな雑音。なんか怖い・・
——これ、ただの雑音じゃない。嫌な音だ。
”やっと終わったよ!今日は遅くなったから 今日はうちに帰るよ…”
メッセージを送って、よし!帰ろ…なんかすごく疲れちゃったし。
蘭は従業員入り口から外へ出た。
その時 「——蘭!」
蘭は、思わず振り向き、こ、この声! 律だ!どこにいるの?
周りをキョロキョロ見渡し律を見つけた。 律が車にもたれて立っていた。
「蘭、ごくろうさん!」
「えーーどうして?どうしているの?
………‥…何でここに?」
「遅いから心配でな、迎えにきた。 だめか?」
「嬉しい!ありがとう、律に会えてうれしい!」
蘭は、疲れが吹っ飛んでしまうくらい、満遍の笑顔で喜んでいた。
でも——その背後では、誰かが二人を見つめていた。
夜の闇に溶けるような、冷たい視線で。
”誰 あの女” 律に馴れ馴れしくしないで!




