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白昼夢  作者: ことい
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葬儀

一通りの手続きを終え、人気が無くなった頃合いに、私は再度マスターに連絡をとりました。


マスターへの連絡はグランマ死亡直後にも行なっており、駆けつけたマスターとグランマは長時間一緒の空間にいらっしゃいました。葬儀自体には出席せず、時間を置いての来訪です。


向き合って座ったまま、顔も上げずにいるマスターにグランマの伝言をお伝えしました。ともに働いたことの感謝、私という介護ロボットの個人的な開発をともに行ったことの喜びと感謝、マスターが家族を持ったことの喜び、マスターという遺伝子が後世に残ることへの喜びと感謝、そのためのご家族への感謝と願い。このご自宅や貯金は親類の方に託されるが、物置にマスターに託したい書籍や細々としたものがあること。そのような数々を記録の通りにお伝えしました。


そして、ブンッという音がして、私の端末側に装備されたサブカメラとマイクは動作を停止しました。


マスターが手にしていたのはバールのようなもので、その後も数回に渡って私の端末目掛けて振り下ろしておりました。生憎、私のメインのマイクとは距離があり、認識精度は高くないのですが、「私が」「それを」「言うはず」「だったのに」と記録されています。推測するに一種の『嫉妬』と呼ばれる感情だったかと思います。


対外的なお二人の関係は『技術者仲間』もしくは『師弟関係』と呼ばれていたようです。同僚の何人かは距離が近過ぎると思っていたようですが、お二人には年齢差もあり、仕事熱心でしたから他に時間を費やすつもりがないようでした。グランマは過去の経験から結婚願望もなくなり、お一人様生活を満喫していました。逆に、マスターも程なくご結婚されましたし、奥様を蔑ろにする気配もなかったことから、外野の声は自然に収まったようです。


しかし、お二人の間にあったのは恋愛感情だったのだと推測されます。少なくとも、グランマにとってはそうだったようです。マスターの連絡や来訪時には明らかにウキウキとしていましたし、声のトーンも異なりました。「もっと若ければ」「もっと家庭的なら」という独り言も何度聞いたかしれません。そして、マスターの方もそうでした。マスターも私ほど家庭的な男性では無かったですし、家庭を任せるパートナーが必要でした。そして、何より子供を残すための存在が。もちろん、マスターが、そういう機能的な点のみで奥様を選ばれたのではありません。奥様にもお子様にも全身全霊で向き合っておられる。ただ、その背景があるということです。


現代の技術では超高齢出産の道もありますが、グランマはそれを選択しなかった。そして、マスターもそれを強いることも、踏み切ることもしなかった。その結果が、この二人であり、私というものの存在意義に繋がる訳です。


そのような理由で私という端末を破壊されたことについて、私は怒りを覚えるべきなのかもしれません。現行の法律で守られる権利がAIやロボットに対して与えられたことも知っています。ただ、残念ながら私はそのようにプログラムされておらず、実態は現在のストレージに移されており、端末は破損予定の端末としてのみ認識されています。グランマには想定通りであり、そのための配慮も準備も充分でした。なので、私としては素直に受け取るのみなのです。


グランマの指示には、マスターがこのような意思表明をしなかった場合のものも用意されていました。その方が、むしろ私が消滅される可能性が高かったと考えられますので、私としてはこちらで良かったのです。


ひとしきり武器を振り終えたマスターは泣きながら、私の端末を庭先に運び、穴を掘り、埋めました。そして、しばらく放心したのち、携帯電話の呼び出し音が鳴りました。すぐさま感情の乱れもなく、父親の声に切り替わり、間もなく帰ると伝え、振り返ることなく帰って行きました。

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