第39話 出会った子犬
<三人称視点>
「フィル、あれを見て!」
アケアが指差した方向に、傷ついている子犬を発見した。
汚れているが、白い毛並みを持っている。
フィルはすぐさま駆け寄ると、あることに気づく。
「この子、さっきまでテイムされてる!」
「くぅん」
テイムスキルの紋章が浮かび上がっていることから、ほんの少し前までテイムされていたようだ。
だが、主は見つからず、明らかに弱っている。
「この状態で放置なんて……」
「くぅん……」
フィルはテイムした魔物には、必ずありがとうと伝え、元の状態で見送る。
助けてくれたことに感謝しているからだ。
しかし、これは使い捨てのようなもの。
使えなくなったから捨てる、動かなくなったから捨てる、そんな様に扱われたように見える。
また、紋章は少し経てば消えていく。
この近くに元の主がいるのだろう。
だが、探すまでもなくその者は現れた。
「お、その犬をテイムすんのか」
「あなたは?」
「俺は冒険者でテイマーのネガトだ。一つ忠告するよ、そいつはやめとけ」
「……どうして?」
じっと見つめたフィルに、ネガトは笑って返す。
「雑魚だからだよ」
「!」
「テイムしても何も還元されねえしよ。知らねえ奴だったから試しにテイムしてみたが、全然ダメだ。何もできやしねえ」
「……だからそのまま捨てたの?」
「そういうことだ」
ネガトはバカにした笑いのまま去って行った。
「お前もテイマーなら分かるだろ。テイマーは使える奴をいかに使うかだ。不遇職なら不遇職なりに頭使わねえとな」
「……回復薬」
そんなネガトを見ながら、フィルは子犬を回復させた。
すると、子犬はフィルの太ももにほっぺをすりすりさせてくる。
「くぅん」
「ふふっ、良かったね」
「くん!」
フィルにはアケアが声をかけた。
「テイマーってああいう人もいるのかな」
「まあ間違ってはないし、悪いことをしてるわけではないからね」
「うん……」
「でも、私は違う考え方かな」
対して、フィルは子犬をなでながら答える。
「私たちテイマーは助けてもらってる方だから。せめて最低限の敬意は払いたい」
「やっぱりフィルは良いテイマーだね」
「そ、そう? ちょっと照れるかも」
使役ではなく、助けてもらっている。
フィルにはそんな考え方が根付いているようだ。
そうして、元気になった子犬は走り回る。
「くん、くぅん!」
「ぎゃうぎゃう!」
ドランにお辞儀をして、二匹は仲良くはしゃぎ始めた。
アケアとフィルは微笑ましく様子を眺める。
「ドランとも仲良しみたいだね」
「ふふっ、かわいい」
互いに惹かれ合うもの《・・・・・・・》があったのかもしれない。
するとフィルは、アケアにたずねた。
「この後はこの子も連れて行っていい?」
「もちろん! ドランも喜んでいるし!」
「ありがとっ!」
そうして、立ち上がったフィルは子犬を誘った。
「じゃあちょっと一緒に行こっか」
「くぅん!」
「そーっと、ゆっくり近づくんだよ」
「くぅん」
木陰に隠れ、フィルが子犬に伝える。
標的にしているのは虫の魔物だ。
「それ今だ!」
「くん!」
「ギイイイ!」
的確な指示を出すと、子犬はしっかりと役目を果たした。
フィルはうんうんと笑顔でうなずく。
「この子、結構すごいかも!」
「たまに片鱗を見せるっていうか、力を発揮する時があるね」
それにはアケアも同意だ。
ここまで何度か指示を出してきて、子犬は期待以上に働きを見せたのだ。
「じゃあ、あのネガトの指示が悪かったのかな」
「そうかもね。もう、こんなに出来る子なのに!」
「くぅん!」
ねー、とフィルは子犬を抱き寄せる。
フィルもすっかり気に入ったようだ。
──そんな時、アケアが目付きを変える。
「後方から魔物だ。かなりデカい」
「……!」
「ここは僕が出た方が良いかも」
今回はフィルの願いでアケアが手を出さないようにしていた。
だが、そうも言っていられない魔物のようだ。
それでも、フィルは子犬に目線を合わせて口にした。
「私たちにやらせてもらってもいい?」
「くぅん」
「二人とも……!」
フィルも子犬も覚悟を持った目だ。
「わがままかもしれないけど、危なくなったら退くから」
「くぅん」
「……わかったよ」
アケアも二人に応え、魔物を待ち構える。
すでに彼らを察知している魔物は、すぐに目の前に現れた。
「グオオオオオオ!」
「「「……!」」」
フィルと子犬の真価が試される──。




