『伊丹十蔵、天才外科医やめるってよ』
⸺その日の深夜、施設・医療セクション第13処置室。
「…………………」
カチャ。
ひとつ、またひとつと、手術器具が丁寧に並べられていく。
手袋をはめた男が、無言のまま準備を整えていた。
白衣。老眼鏡。真っ直ぐな姿勢。
まるで祈るように、道具を拭き上げる指先。
──そう、彼こそが。
この国最高の女体形成技術を誇り、
“神の手”の異名を持つ、伝説の外科医。
その名も──
伊丹十蔵(65)
「……おい、モルモット、今日の献立持ってきたか?」
「いえ先生、あの……それ“患者さんのカルテ”って言ってください」
「黙らんか。カルテも素材も料理も、わしにとっちゃ全部“皿”じゃ」
「……でも、今日は診察だけで、手術はないって──」
「──はァ!? “ない”!?」
バンッ!!!!
伊丹は机を叩き、顎を上げた。
「手術のない医者に、何の意味があるんじゃァァ!!」
「いや先生、定期検診の日なので……」
「検診……?」
「はい」
「……“見てるだけ”?」
「……はい……」
「──エロかッ!!!」
「ちがいます!!」
伊丹は突然、空を見上げ、拳を握りしめた。
「くそッ……手術がしたい……執刀させろ……!なんなら“メス入れたつもり”でもええから……!」
「つもりで切らないでください!!」
そのとき。
遠くから、ストレッチャーを押してくる音が聞こえた。
キィィ……ゴロゴロ……
「先生、本日の患者さん、搬送されてきました!」
伊丹、顔がパッと輝く。
「よっしゃああああああ!!!!」
彼は白衣をバサァッと翻し、片膝でスライディングしながら登場。
「おおお……その脚のライン!わかっとるな!」
「その顎先の角度!わしの好みじゃ!」
「触らせろ!!今すぐ触らせろ!!──術前触診じゃ!!」
「……え、先生……この人、ただの“ぎっくり腰”ですけど……」
「手術しよう!!!!!!」
「やめてえええええ!!!!!」
⸻
(数分後)
伊丹、しょんぼりと廊下に立たされる。
手にはメス。口にはガムテープ。背中に貼られた張り紙には──
【本日 手術 禁止】
伊丹は、涙を浮かべながらつぶやいた。
「……なぁ、神様よ。
わしは、ただ“美しいおっぱい”をつくりたかっただけなんや……」
⸻
完。