優しい手
掲載日:2010/05/25
僕は背中をなでるあの子の優しい手が大好きだった。
初めてあの子にあった時、あの子はほんとにちっぽけで。
「あなたも今日からお兄ちゃんね」なんてお母さんは笑って言ってた。
気がついたらあの子は見上げなきゃいけないくらい、大きくなってた。
ある日あの子は泣きながら帰ってきた。
「どこにもいかないで」
友達に聞いたんだって僕が先にいってしまうって。
どこにも行かないよ。そう言って抱きしめたかったけど僕には出来ないから。
あの子の頬をぺろりと舐めた。くすぐったいよってあの子笑ってた。
何回目の誕生日だっけ?
頭の中に霞がかかったように思い出せない。
僕はおぼつかなくなった足でふらりと道路に飛び出した。
「待って!」
あの子が叫んで僕を追いかけた。
――そして。
お母さんは目を真っ赤に腫らして「あなたのせいじゃない」って言った。
あの子と同じ優しい手で僕を撫でた。
僕はよくわからない。
ただその日からあの子はいなくなった。
ポカポカと暖かい日。
僕はお昼寝。
赤ちゃんの声がして僕の背中を撫でていたお母さんの手が離れた。
まぶたが重い。
気持ち良くて気持ち良くて。
サキちゃん僕も行くから。
ずっと一緒にいるから。




