第13話 エリン様の治療
「こちらが私のお母様──エリン・ヒルナーデです」
セレティアに案内され、僕はエリン様の部屋にお邪魔する。
でも、その顔を見た途端に、少し息を呑んでしまった。
「これは……」
仰向けのまま見える顔は、かなり痩せ細っている。
腕なども見る限り、体全体が衰弱しているみたいだ。
呼吸は安定しているけど、放っておくのが心配というのはよく分かる。
実際、このままでは危ないだろう。
「少し触れさせていただいてもよろしいですか」
「はい、構いません」
僕はエリン様の首に手を触れた。
同時に発動させるのは、【スライム念話】と【知覚共有】だ。
念話先は、長老スライムさん。
(何か分かる?)
『これは……“呪い”じゃな』
(やっぱりそうだよね)
呪いとは、ステータス異常の一種だ。
それもかなり珍しい。
また、治癒魔法にも種類があり、異常に応じて変える必要がある。
適していなければ治すことはできないんだ。
つまり、呪いを治す治癒魔法を持っていなかったんだろう。
どんな人に頼んでも無理だった、というのもうなずける。
そうして少しの念話の後、僕は報告をした。
「どうやらこれは、“呪い”のようです」
「呪いですか!?」
「かけられた経緯は分かりませんが、体が徐々に衰弱しています」
「なんと……」
ドレイク様は頭を抱えながらも、僕にたずねてくる。
「してアケア様、治し方はあるのでしょうか」
「あります」
「それはどのように!?」
必死なドレイク様に、僕も全て答えていく。
「『極活性草』と『解呪の花』というのがあります。これらを用いればおそらく治せるかと」
「そ、それは一体どこに生えているのでしょうか!」
「魔境の森の中央辺りです」
「ちゅ、中央……そう、ですか……」
魔境の森は、奥へ行くほど難易度が高くなる。
セレティア達は序盤で苦戦していたので、取りに行くのは難しいかもしれない。
苦しそうな顔をしながらも、ドレイク様に頭を下げられる。
「貴重な情報をありがとうございます。なんとか我々だけで採りに──」
「いえ、それには及びません」
「……?」
でも、その必要はない。
僕は肩に乗っていたスライムに念話をした。
「取り出せる?」
『あるよー! はい!』
すると、スライムがあーんと口から二つの植物を取り出す。
「「「んなっ……!?」」」
周りは声を上げて驚いた。
【スライム収納】を見せるのは初めてか。
だけど、実際に出てきた植物の方が気になったみたいだ。
「アケア様、それは一体!?」
対して、僕は笑顔で答える。
「これが『極活性草』と『解呪の花』です」
「「「えええ!?」」」
この二つが必要なのを知っていたのは、僕が持っていたからだ。
でも実は、もう一つ工程を挟まなければならない。
「頼める?」
『もっちろんー!』
手で重ねた植物の上に、スライムが『♪』と可愛げに乗ってくる。
発動させたのは【スライム合成】だ。
「この二つを合わせてっと!」
「え、あの……?」
魔境の森には、様々なステータス異常を付与してくる魔物がいる。
中には、適した治癒魔法を持っていない場合も多々あるわけだ。
そんな時は、この二つを合わせたオリジナルの薬草『完全治癒薬』を使っている。
これで治せなかったステータス異常は無い。
「できました。この薬を飲ませますが、よろしいですか」
「は、はい! もうなんとでも!」
サラサラの粉状になった『完全治癒薬』を飲ませる。
すると、エリン様がゆっくりと目を開いた。
「……あれ、私は何を」
「「「……!?」」」
おそらく久しぶりに目を覚ましたんだろう。
その姿に、周囲が一斉に駆け寄る。
中でもセレティアは真っ先に飛びついた。
「お母様ー!」
「あらあら、心配をかけたみたいね」
エリン様も衰弱していること自体は分かっていたみたいだ。
親子で喜び合う中、僕は後ろからドレイク様に声をかけられる。
「アケア様! なんとお礼をすれば良いか! 本当に、本当にありがとうございます!」
「いえいえ、そんな大したことは。それに──」
僕はセレティアの方をチラリと見た。
「セレティアとも約束をしましたから」
「そうですか! この借りは何としてでもお返しいたします! 命に代えても!」
「お、大げさですって」
それから、威厳を保っていたドレイク様が慌ただしく動く。
エリン様の元へ行ったり、僕にまた頭を下げてきたり。
よっぽどエリン様が心配だったんだろう。
容姿に似合わないそんな姿が、少し微笑ましく思ってしまった。
そうして、ようやく落ち着いたドレイク様にたずねられた。
「ところで、アケア様はどのようなギフトをお持ちで?」
「僕ですか?」
恐る恐る様子をうかがうような聞き方だ。
でも、僕はこうとしか答えようがない。
「ただのテイマーですが……」
「「「……」」」
その回答に対しては、またも大声で言われてしまった。
「「「なわけあるかーーーーーーー!」」」
「え?」
しかも、エリン様も交えてだ。
元気になられたのなら僕も嬉しい。
ただ、一つ言っておかなければならないことがある。
「エリン様、少しよろしいですか」
「なんでしょうか」
「実はですね──」
「え……!」
この一件は、まだ裏がありそうだ。