第17話 冒険者ギルドにて
「ここかあ」
横に長い木造の建物を見上げて、僕はつぶやいた。
目の前にあるのは──冒険者ギルド。
冒険者が日々依頼を受けたり、情報交換をする場所だそうだ。
「ちょっと緊張する……」
セレティアと王都を巡ってから、数日。
一度、森の拠点の様子を見に帰ってから、この王都に戻ってきた。
セレティアに勧められた“冒険者”になるためだ。
ちなみに、拠点は相変わらずだった。
長老スライムさんを中心に、『働かざる者お肉食べられない』の信念の元、わいわいと生活をしていた。
みんなが頼もしいと、僕も気兼ねなく王都で活動することができる。
「よし、行こう」
そうして、覚悟を決めて木の扉を開けた。
「こ、こんにちは──」
「「「わっはっはっは!」」」
中はすごく賑やかで、僕の声は簡単にかき消されてしまう。
酒場も併設されているからかな。
そろーりと受付に向かっていると、ちょいちょい声をかけられた。
「お、見ない顔だな」
「新人くんかい」
「頑張れよ~若人!」
顔や体格はちょっぴり怖いけど、みんな良い人たちみたいだ。
冒険者同士の仲間意識なのかもしれない。
「あ、ありがとうございます~」
励ます声をそれなりにもらいながら、受付嬢さんの元へたどり着く。
「初めましての方ですかね。本日はどうされましたか」
「あの、セレティア・ヒルナーデ公爵令嬢からお話が来ていると思うんですが……」
「「「……!?」」」
その瞬間、周囲がざわっとした気がした。
騒がしかった酒場の声はいつの間にか止み、コソコソと声が聞こえる。
「おい、あれが噂の……」
「あの年でセレティア様の推薦を?」
「直々の推薦なんて聞いたことねえぞ」
「実はすげえ力を持ってんのか?」
会話の内容までは聞き取れない。
なんとなく僕のことを話しているような気もするけど。
また、受付嬢さんも途端に顔色を変える。
「では、あなたがアケアさんでしょうか!」
「はい……」
「少々お待ちを! 急いでお取り次ぎいたします!」
そのまま慌てた様子で奥へと行ってしまった。
こうなると、急に静まった周りが気になってしまう。
「……っ」
あえて振り返りはしないけど、なんとなく視線を感じる。
僕の代わりに、肩で透過しているスライムくんが確認してくれた。
『みんなアケアのこと見てるよー?』
(だ、だよね……なんでだろう)
『さあー。でも悪い感じじゃなさそー』
スライムはこう見えて意外と鋭い。
何気なく人の確信を突くというか。
この子がそう言ってくれるなら大丈夫かな。
そうして気まずくしていると、受付嬢さんが帰ってきた。
「お、お待たせいたしました! 本日は冒険者ライセンスの発行でよろしかったですか!」
「はい、お願いします」
「でしたら──」
「続きはワタシから説明しよう」
すると途中で、受付嬢さんの後ろから来た人が口を挟んだ。
「ワタシはシルリアだ」
「は、初めまして、アケアです」
シルリアさんが出してきた手に、僕も握手で応える。
騎士のような装備。
後ろでまとめた紫色の長い髪。
僕より少し高い彼女は、同年代ぐらいに見えるけど、すごくしっかりしてそうな人だ。
「ワタシはギルドから認められた“公認冒険者”だ。まあ、公務員のような冒険者だと思ってもらえれば良い」
「はあ」
公務員も分からなかったけど、とりあえず続きを聞いた。
「ライセンス発行には“予備試験”と“本試験”を受ける必要がある。面倒だが、これも志願者を守るためだ」
「なるほど」
「ということで、まずは予備試験を受けてもらう。これに合格すれば本試験へと進めよう」
冒険者は八歳以上なら誰でも志願できる。
でも危ない職業でもあるため、二段階で実力を計ってから認めるみたいだ。
「予備試験では本試験に行かせても良いか、剣や魔法の習熟度を計る。魔法を得意とする場合は、的当てなどをさせるのだ……本来はな」
「え?」
だけど、シルリアはニヤリと口角を上げた。
ちょっと嫌な予感がする。
「だが、アケアはセレティア様の推薦だ。そんなもの必要なかろう」
「あの?」
「予備試験はワタシと模擬戦をしろ。それで判断してやる」
「ええっ!?」
こうして、急に公認冒険者シルリアとの模擬戦が決まった。