ループしちゃうくらいに君が好き ~あと1日で死ぬ君へ~
あれは、何だったんだろう。
朧げな記憶。
私は事故にあった。
私の名前はミカゲ。今は病院のベッドに座って、医者の話を聞いている。
それは、絶望的なものだった。
事故による外傷が原因の急性多臓器不全。
多臓器不全が進行しているため、治療が追いつかない。
手術を試みたが、損傷が大きすぎて回復の見込みは低い。
そして、医者に言われた言葉。
「あなたの寿命はあと3日です」
そんなことを言われても、実感湧かないよ。
両親がお見舞いに来た。でも、2人は帰ってしまった。
2人とも忙しいのは分かってる。でも、こんな時くらいずっと一緒にいてくれてもいいじゃない。
まあ、あの人たちのことだし、期待はできないけど。
そんなことより……シオンくんは、来てくれるかな?
会いたいな。
シオンくんは幼馴染。
絶対秘密だけどね、私はシオンくんが好き。
大事だからもう一回、絶対秘密だけどね。
ぼんやりと窓の外を眺める。
頭に浮かぶのはシオンくんばっかり。
私、もうある意味末期症状じゃん。
扉がノックされる。機能不全のはずの心臓がビクッと跳ねる。
いや、落ち着け私。誰だか分からないじゃん。勝手に期待しちゃダメだよ。
入ってきたのは医者だった。ほらやっぱりシオンくんじゃない。
もう、無駄にドキドキしちゃったじゃん。
医者に告げられたのは、面会希望者がいるということ。その人をここへ通して良いかということ。
その人の名前はシオン。
私は二つ返事で頷いた。来てくれたんだ……
そして医者は出ていった。
私の胸は高鳴る。なんかさらに寿命が縮んじゃいそう。
聞き馴染みのある声。
「入るぞ」
ノックもなく扉が開けられる。
「……っ!急に開けないでよ。びっくりするよ」
私は反射的に文句を言ってしまった。何やってるんだろう。もっと来てくれてありがとう、とか嬉しいとかあるじゃん。
「シオンくん、来て、くれたんだ」
結局言えたのはそれだけだった。
「……お前、大丈夫か?」
シオンくんは心配してくれている。
ちゃんと、言ったほうがいいな。私の状態。
「シオンくん、聞いて」
私はシオンくんの目をまっすぐ見る。
「私、あと3日で死んじゃうんだ」
言っちゃった。
シオンくん、どんな反応するんだろう。シオンくんなら、早く元気になれ、って言ってどっか行っちゃうかも。
「僕は、余命1日だ」
シオンくんの言葉。私は耳を疑った。
もう、聴覚がなくなりかけてるのかな?
「……」
私は黙って俯いた。
シオンくんの言葉を聞き間違えるとかありえない。ずっと昔から、何回も聞いてきた大好きな声なんだよ。
「ごめん、僕の、自己中心的な理由だ」
謝らないでよ。
余命3日っていう、似たようなことになってる私が言えることなんて何もないんだよ。
でも、なんとなく想像がついた。
直感的に私は手を伸ばし、なんとかシオンくんの左腕を掴む。
「……ミカゲ!?」
シオンくんは戸惑っているが、気にしない。袖をまくると、そこには赤い文字が刻まれていた。
1
昔、どっかの図書館で本で読んだ。多分近くの大図書館だけど。
ループの話。寿命を消費して、同じ時間を繰り返すのだ。条件は、本当に深く愛する人物の死亡。
ループすると腕に寿命が刻まれる。
悲しいな。シオンくんには大好きな人がいたんだ。
てか、悲しいどころの騒ぎじゃないな。
「ばーか」
なんとなく言ってみた。なんか言わないと涙が出ちゃいそうだったから。
「僕はミカゲが死ぬたびにループしてた。ミカゲのこと、どうしても忘れられなくて……」
あれ……?
「ずるい」
なんとなく言ってみた。そっちを先に言いなさい。無駄に悲しくなったじゃないか。
「僕はずるかった。でも……とにかく、ミカゲが好きだ」
なんか、不思議な気持ちだ。
私はこの言葉を望んでいたのだろうか?
「私はなんて言えばいい?」
最低なことを言ってしまった。
「何も、言わなくていい。1日だけ一緒にいてくれないか?」
シオンくんは、優しいね。
「いいよ」
私のそばにシオンくんが座る。
会話がなくても心地いいのはなんでだろう。幸せかもしれない。
しばらくした後。
そんな時間は唐突に終わった。
シオンくんが倒れた。電池が切れてしまったかのように。
シオンくんの腕の数字は0になっていた。
「……シオンくん?」
私は現実を受け入れられなかった。
なんで?どうして?
手を伸ばしてなんとかシオンくんの額に触れる。トラウマになる冷たさ。
目の前が真っ暗になる。
異変を察知した看護師によってシオンくんは運ばれていく。
その後、シオンくんが死んだという知らせを聞いた。
おかしい。
こんなことあっていいはずがない。
どうしたらいいの?
シオンくんの腕の数字が頭の中にフラッシュバックした。
ループ……?
シオンくんは、ずっとループしてたんだよね。
それは、シオンくんにしか出来ないこと?
ループすれば、今日消費した分と、遡った分で私も余命1日になれる。
本当に深く愛する?
余裕じゃん。
こんな超素晴らしいシオンくんを愛さないわけがない。
私は意識を研ぎ澄ます。
そして念じる。
ループ……
次は私も、シオンくんに好きって……
言えるかな?
言うしかないか?
私はそもそも寿命が短いから、一回しかループ出来ないよ。
絶対に後悔はしたくない。
時計が0:00を告げた。
気がついたら私はこう言っていた。
「私、あと3日で死んじゃうんだ」
なるほど、ここに戻るのか。
「嘘だよ、私もあと1日で死ぬの」
私は悪戯っぽく思いっきり笑って言ってやった。
「僕も、余命1日だ」
うん、知ってるよ。
シオンくんは、袖をまくって腕の数字を見せてくれた。
1
0から1に戻ってる。良かった。
私も袖をまくった。思った通り、そこには赤い文字で数字が刻まれている。
1
私は得意げに笑う。
「びっくりしたよね、私もループしたんだ」
語ってやろうじゃないか。
「私が3日で死ぬって言ったら、シオンくんが1日で死んじゃったの。そしたらね、その日の0:00になって、ループした。私の余命は多分3日だったから、過ごした分の1日と、ループでさかのぼった分でもう1日減って、残り1日になったよ」
私たちは示し合わせたわけでもないのに、同時に、同じ言葉を、呟いた。
「「ループしちゃうくらいに君が好き」」
私たちは笑っていた。単に面白かったからなのか、はたまた嬉しさか……
純粋に疑問に思ったので聞いてみた。
「ちなみに、シオンくんは何回くらいループしたの?」
シオンくんは想像を絶する数字を答えた。
「4096回」
シオンくんは苦笑いだ。
「2の12乗いっちゃってるじゃん。愛が重いな……」
困ったな。こんなに愛されちゃっていいのかな?
そしたら次は、シオンくんが泣きついてきた。
「何度も目の前でミカゲが死んだ。辛かった」
私もなんか涙が出てきた。
「私は1回だけどさ、十分きついよ。シオンくんが死んじゃうの」
お互い様だ。
二人で思いっきり泣いた後、なんだか面白くなって、思いっきり笑った。
今、私たちは最高に幸せだった。
そして、二人は共に、最後の最後の1日を過ごした。
評価、感想等いただけるとありがたいです。
少しでも楽しんでいただければ幸いです。
シリーズでシオン視点があります。