第34話 次の目的地
「うーーーーんっと」
夜風に当たり、アケアはぐっと腕を伸ばす。
楽しいのは確かだが、褒められ慣れていないために少し疲れたようだ。
すると、茶髪ショートの少女が声をかけてくる。
「あ、あの!」
「ん?」
「あの時は助けてくれてありがとうございました!」
両手を前に包んで話しかけてきたのは、フィル。
マルムの護衛として付き従っていた冒険者だ。
アケアは作戦終了後に、彼女に渡したスライムを返してもらっている。
「アケア君が駆けつけてくれなかったら、私は今頃……」
「ううん、みんなが頑張ったから間に合ったんだよ。あと敬語はダメらしいからね」
「あ、そうだった」
それから、フィルは思い切って言葉にした。
「私、テイマーなの!」
「……!」
「不遇職だと思っていたのに、アケア君にはすごく憧れた。スライム達と力を合わせて、みんなで戦う姿に」
「大げさだってば」
謙遜をするアケアだが、フィルは首を横に振った。
「アケア君は私たちテイマーの希望だよ!」
「!」
「だからありがとう。私も頑張る!」
「……うん」
ここに来て初めての感謝のパターンだった。
アケアも不遇職だと勘当された身だからこそ、なおさら心にくるものがある。
すると、今度はアケアから提案をした。
「今度一緒に依頼受ける?」
「い、いいの!」
「もちろん。僕もテイマー仲間を見つけられて嬉しいよ」
「やった! ……あ、でも」
両手を上げて喜んだフィルだが、途端に歯切れが悪くなる。
すると、後方から一人の男がフィルへ声をかける。
「フィルさん、そろそろ時間です」
「あなたは?」
「これはアケア殿。申し遅れました、私はフォーロス領でギルド長をしておりますグラムと言います」
フォーロス領の冒険者も今作戦に参加したため、挨拶に来たようだ。
ならばと、アケアはたずねたいことがある。
「マルム・フォーロス侯爵子息はどうなりましたか」
「……分かりません。ですが、作戦に参加したフォーロス冒険者は、マルム様に“強制招集”をかけられています」
「え?」
明らかに不穏な言葉だ。
フィルが口をつぐんだのもこのせいだろう。
「詳しい話を聞いても良いですか」
そうして、アケアはフォーロス領の冒険者たちと話を進めた。
次なる目的地は決まったかもしれない。
★
「魔族を倒したのが、あのクズだと?」
暗い部屋の中、マルムはイラついていた。
魔族騒動で功績を残せなかったことに加え、伝手より今回の顛末を聞いたのだ。
その中で、“テイマーのアケア”が大活躍したという話を耳にした。
死んだとは思っていたが、ギフトも名前も同じ違う人物とは考えにくい。
「あれにそんなことができるはずねえだろ……!」
沸々と湧いてくる怒りを抑えられない。
すると、暗闇から一人の男が現れる。
「マルム・フォーロス様ですね」
「誰だてめえは!」
「私はとある者の“つなぎ”でございます。この度は一つお話があって訪れました」
「は? 出て行け!」
怒りをぶつけるマルムだが、次の言葉にはピタリと手を止めた。
「その“テイマーアケア”を超える力を手に入れられるとしたら、いかがでしょう」
「……なんだと? 続きを話せ」
「仰せのままに」
男はマルムに取り入ることに成功する。
ニヤリと一瞬覗かせた目は、赤色に輝いていた──。




