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牢獄からの脱出

いよいよ物語はラストに向けて動き出します。

 しばし休息を味わっているとドアが開き、男が姿を見せた。

「さあ、メシの時間だ。ここでの唯一の楽しみだ」

 そんな時間か。言われてみればお腹が空いたように思える。男の手にはトレーがあり、

なにやら判然としない料理が載っていた。あれではあまり食欲が出そうにない。

「これでもだいぶましになったんだ。最初はそりゃひどかったもんさ。それでも食わない

ことには生き延びることができない」

 男がしゃべっている間にアメリアの前にもトレーが現れた。同じ献立だ。男はアメリア

と差し向かいに腰を下ろした。

「どうだった、感想は」

 男は食事を頬張りながら訊いてきた。

「疲れたわね。一体何の為にこんなことやらされるのかしら」

「わからん。俺も色々考えてみたが答えは出ない」

「そっちも仕事内容は同じ? 私は荷物運びとパソコンへの入力作業」

 男は意外なことを聞いたといった顔をした。

「こっちは肉体労働一本やりだ。そっちがうらやましいよ」

「一度経験すればそんな口はきけなくなるわよ。大変なんだから」

「そうなのか。にしても俺とお前で作業内容が違うということは、向こうは俺たちの性差

の違いを認識していることになる。うーん、これは何かのヒントになる」

 男はあごに手を当てて考え込んだ。アメリアはその話題に深い関心を抱けなかったので、

もっぱら料理を口に運ぶことに専心した。

 ふと時間が気になったので、手首の携帯端末を見た。そして驚きの声をあげた。

「時計が止まってる……」

「ああ、そのことか。言い忘れてたな。ここでは時計が役に立たないんだ。時計に限らず

機器類は全て使い物にならん。理由は分からん。しかしそのせいで何時間働いたのか分か

らんから精神的に結構応える」

 男はげんなりした様子で言った。そのときまたサイレンが鳴った。

「これは就寝の合図だ。どうやら夜になったということらしい。言っとくが部屋は暗くな

らないぞ。すぐには眠れ無いだろうが体を休めておくことだ。でないと翌日がしんどくな

る」

 男はトレーを持って立ち上がった。そのまま部屋を出ようとしたがドアのところでくる

りと振り向き「安心しろ。夜はドアに鍵がかかる。行き来はできん」と言って部屋を出た。

 アメリアは食事を終えるとベッドに横になった。もちろん眠くはない。それでも目を閉

じると今日経験した出来事がまざまざと思い返された。色々あった。こんな訳の分からな

い場所で一体何をしているのだろう。船での軍務の日々が遠い夢のように思われる。そん

なことを考えているうちアメリアは眠りに落ちていった。

 サイレンの音に眠りを破られ、アメリアは目覚めた。起き上がると床の一部がせり上が

り、なにやらどぎつい色をした液体の入ったコップが出てきた。食欲をなくすような代物

だが、アメリアは我慢して飲んだ。

 目覚めたときにふっと心中に湧いた思いをアメリアは反芻した。つまりここは収容所な

のだ。だからあんな苦役が課されるのだ。そうだとして自分の為すべきことは。ここを脱

出することだ。そのための手がかりはなにか。

 アメリアは昨日の出来事を思い返していた。突き詰めて考えてみるとこの壁と床は物体

を出したり引っ込めたりする機能があるということだ。それらはどこから来てどこへ帰っ

ていくのか。この部屋の外に別の空間があるのではないか。

 それを確かめなければならない。さてどうやって。そこまで考えたところでいきなりサ

イレンが鳴り、昨日と同じように箱が姿を現した。

 アメリアは虚をつかれた。朝食はあの飲み物だけなのか。アメリアは空腹を我慢しなが

ら作業を開始した。

 

 アメリアは何度も箱の動きを観察し、確証を得るに至った。やはりあの箱が消える壁を

通してしか脱出する道筋は無いと。だがあの向こうはどうなっているのか。そこまではわ

からなかった。

 そのまま時が過ぎ、昼食の時間になったところで男に訊いてみた。

「それは俺も考えた。それで試してみたがとても無理だ。あそこはとても抜けられん」

「どうだったの」

「あそこに入ると全身に激しい痛みが襲いかかる。我慢してみたがとうとう音をあげたよ」

 男の話を聞いてもアメリアは怯まなかった。意を決するとチャンスをうかがうことにし

た。

 昼食後の作業は思いの他はかどった。心なしか箱の量がいつもより少ない気がする。つ

いに箱の流れが途切れた。いまだ、と思いアメリアは光る壁に侵入を試みた。途端、全身

に鋭い痛みが走る。まるで鞭打たれたらように間断無く激痛が走るのだ。

 それでもアメリアは耐えた。軍での過酷な訓練を思い出し、歯を食いしばる。すると急

に嘘のように痛みがやんだ。それとともに閉ざされていた視界がぱっと明るくなった。そ

れで見えてきたのは星空だった。

 それが何を意味するのか悟ってアメリアはぎょっとなった。自分は宇宙空間に浮かんで

いるのだ。まわりは星々で埋め尽くされている。しかし呼吸はできた。空気があるのか。

見ると確かに星々は瞬いている。

 アメリアは何が起こったのか分からず、茫然とあたりを見回していた。すると頭に何か

がこつんとぶつかった。振り向いて確かめてみるとあの箱だった。アメリアが横にずれる

と箱はすーっと飛んでいった。その先を見晴るかすと箱の列が目路の限り連なっていた。

あれらはどこに向かっているのだろう。

 アメリアは体を傾けた。するとその方向へ滑るように体が進んでいった。これは便利だ。

アメリアは箱のあとを追った。

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