第21話 森の異変
『アケア、あれだよ!』
念話があったスライムの元へ着くと、言う通りに異様な魔物がいた。
シルリアも目を凝らした。
「グルルルゥ……」
「あれは『ボアウルフ』か。だが、確かに様子がおかしいな」
Dランク魔物のボアウルフは、黒いオーラのようなものを帯びている。
黒いオーラはボアウルフ特有のものではないらしい。
また、アケアも違和感を付け足す。
「あれがDランク? もっと強そうじゃ……」
「ああ、同感だ」
Dランクにしては、放つ存在感が明らかに違う。
これが本当ならば、噂は真実だったことになる。
「ならば、ワタシが直接確かめよう」
「分かった。気を付けて」
エスガルド森林の魔物に関しては、シルリアの方が詳しいだろう。
強くなっているとは言え、シルリアが負けるとも思えなかったため、アケアは見守ることにする。
「はあッ!」
「グオッ!」
シルリアは得意の速さを生かして翻弄する。
その中で、噂は確信に変わった。
(ボアウルフがこの動き! 噂はやはり真実だったか)
何十匹と斬ってきたボアウルフより、断然強い。
確信を得た所で難なく倒すが、シルリアは警戒を強めた。
「ボアウルフがこんなに強いはずがない。体感ではBランク相当だぞ」
「二段階も上がっているなんて……」
「森で何が起こっていると言うのだ」
魔物のランクは、冒険者ランクに相当する。
Aランク冒険者ならば、一人でAランク魔物に匹敵するのだ。
だが、この異変で本来のランクから二段階上がっているとすれば、緊急事態というべきだろう。
「これは一度帰るべきだな。ではアケア──」
「……! いや、待って!」
だが、アケアはとっさに念話をキャッチした。
それも多方面から。
『アケア! こっちから黒い魔物ー!』
『ぼくのところにも!』
『アケアのところに向かってるー!』
「……!」
まるで仕組んだかのようなタイミングだ。
アケアは事態をすぐにシルリアに報告する。
「シルリア、色んな方向から大量の魔物がこちらに向かっているみたいだ! 今と同じ黒いオーラを持った魔物たちが!」
「なんだと!? 突然か!?」
「うん! まだ2キロぐらいはあるけど!」
まだ距離は離れている。
だが、多方面から来ているのが問題だった。
「逃げ道も、防がれただと……?」
確証はないが、黒いオーラ持ちの魔物は格段に強くなる。
森には元々A~Bランクの魔物も棲んでいるのだ。
それらが黒いオーラを持つと、その強さは考えたくもない。
「これはまずいぞ……」
「うん。ちょっと準備が必要かもしれない」
「ア、アケア?」
だが、アケアは緊迫した様子はない。
むしろ落ち着いて行動に移していた。
「ごめんシルリア。実は隠していたことがあったんだ」
「このタイミングで?」
「だからだよ。みんな出てきて」
アケアが指を鳴らすと、すーっと周りに姿が浮かび上がる。
透過を解除したスライム達だ。
「ずっと周りにいたんだけど、今回はそうも言ってられないみたいだ」
「なっ! なんだこの数は……!?」
アケアは周辺警戒に十匹のスライムを使っていた。
それでも腰を抜かすほど驚いたシルリアだが、そんなレベルではない。
アケアの周りには、五十匹のスライムが姿を見せたのだ。
『『『ぷは! 隠れるの大変だったー!』』』
いざという時に備え、スライムは息を潜めていたのだ。
Aランクのシルリアからも隠れているのは、大変だっただろう。
「逃げられないなら仕方ない」
「アケア、キミはまさか……!」
「うん」
両手に様々な属性を灯らせて、アケアはスライム達に振り返る。
「さあ、迎え撃とう」
『『『おー!』』』
それに応えるよう、スライム達も小っちゃな右手を上げるのだった。




