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「ルー④」

 わたしが泣きやむまで、渚はずっと待っていてくれた。

 隣に座り込んで、無駄に言葉をかけることなく、ただじっと。


 その気遣いはありがたかったが、同時に自分をみじめだとも感じた。

 後輩に、しかもライバルに気を使われるだなんて、なんて哀れな女なのだと。


 だけど、だからこそ──

 ここは意地でも、シャンとして見せる──


「落ち着きましたか?」


 わたしの涙が乾き気持ちが落ち着き、覚悟が固まったのを見計らって、渚が声をかけてきた。


「それじゃあ、そろそろ行きましょうか。あまり先輩を心配させるのも問題なので」


 渚はすっくと立ち上がると、わたしに手を差し伸べて来た。

 わたしが手を掴むと、驚くほど強い力で引き起こしてくれた。


「渚、今日のことは秘密にして欲しい」


「……秘密、というと?」


「我がグインを好きなこと。ずっと告白しようとしていたけれど、なかなかタイミングが掴めずにヤキモキしていたこと。ふたりがつき合っているのがショックで、嫉妬で身を焦がすようにしていたこと」


「……先輩への気持ちを押し込めるという意味ですか?」


 意外そうな顔で渚。


「そうだ」

 

 わたしは迷わず答えた。


「今ここで告白したところで、結果は見えている。奇跡は起こらず、わかりきった敗北だけが待っている。だったら言わないほうがいい。ただ単に『びっくりして逃げ出してしまった』と処理すれば、明日からは普通でいられる。今まで通り、友達でいられる」


 多少はギクシャクするかもしれない。

 でもきっと、そのほうがマシだ。

 告白して、玉砕して、友達でいられなくなるよりもよっぽど。


「あなたがそれでいいのなら……」


 何かを言いかけて、渚はかぶりを振った。


「いいえ、ごめんなさい。わたし、またウソをつくところでした。ホントは今、ほっとしたんです。ここであなたに告白されて、万が一にも先輩が心変わりしたら……そう思って、ほっとしました」


 渚はわたしから距離を取ると、後ろで手を組んで振り返った。


「ごめんなさい、わたし、ずるい女なので」


 そう言うと、ニヤリ口元を歪めた。


 まるでアニメや漫画に出て来る悪役のような……いや、実際に彼女はそう振る舞っているのだ。

 悪を装うことでわたしの敵愾心を煽って、生きる活力にさせようとしているのだ。

 わざと傷つけることで心の復元力レジエンスを高めるというか、ある種の逆療法に近いものだ。


「知ってる」


「おや、知っていましたか」


「ずるくない女なんて、この世にいないから」

  

 そしてそれは、わたしも同じ。 


「ちなみに勘違いしているようだが、我はまだ諦めていない」

 

 この場は退くが、それは永遠ではない。

 戦術的撤退であって、恒久的な敗北ではない。


「中学生でつき合った者同士がそのまま結婚、なんてなかなかある話じゃない。ましてや渚はことのほか面倒な女だし、だったら別れる可能性は十分にある。我はそれまで辛抱強くグインにつきまとうだけ。そして隙を見つけ次第横からガブリと噛みついてかっさらうのだ」


「ほう、なるほど、なるほど……」


 渚はわたしの言葉を噛みしめるようにうなずいた後──


「それはわたしに対する挑戦ですね? いいでしょう、受けて立ちましょう」


 眉をきりりと引き締め、こう言った。


「でも、侮らないでくださいね? わたしはあなたが思うよりもずっと強く、先輩の事を愛していますから。ぎゅっと掴んで、離しませんから」


「気持ちなら、我も負けない」


「上等です」


「ちなみに、ちひろも同じ気持ちだと思う」


「ちひろさんは実妹ですからね、もとから敵ではありません。むしろ将来のことを考えるなら、積極的に味方につけておきたい人材です」


「……むむ、もうそこまで計算済み?」  


「ええ、もちろん。わたしはずるくて、計算高い女なので。でも、そうですね……」


 渚は真っ赤な夕暮れを見上げると──


「その未来は、なんだか楽しそうです」


 心から嬉しそうに──

 そしてどこかほっとしたように──

 クスリと笑った。

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