学園の王子様が、王位継承権1位になった件
学園の王子様という言い回しをご存知だろうか。
いわゆる、イケメンと呼ばれるタイプの顔を持つ人物が、性格も白馬に乗って2人乗りをスマートに誘える程度の高いコミュニケーション能力を持ち、その上で一途に誰かを思い続けるような、考えられる限りのすべてを持ち合わせた生徒にのみ与えられる称号だ。
僕の姉(女子校出身)曰く、同学年に一人は存在するらしいのだが、僕の通う高校はごく普通の共学の公立校であるが故に、そんなご都合主義の塊みたいな奴は存在しない。
そう思っていた。
『学園の王子様、王位継承権1位に』
何故か文化系部活が活発な我が校の、これまた活発な新聞部による壁新聞に、でかでかと書かれている。
「飛ばし記事だと思う?」
「いや、今週は東スポーツ班じゃないから、ある程度根拠はあるんじゃね?」
「最近は、新聞部もメディアとして信頼性欠けてきてるからなあ」
「今までが傲慢すぎたんでしょ」
上級生と思わしき他の生徒たちの呟きが聞こえてくる。なんで、たかが高校の新聞部まで、信頼性が云々の話しされてんのだろうか。ほかにも、瓦版とかいう単語まで聞こえたが、きっときのせいだろう。
というか、そうじゃなく。
「王子様ってことには、誰もひっかってないなあ……」
「やあ、少年。学園の王子様は初めてかい?」
「お前はクラスメイトの元村!」
同クラスの変なやつが僕に話しかけてきた。
「説明しよう」
僕のかけているメガネを奪い取ろうとしてきたアホの手を容赦なくはたき落とす。
「ひどくないかい!?シャーペンで刺そうとしなくてもいいだろいくらなんでも!」
「人のメガネに触れようとするやつは生きる価値はないんだよ、僕のシマだと」
説明するときにメガネを、くいっとしたかっただけのアホ野郎は、腕に息を吹きかけながら話を続ける。
「学園の王子様とは、3年生の王子先輩らしいんだが」
「へー」
名前が王子なんだ。
「この王子先輩は、能力がとても高いらしくてね」
「なんの?」
「学園の教皇をかしづかせ、王権の神授さえ確立させたのが1年生の時点らしいよ」
なにが、なにって?
「この王位継承権というのも正確ではなく、もう間もなく帝政が復活するというのが王子派の奴らが流してる噂ではあるが、あながち間違いでもないそうだ」
「なんでこの学校さっきから世界史やってんのさ」
それも、中世と近世の変わり目らへんの。あんまり詳しくないからわからないけど。
「歴史は繰り返すということだね」
やかましいなこいつ。
少なくともたかが公立高校では、繰り返されねえよそういうのは。
「この学園には、学園の勇者様や学園の魔王様だっているんだし」
「初耳すぎるよ」
勇者やら魔王やらが、普通に定期テストとか受けてるのかよ。
「ちなみに、魔王はもともと学園のマドンナだったらしいんだが。勇者が何回も告白しまくった結果、割を食って魔王にジョブチェンジしたらしいんだ。おもろいね」
しょーもなさすぎる。
あと、勇者は勇者でも、勇者(笑)じゃないの、それ。
ちなみにだが。
そもそも、うちの学校の正式名称は、府立城北高等学校であって。
学園ですらない。
何やってんだ、本当に全員。