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「日常の不協和音」  作者: Harumin


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14/31

「ゆっくりでいいんだ」

「……私でいいのかな」


昨日、水城に言われた言葉が、蘭の胸の奥でずっと引っかかって


“付き合おうか”


まるで日常の延長線上のように、静かで、淡々とした声。

決して甘い雰囲気でも、押しつけがましくもない。

だからこそ、蘭は余計にわからなくなっていた。


私は…何か返した?

ううん、ただ頷いただけだ。

好きって言葉も言ってない。

水城さんは、それで本当にいいの?

頭の中では “嫌われたくない” がぐるぐると回っていた。


彼の声を聴くだけで救われていた日々。

その声に惹かれていたのは確か。でもそれは——憧れみたいなもので。


現実の恋人として、どう接したらいいのかわからない。


——そのとき、画面が一瞬明るくなった。

「水城 律」 着信


蘭は驚いて、スマホを落としそうになって、

慌ててスワイプして耳に当てた。

「もしもし」

「おつかれ。今から出て来れる?」

「あ、うん、大丈夫だけど…」

「じゃあ、待ってる」

「……わかった」


***

店の扉を開けると、

バーカウンターの端に座る水城がいた。


「おまたせ…」

水城は振り返り、

「ごめんな。急に呼び出して」

「大丈夫だよ。なにかあった?」

(あ、今日の声はなんだか低い…真剣な雰囲気)


水城はグラスを指先で転がしながら、

ゆっくりと口を開いた。


「ちゃんと言ってなかったな。

 蘭のことだから——理由がわからないままだと、

 “音”に振り回されてるんじゃないかと思って」


「えっ……どうして……」

(見透かされてる…?)


「俺のこと話さないとなと思ってさ」


「蘭があのとき話してくれただろ。

 “他人には伝わらないと思っていた、小さな雑音や匂い”。

 ——正直、俺…震えたんだよ」


蘭は一瞬、息を飲んだ。


「……震えた?」


水城の声が、少しだけ弾む。


「ああ。

 同じ感覚の持ち主が、こんな近くにいたんだって。

 嬉しかった。

 蘭を——掴まえたい、って思った」


「私と…同じ? 嘘でしょ…」

 

水城のトーンが、どこか軽やかになっているのを感じた。 


「俺たち、波長が——合ったんだと思う。

 ゆっくりでいい。

 お互いのペースで、波長を合わせていけばいい。

 蘭の音は、俺にとって心地いいんだ」


その言葉は、静かに、深く胸に落ちてきた。


「……水城さん……」


蘭は、胸の奥から張っていた緊張がゆるんだのか、

視界がじわりと滲んだ。

泣くつもりなんてなかったのに、安心した瞬間に、

勝手に涙がこぼれた。


それを見た水城が、蘭の頭を優しく撫でた。


「なあ……“律”でいいよ」


ふっと、名前が夜の空気に溶けた。


その一言に、また蘭の胸がきゅっと熱くなる。

距離が一気に、でも優しく、近づいた気がした。

  


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