「調律された夜」
ざわついた店の中で、思わず蘭が叫んだ。
「ホントですか?え そうなの? あれ?」
あまりの驚きに、声が大きく出てしまった。
緊張の糸が一気に緩んだ。
「そんなに驚かなくても…」とふふと水城が笑った。
「だって…すごく落ち着いてるから、絶対年上だと…思ってた…から」
まさか同い年だったなんて… 信じられない。
こんな素敵な声で、落ち着いた物腰で、私の中では年上だと
思い込んでいた…
「そうだったのか…僕もまさか同じ年だったとは…。思ってなかったかな」
「なら、お互いフランクにいこうか 」
それから、二人は自然と会話が弾み、蘭の心は穏やかに、
調律されていく感覚が心地よかった。
店を出た二人は、少し酔いを冷ましながら夜の街を歩いていた。
「今日はありがとうございました。とても心地いい時間だった…」
「そうか、それはよかった。」
________この時間がいつまでも続いてくれたらな
蘭は思い切って口を開いた
「………水城さんの声に救われていたんです。
私って、人より音とか匂いに過剰に敏感で、
いつも頭や心が不協和音だらけで、
息苦しく生きてきたから、初めて水城さんの声を聞いたとき、
音が変わったんです。全ての音が”調律”されたみたいで
綺麗な音に変わって、気持ちがラクになって。
だから、ずっと…水城さんの声を、探したりしていました…_」
…………………。
「僕の声が、そんなふうに思ってもらえるなんて…光栄だな。」
「あ ごめんなさい…勝手に私が…感じていることで…」
「でも、声だけじゃなくて…今日、普通に話ができて、
水城さんのこともっと知りたいなと思った…」
(ずっとこの声に癒されていたい…)
静かな沈黙のあと
「じゃあ…付き合い始めてみようか…」
「え? ………今、なんて? 」
水城は試すような言い方で…
「だって、お互いのこと知るにはこれしかないと、思うけど?」
「えっ でも… その… 」
「じゃあ 友人として知りたいだけ?」
…友人?そうじゃない、違う…
蘭は心臓の音が速くなっていくのを感じた。
まるで、調律が狂ってしまうほどに。
「僕は、友人として知りたい訳じゃないんだけどな…」
「……………私も…友人じゃ…ない……。」
「じゃあ 成立だな。」
心臓が張り裂けそう。
嬉しいさと恥ずかしさで、頬が熱い。
なぜ、どうして?水城さんが私を知りたいって?
もう、頭の中でいろんな音が混ざり合って、
でも、この音は不協和音ではない。
「じゃあ これからもよろしく、蘭。」
水城の声が、優しく響いた。
彼の声に包まれながら、蘭は願った。
星降る夜空の下 ”夢なら覚めないで欲しい”と願った。




