「声から伝わる想い」
蘭は、いつもの社内の不協和音よりも、
自分の中から響く音を静めることができずにいた。
――なんで、こんなに心の音が、綺麗じゃないんだろう。
ざわついた音が、胸の奥に反響する音。
自分の鼓動が乱れて今までにない感じ…
「吉野さん、これ修正お願いできますか?」
「あっ、はい…わかりました」
樹の声に、ハッとして顔を上げる。
「どうかされました?元気ないですね。」
「……あ、うん。別に…
き きのうね、街で水城さん見かけたんだよね。
すごく綺麗な人と一緒にいたの 見ちゃった・・・ 」
蘭は淡々と話した。
でも、トーンの奥にある“わずかな戸惑い”を、樹は聞き逃さなかった。
「それで?落ち込んでるんですか」
「水城先輩、特定の人いないって言ってましたけどね…」
「……ふ〜ん そうなのかな 」
でも、あの女性の声は…絶対 恋?愛?してる声だった…
樹は、そんな蘭を見つめながら
“ああ、蘭さん…なんか拗らせちゃってるな”
でも同時に、
“その拗らせ方、なんか臆病な人なんだな”
そうも思ってしまった。
(咲さんといい、この人たちは繊細だな…)
***
ピコーン
ん?山下からメッセージか…なんだ
「お疲れ様です。ちょっと聞きたいことがあって、
水城先輩って、お付き合いしてる人いるんですか?」
「なんだよ、唐突だな…
いいや、今はフリーだけど、なんで?」
ピコーン
「じゃあ、昨日一緒にいた女性は?誰なんです?」
はあ? あ〜 と水城が笑って やっぱり見られてたか…と
あの時の場面を思い出した。
「大学の後輩。 柏木 貴子だよ。お前も知ってる人だけど…
何? なんでお前がそんなこと聞くんだ?」
ピコーン
「えー、? 柏木?なんでまた、先輩…もしかして…」
「あー、相変わらずだよ」
「いい加減、先輩のその無神経な優しさが、周りを傷つけてるって
自覚してくださいよ・・・
(それでもなくても拗らせちゃってる人いるんですから…)
「ん?なんだ? 」
「あ 週末にまた、お前の会社に行くんだよ、手直ししてくれって言われてんだ。」
「そうなんですか?その日は1日ですか? じゃあ 夜空けといてくれませんか?」
「あー 別に 早く片付けばな…いいけど。」
****
そうか〜柏木だったのか…あれはしつこいからな〜
「どうしたの?樹くん」
「咲さん!いいえ。なんでもないですヨ」
「あ そうだ、今夜水城先輩と約束してるんですけど…」
・・・・・・・・。樹は咲に、蘭と水城のことを話した。
「どうですか?少し協力してあげませんか?」
「そうね。元気のない蘭、見ててつまらないもの。」
――咲の瞳に、ほんの少しのいたずらな光が宿った。




