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エウドラ ( 217 Eudora )   作者: まるペコ
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第5話 さすがにエウドラも

 さすがのエウドラもお疲れモードらしく、今一つ不機嫌に見えた。

 「ここまでおりるのけっこうたいへんだったね」

 「大変もなにもこれからが本番。 面倒がほらそこにたってる。 話しをつける。 ラナイは今から口を閉じて、よいと言うまで開けるの禁止」


 大崖斜面のふもとの登りゲートから森の道へ通じる細ながい半広場の両脇には、店の構えが明るさを残す空を背景に黒々と影絵のように続いていた。 あかりが扉や窓からもれる数軒の営業中の酒場からは、のみ騒ぐにぎわいがきこえていた。 そう言う店では階上で泊まりにもありつけそう。 今夜はこの集落で、ここでまともな温かい食事で空き腹を満たせて、ベッドで眠れるのを期待したのに、どうやらいらないジャマーが現れたようだ。 エウドラの不機嫌が僕にうつってもよいよね。





「姫様、お待ちしておりました。 今回の無軌道はここで終わりになさいませ」

「・・・ん、毎回の出迎え、大義である、が不要ぞというに」


「また、そのようなお姿をなされて、私、泣いてしまいますわ」

 たちはだかる大きな車影を後ろに、よく見えないひと影が、よよよと顔をうつむかせた。


 エウドラが姫様だと?、それになんだ、なんだ、なんだ、この茶番は。

 そのときエウドラのしゃがれ声が急に深みのある澄んだアルトに一変した。


「サテラ、その泣き芸はあきた」

「なら、さっさとそこをおおりなさいませ」

「サテラ、今回は横に客人がいるの」

「今回も面倒でございますわね」

「そう、それはもう、今回も面倒、それも特別に特別に特別」


 えっ、僕って、面倒、僕が特別多乗の面倒なの?

 なんでと、すぐ横にすわるエウドラの方を見て驚いた。

 誰、これ、うす暗くてもわかる、すんごい美少女のオーラ。

 背の高い、しわくちゃ魔女どこ行った。


 これってもしかして定番だよね、もしかしなくても定番だよね。 そんな異世界転移、転生で定番的、お約束の存在が僕に抱きついてきた。


 なんと、僕ははじめもはじめから、魔女女子にだまされていたのか・・・ 

 僕としたことが、そのまま仰天を越えてかたまってしまった。


(わらわ)は、この男の子、ラナイと一夜、同衾どうきんした」


 爆弾発言するんじゃねえ。

 瞬時、にぶい僕にも強殺ごうさつの目がささるのがわかった。


「落ち着くサテラ、まだ手を出してない」

 

 えっ、抱き枕にされただけと思ったけど、誤訳でなければ、手を出す気があったのか、あの婆姿のままで、6歳児に。 きつい冗談だ。


「やっぱり、もう泣いていいですか、姫様」

「だめ、ラナイとは茂みでSりだし、Sりみせあった仲、おしもの世話もしたけどいやじゃなかった。 妾はラナイを離さない、それが絶対条件」


 あっ、これはだめの特大パターンのやつだ、僕を見る極寒、絶対零度の目を感じた。 僕は座っていても頭半分以上背が高いエウドラの腕の囲いの中で震えているしかなかった。 うすい胸、でもそこではそこはかとなく、ほんのすこし春がほころびかけていて、僕は幼気いたいけな子供だから、これはセーフ、セーフなはずだ・・・


 エウドラとサテラとやらの間で無言の応酬おうしゅうが続いた。 本気の応酬が続いた。

 こわい、怖い、すごく怖い。 同じ魔法有りでも崖道の半脱輪と違ってこれはお遊びとは思えなかった。


 あたり一面さーっと白く霜がおりた。 ぱりぱりぱりと音をたてて地面に霜柱が浮き立っていった。 とんでもない冷気、いや極寒気だった。 酒場の喧噪もいつの間にやら途絶え、無言で遠巻きする人垣が厚くなるいっぽうだった。

 そしてサテラの方が折れたようだった。

 深いため息ひとつ、それから、今さらながらみごとなカーテシ―を決めてみせ、人垣をみまわして口上を述べた。


「こほん。 これなるは、星統ステラアステロイテア・コムプレックサスが星姫せいひ、エウドーラーさまが筆頭侍女爵、サテラ・BRNN・群フローラである。 星姫殿下の御前である、みなのもの頭が高い、ひかえおれー」

「こほん、サテラ、これこれ、寒気かんきをゆるめぬか、膝をつくにも凍えかねぬ。 かぶき姫の民の評はかまわぬし、民に勘気(かんき)をあてるでないぞ」


 これは様式美か、定番の茶番、駄洒落だじゃれもありだし演技に違いない。

 こいつら、わかっててやってる。 民草へのサービスに違いない。

 絶好の話しのたねに、ほら、みな大喜びで、膝をついてる。


 そして、エウドラは僕をしっかりとかかえ、器用に魔道具の背嚢をひっさげながら、これぞリムジンとしかいいようのない仕様の箱形大型車に乗り換えた。 全く逃げるすきも与えてくれなかった。 


 面倒な事態だった。 僕にとってこそそれこそ面倒な事態だった。 高い地位ほどいろいろ面倒、束縛も危険も多い。 賄賂が効くくらいなら、なおさらだ。 何も知らない僕がいきなりエウドラの連れ合いって、連れ合いが何かがまた問題だが、どう考えても位討くらいうちのブラックな未来しか思い浮かばなかった。


「ラナイは魔潟の落とし子・・・これは探していた運命との出会い、サテラ、それでわかって」

「こんな子供がですか、またまた、おたわむれを」

「本物。 魔潟で拾った。 魔打ちぎわより向こう側で素裸で眠ってた」

「姫様、そんな恐ろしいところまで侵犯なされましたのですか」

「侵犯とちがう、そこはまだ接続領域。 それに妾のすべてと引き替えしてでも手中におく」

「反対です。 拙速せっそくで危う過ぎます。 そのご決断には納得できません」

「ラナイのまもりは妾がする、約束する。 サテラはそう、秘する、秘するに徹して、避けがたい面倒を遅らせる。 サテラにはそうするよう命じる。 それでラナイもいいね・・・おおそう、忘れるところ、ラナイ、口を開くがよい」


 それで僕は言ってやった。

「サテラおねえちゃん、おなかすいた、おのどがかわいた、エウドラおねえちゃん、おしっこ」


 その宵はそのまま箱形リムジンに備えのものですまし、無人の荷四輪を牽引して、エウドラのホームへの夜行直行となった。 リムジンの乗り心地は、舗装されてない路面のことを考えると、記憶のエアサスを越えているかもしれない。 エウドラの強制膝枕で夢に落ちるのになんの支障もなかった。



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