第15話 まだ生きてる、ぜったい
締めの大難事、謁見をやりすごせた。けれど限界を越えた。 護衛士アラトスに背負われたところで張りつめた緊張の糸がきれた。 からだの不具合は、過労の積み重ねが決壊するよりはるかに重篤だった。
異世界という尋常ならざるストレスに抗っていた交感神経系が過負荷の連続に不可逆的障害を被る寸前、僕のブレーカーが落ちた。
記憶の知識がささやく。
脳セロトニン枯渇、糖代謝異常、乳酸蓄積、活性酸素による神経接合部電子的惑乱・・・重度微小血管障害・・・異世界抗原血管外漏出・・・免疫系異常亢進、インターフェロン生成暴走、炎症性サイトカイン生成暴走・・・全身重度微小血管障害の重篤化とそのさらなる悪化・・・
ここでは普通にあふれているものも、異世界人の僕のからだには未知の抗原物質だった。 それが完全に未知でなくて、類似の分子構造があったことが、免疫暴走のスターターとなった。
飲み食いや呼吸、皮膚から止めなく侵入するそれらもろもろ、からだの中に侵入したものを、免疫細胞であるマクロファージが貪食してはじまる生体反応、貪食細胞ーT 細胞胞ー肥満細胞の免疫カスケードの異常な亢進を阻むものはなかった。
致死的免疫暴走。
それを押しとどめていた免疫の抑制機序は、異世界抗原の圧倒的
過剰の持続ですりきれきってしまった。
異世界転移の極めて高ストレスな状況下におかれたことの交感神経系の興奮で、表向きにはなんとかもちこたえていた。
けれど交感神経系の限界超えた時、いっきょに即時的に致死レベルに悪化。
全身燃えるような火照りと皮膚の極度の紅潮の数分は、すぐに大量の発汗と急速な体温下降に移行した。 粘膜も気道の粘膜が急性浮腫で内腔を狭めて呼吸障害、閉塞性換気障害の窒息が進行。
血圧をはじめとして生命サインはみるまに低下、重度ショック状態。 僕のからだは命の恒常性を失いつつあった。
背負う僕の尋常でない異常に気づいたアラトスがエウドラを呼ぶ声が遠くなっていった。
昏迷に向かう脳で誰かが何かを叫ぶ遠い声を聞いた気がした。
『解呪に反応がありません。呪架のたぐいではなさそうです』
『サテラ、先行して蘇生の霊薬浴の手配を急いで』
『まさかそんな残り極まる希少品を、よろしいのですか』
『いまがそれをつかうとき』
からだの五感が落ちていき、僕は暗闇の中に沈んでいった。 知覚に入力ない状態で意識を保てるのは・・・夢、そして夢の砦で、僕は思考で、なおも自分の継続にしがみついていた。
異世界から僕は排除されつつある。異世界からの来訪者という異物を排除するこの世界なりの免疫の仕組みがあったわけだ。 残念なことに僕を6歳に造りかえた魔族もそのあたりの免疫の知識を欠いていた?
今の状況の元凶に心当たりはあった。
”色とりどりな微細粒が軟弱な僕の歯をガリッと言わせようと渦巻いて”
それが、皆にはなんのことかわからなかったのは、皆には空気と同じだったから。 そして異世界人の僕には異世界の異物だったから。 それはそれら微細粒に限ったことではないだろう。
僕のように地球人類がこの世界に転移したのは、前例なきことだろうか。
魔潟とその彼方に転移すれば1時間と命を保てない。 魔潟よりこちら側に転移しても、免疫暴走でほんの数日しか生き延びられないなら、どちら側に転移しようが、生存できる時間が短すぎて、記録や歴史に痕跡を残らない。 僕のようにエウドラと出会い、最高権力者と謁見するなぞ、もしかしてこの世界に墜ちるに以上に確率的に希に違いない。
僕の心臓は鼓動の終わりを告げる痙攣、いよいよ最後の心室粗動の数十秒間には入るころだ。
心拍出量急速低下ゼロレベル。 脳への血流もゼロレベル。
僕の思考の明晰のなけなしが押し寄せる混迷に呑み込まれた。
こんどこそ終わりオワリ。
良くもワルくも最後のサイゴまでボケないらしい、ぼくノかけいのDNAノげんかいは、ワきたつ無のワダツミにタイジシテイタ・・・。
・・・タイジシテイタ・・・?
・・・タイジ・・・?
・・・タイ?
・・・?
?・・
・・・?
・・・・?
タイテシジイタ・・・?
・・・いならわお、?
・・・いなら終、が峙対
?転反てしとっよひ
?るいてっまどと、で転反
!声逆考思
け着ち落・・・やい・・・
・・・いや、落ち着け?・・・これでいい?・・・ようだ
・・・今も明晰夢っぽいものの中にある・・・まだ生きてる、ぜったい