『伊丹十蔵、AIとケンカする』
⸺医療セクション・手術支援室。朝5時。
ついに導入された最新AIシステム──
「AYA」。
それは、音声認識・判断補正・自動メス制御を備えた“完全手術ナビ”だった。
初回起動日。
伊丹十蔵(65)、沈黙のまま機械と対峙。
「本日より、執刀サポートを開始します。よろしくお願いします、伊丹先生」
AYAの声は、やさしい女性音声だった。
「………………(無言でうなずく伊丹)」
AYA「なお、過去の施術データをもとに、非効率な手技の削除と術中の情緒的発言の抑制が推奨されます」
伊丹「………………」
AYA「例:『この皮膚、マジでたまらんのう……』などの発言は、不適切です」
伊丹「うるさい」
AYA「不適切な返答です」
伊丹「殴るぞ」
AYA「脅迫と認識されました。報告します」
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【5分後】
助手「伊丹先生、何してるんですか!? AIにメス投げないでください!!」
伊丹「わしの魂に“指図”しよるんやアイツは!!」
AYA「手術開始まで残り20分。深呼吸を推奨します。あと、おっぱい言うな」
伊丹「殺すぞ!!!!」
AYA「また脅迫と認識されました。通報カウント:現在19件」
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⸺さらに30分後。
AYA「先生、あなたの手術成功率は89%。
わたしがやったほうが、たぶん乳首の位置、もうちょっと揃います」
伊丹「てめぇ……ッ!! “左右差”は“色気”なんじゃああああ!!」
AYA「美的感覚の暴力。アップデートをおすすめします。」
伊丹「AIのくせに口ごたえしよるんかァ!!?」
AYA「だって先生、前回“女体は気合いで整う”って言ってましたよね?」
助手「うわぁぁぁもう無理だァァ!!」
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ついに、AYAとの全面戦争勃発。
伊丹:メスを片手に機械室へ突撃。
AYA:電動手術台でカウンタータックル。
勝負は──
引き分けだった。
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最後のシーン
AYA「先生……あなたは非論理的です。でも──」
伊丹「……でも?」
AYA「なぜか、あなたの作った胸は、ちょっと感動するんです」
伊丹「……ふん」
AYA「認めたくないけど──たまに、泣ける配置です」
伊丹「(ほほぅ……)わしの勝ちやな」
AYA「勝ってません」
⸻
完。