第10話 アケアの決意
「この辺なら安全そうです」
セレティア一行を開けた場所へ案内し、アケアは腰を下ろす。
あれ以降、アケアが進む道には魔物が出なかったようだ。
その索敵能力に、騎士レイルも驚きを隠せない。
「本当にスライムに監視をさせているのだな……」
「はい。僕たちの少し先を警戒してくれています」
「五匹同時にテイムとは。本当に規格外なのだな」
「あ、あはは……」
だが、アケアのテイム数は5ということになっていた。
助けた時、見えていたのがちょうどそれだけだったからだ。
それ以外にも何十匹と周りにいるが、一応隠したままにしておいた。
(本当は1000匹近くとは言わない方が良さそうだな……)
また、アケアは周りのスライムに絶えず念話を送っているが、スライム達はセレティア一行に興味津々のようだ。
『人間さんだー』
『初めてみたー』
『アケアと似てるねー』
『ゴツゴツの服はなんだろー』
『真ん中の人きれいー』
『えらい人なのかなー』
(お願いだから静かにしててー!)
裏で少々困りながらも、アケアは話を聞くことにした。
「それで、皆さんはどうしてこの森へ?」
「私から説明します」
すると、すっと立ち上がったセレティアは、スカートの両裾を少し持ち上げる。
まるで高位貴族のような洗練された所作だ。
「まずは、申し遅れたことをお詫びいたします。わたしの名はセレティア・ヒルナーデ。隣国エスガルドの、ヒルナーデ公爵家令嬢でございます」
「セレティアさんか~、よろしく……って!?」
だが、アケアの姿勢はすぐに土下座へ変わった。
「も、ももも、申し訳ございません! まさか公爵家の方だったとは知らず、とんだ無礼を──」
「おやめくださいアケア様! 救ってもらったのは私たちの方です!」
「で、ですが!」
恐る恐る顔を上げるアケアに、セレティアは懇願するよう声をかける。
「とにかく、かしこまられる方が困ります! アケア様は同じように接していただきたいのです!」
「……っ! そ、そうですか」
ぐっと顔を迫られ、手を取られたアケアの頬は少し赤みを帯びる。
それにハッとしたセレティアも、恥ずかし気に視線を逸らした。
なんとも微笑ましい空間になってしまった。
「こ、こほん」
「「はっ!」」
堪らずレイルが咳払いをし、話を続けることに。
「で、では改めて。どうしてセレティアのような方がこんな場所へ?」
「それはですね……」
対して、セレティアは深刻な表情で答えた。
「私の母が、未知の病なのです」
「未知の病?」
「宮廷魔術師に、宮廷治癒士、有名な錬金術師もあたりました。ですが、いずれの方も原因が分からないとおっしゃって……」
セレティアの表情は、事態の深刻さを訴えている。
「すぐに死ぬことはなさそうなのですが、ずっと体調が優れなく……」
「それで最後の砦として森へ来たと?」
「はい。魔境の森は“未開の地”。もしかしたら、我々が知らない回復草などもあるのではないかと」
「なるほど……」
どうやらかなり追い詰められて、ここへ来たみたいだ。
「じゃあ、少し待ってて」
「は、はい……?」
すると、アケアは一行から距離を取る。
一番の物知りである長老スライムさんに念話を飛ばした。
「聞こえる?」
『うむ。話も聞いておったぞ』
「さすがだね。それでどう思う?」
『そうじゃのう。容態を見てみんことには分からんが……アケアはすでに“協力したい”と思っておるんじゃろう?』
長老スライムには、アケアの気持ちはお見通しだ。
「うん。でも、少しの間拠点を離れることになるよ」
『そんなもの良いわい。スライム達はわしが指示を出す。近辺の主を倒したことで、しばらく厄介事もないじゃろう』
気まぐれではあったが、近辺の主を倒していたことは良い様に働いた。
また、スライム達へは遠くからでも強化を付与できる。
長老スライムが指示をするなら、残るスライムも安心だろう。
『それに、いざとなればあれもあるじゃろう』
「そうだね! じゃあ、残るスライム達をお願いね」
『うむ。向こうに着いたら、また念話を飛ばすが良いぞ』
「ありがとう!」
話がまとまったところで、アケアは一行に戻る。
「セレティア、良かったら僕を連れて行ってくれないかな」
「アケア様をですか!?」
「もしかしたら、何か助けられることがあるかも」
「……!」
アケアの答えが予想外だったのか、セレティアは周りと確認を取る。
それでも、全員が肯定的な表情をしていた。
まさにテイマーにもすがる思いなのだろう。
「本当に心強いです! よろしくお願いいたします!」
「じゃあ、もう暗いから明日の朝一に戻ろう。森の出口までは案内するよ」
「はい!」
こうして、僕は隣国のエスガルドへ行くことを決意したのだった。