第32話 ぷにぷに全身武装(アーマー)
「変身!」
アケアを包むようにスライム達が集合する。
次に姿を見せた時には──
「ぷにぷに全身武装!」
アケアとスライム達は一体化していた。
今のアケアは、水色の一式装備を着ているみたいだ。
顔だけは見えているが、全身にスライムを纏っている。
ぷにぷにソードがスライムの剣ならば、ぷにぷに全身武装はスライムの全身装備である。
そんな姿に、グラヴィルは顔をしかめる。
「……ふざけているのか」
「いいや、大真面目!」
「そうか」
その確認さえ取れれば良い。
「ならば死ね」
「……!」
グラヴィルが構えた手から、特大の魔力が浮かび上がる。
バチバチと赤黒い火花がほとばしる魔力は、森全体を滅ぼしかねない威力を持つ。
それでも、グラヴィルは容赦なく放った。
「森ごと消え去るが良い。【極悪魔光線】」
対してアケアは──真っ直ぐ突っ込んだ。
「うおお!」
「は?」
グラヴィルは思わず目を疑う。
全てを破壊する光線を真っ向から受け、アケアはそのまま突っ切ってくるのだ。
だが、よく見ればトリックが判明する。
「バ、バカな!」
『むきむき!』
『あーーん!』
物理耐性に優れる『マッスルスライム』が衝撃を吸収。
魔力をも食べる『食いしん坊スライム』が魔力を吸収。
この二匹が盾となることで、アケアは直接光線を浴びていないようだ。
二匹を信頼しているアケアは、かわす必要すらない。
「とりゃ!」
「チィッ!」
そのまま剣で迫ったアケアに対し、グラヴィルは間一髪で回避した。
しかし、アケアのターンは終わっていない。
背中を覆うスライムが、にゅっと顔を覗かせたのだ。
『はじめまして』
「は?」
『さようなら──【神光球】」
「がはッ……!!」
光魔法を覚えた『神父スライム』だ。
魔族には光属性がよく効く。
(こんな神父がいてたまるか……!)
グラヴィルの考えも尤もだが、ここは戦場。
ズルなどは存在しない。
そうして、宙に留まったアケアは忠告した。
「油断しない方が良いよ」
「てんめえっ……!」
これが、ぷにぷに全身武装の力だ。
まず、アケア自身の強化魔法だけでは【極悪魔光線】を防げなかっただろう。
そのはずが、光線に突っ込むという前代未聞のカウンターを見せた。
また、防具のはずのスライムは、どこからでも顔を出せる。
隙があれば、アケアの全身から魔法を放てるのだ。
つまり、ぷにぷに全身武装は“攻防一体の構え”。
スライム達と一体化することで攻撃・防御は大幅に強化され、飛行をも可能にした超戦闘形態だ。
しかし、グラヴィルは納得できない。
「こんなふざけた見た目で!」
「僕は大真面目なのに!」
両者は再び激しくぶつかり合う。
「俺をナメるなあああああ!」
「……」
冒険者から見れば、グラヴィルの力も異次元だ。
体中から腕を生やし、放つ魔力は大きな破壊力を持つ。
それでも、アケア達には及ばない。
『魔力ぱくっ!』
『カッチカチだもんね!』
『魔法で中和!』
「んなっ……!?」
ぷにぷに全身武装の至る所からスライムが顔を覗かせては、次々に対処されていく。
そこで頭に血が昇り、攻撃ばかりに集中すれば、今度はアケアが牙を向く。
「甘い!」
「しまっ──ぐはっ!」
ぷにぷにソードがようやくグラヴィルを捉えた。
多くの属性が乗った剣はグラヴィルの体を斬り裂き、様々な弱体化を付与する。
加えて、アケアの背後からはスライム達が顔を出した。
『『『ニヤリ』』』
「……ッ!」
『『『七色の砲撃ーーー!』』』
「ぐああああああああああっ!」
斬撃と魔法をもろに食らい、グラヴィルは致命傷を負う。
翼がもがれたことで、徐々に高度も落としていく。
「……ぐっ」
その中で、グラヴィルは理解してしまった。
耐え難い屈辱だが、アケアは自分より上の存在であると。
ならばと、プランを変更した。
グラヴィルの目的は勝つことではない。
あくまで、強者の絶望した顔を見ることだ。
「だったら、全員死ね」
「……!」
グラヴィルは自らの胸に手を突っ込む。
すると、魔力が異常な膨張を見せる。
その行動と言動に、アケアは一早く察知した。
「シルリア! もっと離れて防御体制を!」
「ど、どうしたと言うんだ!」
「グラヴィルが自爆する!」
「……!」
死なばもろとも。
勝てないと悟ったグラヴィルは、残りの力を全て消費して自爆を計る。
最後に特大の絶望の顔を見るために。
「カッハッハッハ! 王都ごと消えてなくなれ!」
溢れんばかりの魔力だ。
これが爆発すれば、離れた王都すらも巻き込みかねない。
だが、アケアは冷静に言葉にした。
「スライム、全員出動」
「……!?」
アケアは、ぷにぷに全身武装にスライム百匹を費やした。
グラヴィルの目論見通りなら、これで全匹のはずだった。
だが、アケアのスライムはそんなものではない。
『『『いくぞー!』』』
「……ッ!」
アケアの号令で、さらにスライム達が姿を見せる。
その数にグラヴィルは戦慄した。
(この数、一体どこから……!)
答えを言うなら、最初から。
すでに連れて来ていたスライム達を、アケアは最後まで取っておいたのだ。
その数──およそ五百匹。
「みんな、一番得意な魔法を」
『『『りょー!』』』
アケアが指示を出すと、スライム達はぴょーんと跳ねて魔法を放った。
この現象は後に大きく語られることになる。
その日、エスガルド森林に満天の星空が広がったという。
王都では、避難民が森林方向を見ていた。
「見ろよあれ!」
「何が起きてるんだ……」
「すごく綺麗……」
様々な色の星が光り輝き、暗い夜を照らす。
また、セレティアもヒルナーデ邸から目撃していたようだ。
「あれは、もしかして……」
この綺麗な星々が全て“スライム”だったことは、森にいた者しか知らないだろう。
「終わりにしよう」
スライム達は、空から得意な魔法を放った。
属性や特性、何十種類にもなる多様な色は、綺麗な星空のように見えた。
その魔法は、全てアケアの拳に集まる。
「ま、まさか!」
「その通りだよ」
自爆が抑えられないなら、被害が出ないところまでぶっ飛ばすしかない。
グラヴィルが爆発する寸前、アケアは下から拳を振り上げた。
「空の彼方まで飛んでいけ」
「く、くそがっ……!」
拳からは、スライム達の魔法の結晶が放たれた。
「──【満天の星空】」
「ぐわあああああああっ!」
キラキラとした多色の光に導かれ、グラヴィルは上空へと上がっていく。
やがて姿が見えなくなったところで、爆発音が聞こえてくる。
すると、アケアの魔法も広がり、夜空は一層明るくなっていた。
「特大の星だね」
こうして、空の塵になったグラヴィルは、王都の人々に綺麗な一幕を見せてくれたのだった──。




